263.執着の陰に〜レジルスside

「1人ではございませんわよ?

お手伝いのオネエ様もいらっしゃいますもの」

「……3人で、だと」


 お姉様、だと?!

何の手伝いを受けるつもりだ?!


「ほうほう、お姉様。

それは私もぜひ見物したいものだ」


 ここでチャラチャラ興味津々でしかない興味心を隠しもせずに話に入ってくるな。

鼻の下が伸びているぞ、この変態。

見物など許すはずがない。


「……まあまあ、長らくの読者様……いえ、だからこそ駄目ですわね」

「……ウォートンを近づけないようにしたいなら、俺だけを連れて行く方がまだマシではないか?

もちろん俺は……校則に抵触しない限りは見守ると誓う」


 抵触した瞬間に問答無用で止めるつもりしかない。

この為にこそ俺は王子でいる意味があったに違いない。


「……はあ、わかりましたわ。

殿下だけでしたら」

「何ともつれない話だ」

「ウォートン、例の資料を作っておけ。

ついてくるのは許さない」

「何もそこまで殺気立たなくとも……わかったよ。

あまり長居しないようにしてくれたまえよ」


 苦笑しつつも公女にウインクを投げつけるとは良い度胸だな。

戻ったら仕事を追加してやる。


「それでは行こう……」


 そう言って手を差し出せば、遮るように雹が降ってきた。


「あらあら、まだ色々不安定ですのね。

エスコートは結構でしてよ」

「……そうか」


 大多数に見せる微笑みを向けながら、頭の亀鼠を腕に抱え直して馬車停めへとさっさと向かい始めた。


 こちらを見た派手な奴は……随分と嬉しそうにほくそ笑んでいる。


 チッ……。


 生まれたての子供だろうが、性別がどうだろうが、聖獣だろうが、大人げなかろうが、関係ない。

俺の公女への執着は過去に魔法呪となったせいか、それとも本来の気質かはわからないが、自分でも自覚するくらいには酷い。


 だが長年愚弟に縛りつけられてきたのだ。


 まあ色々と拒否して徹底した逃げの姿勢を貫いてきたからそこそこ自由を満喫はしていたようだが。


 それでもあの愚か者は言葉でも態度でも傷つけ、貶めてきたのには間違いない。


 俺がもっと早く婚約を申し出ていればと悔やまれる。


 だが俺を救ったあの幼女の存在が恐らく父親の魔法師団長によって秘匿されていたせいで誰なのか、王子としての地位が傾きかけていたのもあって情報を集めるのに時間がかかった。


 加えて俺は明らかに呪われ、命を狙われていた以上、ロブール家の公女だとわかっても簡単に接触するわけにはいかなかった。


 王座に興味があるわけではないが、そのせいで俺自身が第2王子である異母弟の勢力から命を狙われかねない事態になっていたからだ。

下手に関わって俺が原因で公女に何かあれば、もう生きる理由が無くなりそうで怖くなったのもある。


 だから公女が10歳となる時に婚約を打診できる状態にする事を目標に再び努力した。

腹黒く策略を巡らせる事もこの頃に覚えた。

ウォートンを使いつつ、公女の兄のミハイルに接触し始めたのもこの頃だ。


 そうこうしているうちに、まさか8歳であの異母弟と婚約するなんて思いもしなかった。

人気ひとけのない学園の廊下ですれ違う度に拐ってどこかへ閉じこめようと何度葛藤したことか。


 あの側妃が何故そこまで事を急いだのかわからないが、表向きは王妃である母との仲も悪くなく、息子への王位継承にも積極的なわけではない。


 だがあの公女にだけは執着しているのも間違いないと弟との婚約解消の際に確信した。


 ただ俺の急いだ婚約の打診を笑顔で断った彼女は、婚約が流れてから更にのびのびと生活を始めている。

そんな彼女を、そして恐らくは彼女がロブール家に産まれる以前のある者を内に存在させているかもしれないと狐の聖獣の名を聞いた時に直感したからこそ、彼女を縛るわけにはいかない。


 本心は別だが……どこまで耐えられるんだろうか……。


「こちらの馬車にお乗りになりますか?」

「ああ、できればそうしたいが、駄目か?」

「……いいえ」


 いつもの微笑みを浮かべて了承する公女の使う馬車に乗せてもらおうとした時だ。


「お、お待ち下さいませ!」


 1人の女官が駆けてきた。

肩で息をしているから、かなり慌てて来たのだろう。

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