262.職権乱用〜レジルスside
「ウォートンか。
放っておくと……」
「はっ、俺は……イテテ」
執務室にいた時に突然玩具を見つけたような顔をして、暫くすると嬉々として退出したと思えば……このチャラ男め。
頭からそれとなく血を流しているが、知らん。
恐らく彼女の頭に陣取っている、全体的に赤基調の派手な亀鼠が奴を敵視して雹で撲殺しようとしたのだろう。
俺を差し置いて公女に会ったのだ。
もう少し黙って地に沈んでいれば良いものを。
亀鼠は亀鼠で公女から見えていないのを良い事に俺を睨んでいる。
姿は魔法で隠しているが、1度見つけてしまえばまだ拙い魔法操作だ。
見る事は俺には容易い。
しかし俺が王族で奴が聖獣だからじゃない。
あれは独占欲からくる敵視。
つまり俺と同類の眼差し。
俺達は惚れた者を奪い合う熾烈な敵対関係なのだ。
あの桃金の柔らかく艶のある頭の所有権を巡って対立する狐と竜の聖獣達ともそんな関係だ。
もちろん彼らは悲劇の王女と契約していた聖獣だから、それだけでないのはわかっているが、少なくとも俺にはそれ以外の同類からくる敵視も混ざっている。
話したのは公女が倒れて眠っていた間の少しの時間だったが、すぐにわかった。
「気がつかれまして?
雹が降ってきたみたいですわ。
頭は平気でして?」
「あ、ああ……雹?」
それにしても亀鼠は何故証拠が残る雹にした。
まだ暖かいのに時期外れもいいところだ。
チャラ男が公女を訝しんでいるだろうが。
この下手くそが。
「ええ、雹。
天災って怖いですわね。
王子、血が出てらっしゃるので手当て……」
チッ。
チャラ男を気にしてやるとは、相変わらず優しすぎて心配になる。
魔法でサッと表面だけ雑に閉じて血止めだけしてやる。
職務放棄して俺の想い人をチャラチャラ口説いた側近なぞそれで十分だ。
抗議の眼差しなど知らん。
後で内出血するだろうから針で刺して血抜きでもしろ。
「もう治した。
この後の予定は?」
「先ほど騎士団長に発注した者を早速捕りに行こうかと」
「……何となく何かが響きと違う気がするが、どこに取りに行くのだ?」
それまでのすました淑女の微笑みが僅かに変化してどことなく浮ついた感情をキャッチする。
嫌な予感しかしない。
「学園の男子寮まで」
「……何を?」
「ヘインズ=アッシェを」
「……何故」
理解に幾らか時間がかかるも、発注したのが俺もよく知る
「ふふふ、慰謝料代わりに体を使って奉仕していただくんですのよ」
うっとりした顔で……何、を……体を使って……奉仕?!
後ろの側近が興味津々だな。
あいつ消すか。
ドス黒い感情が胸を占めていくが、あまり感情を外に出さないでいられるのは王子教育の賜物だろうか。
「……俺では駄目なのか?」
俺ならいくらでも奉仕する。
どうか俺だけにして欲しい。
縋る気持ちで聞いてみるも、予想通り怪訝な顔つきが返ってくるだけ。
俺の顔はあまり変化しないようで、切実さが伝わり難いのがもどかしい。
「……殿下にいただく慰謝料は元々ございませんわよね?
それにそもそも駄目でしてよ。
何があっても絶対服従でどんな要望にも応えていただくドM気質でなければ、私の要望には応えられない可能性が十二分にございますの。
それに恐れ多いのですが……殿下では技術的にも力不足かと」
「……ヘインズならばそれができると?」
遠慮がちに性癖をかなりあけすけに語られてしまうが、後ろでニヤニヤ笑い始めたあいつからそろそろ消しにかかるか?
それよりも、先に公女の満足度を満たせる技術を学ぶべきなのか。
「既にその片鱗は確認しております。
後は少し仕込めば、ふふふ。
きっと私を夢心地にしていただけるクオリティに仕上がると確信しております!」
何だと……まさか既に試し済みだったのか?!
清々しい笑顔でナニをどうやって確信した?!
「くっ……いや、しかし男子寮に女生徒が1人で入りこむなどと知ったからには……そう、学園での職務上看過できない。
俺もついて行く」
ド黒く嫉妬に歪みきる感情を何とか胸に抑えこみ、かくなる上は職権乱用で邪魔するしかない!
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