256.敬意と礼
「ラビ」
「……ええ」
輝きを失ったリアちゃんは私を呼んで振り向いた。
羽根には艶が無くなって、くすんだ赤に変わっている。
あちら側のディアナに目をやれば、白灰色だった甲羅や体毛がそれとなく朱色を纏ったわ。
疲れたのかしら。
意識を手放してしまっているみたい。
「リアちゃん。
本当にいいのね?」
「ああ、もちろんだよ。
仕上げをしよう」
「……そう……そうね」
火の魔法陣を完全に動かしてしまえば、リアちゃんは……。
だからその前に。
「聖獣ヴァミリア」
右膝と左手の拳を地に着けて腰を落とし、右手を左胸に当てて頭を垂れる。
聖獣の契約者が自身の契約した聖獣が次代に役目を託し、生を終えようした時に示す最上位の敬意を示す礼。
見守る王子とお父様も私が膝を着いてすぐ、何かを察したのか私と
目上の者への礼であるなら、この2人の姿勢が正しいわ。
「遥かなる祖先から我らの代まで与え続けて頂いた長きに渡る恩愛に、信頼に、何より共に過ごせた事に心より感謝を」
「……ああ。
私の方こそ楽しかったよ。
ありがとう」
目の前に近づいたリアちゃんを膝立ちになって抱きしめる。
「願わくば、今の私が生きているうちにまた……輪廻を手繰り寄せて逢いましょう、リアちゃん」
「もちろんだよ、ラビ」
「私、リアちゃんと早く会えるように頑張るわ」
「ああ、私も」
ひとまずの別れだからと気持ちを納得させるのに時間を少し使い、立ち上がった。
「ヴァミリア・ラビ」
契約者として、自らの名の一部を与えた正式な名を呼ぶ。
「最初で最後の命令よ。
命の炎を燃やし、次代ディアナへ私と共に祝福を与えなさい」
元々の適性度が低い火属性の魔法陣を使って未熟な魔獣を聖獣へと昇華させるには、後付けの努力だけではどうしても質の面で足りないの。
だからその属性に特化した聖獣に補ってもらわなければならない。
魔法陣が私のものである以上、これにはどうしても命令という形で親和性を高めた力でないと補いきれない。
命令なんて一生しないと思っていたのに……。
「もちろんさ。
ラビアンジェ……私の最期の主。
私の愛を受け取りな!」
言うが早いか鳥の姿が揺らいで一瞬にして炎鳥へと変わり、魔法陣が炎に彩られる。
炎は決して熱くないし、私達に燃え移る事もないわ。
リアちゃんの羽毛に包まれたように、ただ温かいの。
意識のないディアナの脇に手を入れて持ち上げれば、朱銀に光る魔法陣が炎鳥と共に激しく燃えて煌めき、姿が消えると紋を通じて吸収された。
「…………火の祝福を……ディアナに」
聖獣のフォローがあっても、適性度の低かった属性の魔力の質を底上げしつつ大きく動かすのには予想以上に体に負荷がかかるのね。
息も絶え絶えってこんな感じかしら。
言葉を発するのもなかなかきつい。
それに……聖獣との契約が途切れた喪失感に感情が大きく乱れそうになる。
「「ラビアンジェ」」
……そうね、わかっているわ。
警告するように聖獣ちゃん達にフルネームで呼ばれ、深呼吸して落ち着ける。
ここで気を抜くわけにはいかない。
あと1つ魔法陣が残っているし、何よりこれまでと違ってすぐに馴染まないらしい魔力をこの子の内に感じ取る。
この子は土属性の魔力が強いわ。
だから火の祝福を直前に与えて起爆剤にできるよう馴染ませてから、最後に土の祝福をもってリアちゃんから受け取った聖獣の力と共に昇華させないと聖獣にはなれない。
ギュッと抱きしめ、小さな体に私の魔力を薄く纏わせて外側から干渉しつつ馴染ませていく。
「ラビアンジェ?」
リアちゃん効果かしら?
しばらくして馴染んだと感じた途端、人の言葉で呼ばれたわ。
幼くてあどけない声はとっても愛らしいのね。
「おはよう、ディアナ」
「おはよう。
あのね、ディアナは……ディアはずっとラビアンジェといっしょにいるよ。
いい?」
「もちろんよ。
私の事はラビと呼んでちょうだい、ディア」
「よかった!
リアおばさんもいつかもどるから、たのしみにしててっていってたよ!
だからね、ラビがさみしいの、わたしがうめるの!」
そう言うとディアは伸び上がって私の頬に顔をスリスリしてきたの。
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