249.冒涜と寿命

「数ヶ月前、この学園の合同訓練に使う転移陣を書き換え、エンリケという元ニルティ家の公子をそそのかしてあのグループを蠱毒の箱庭に追いやったのもお前がやったのか?」

「そうよ。

シエナもちょうど義姉の死を明確に望んだし、邪魔な婚約者を排除して第2王子の婚約者になれば、いえ、いっそさっさと一線を越えてくれれば、都合の良い申し子を一から作れるかと思ったのだけれど……。

でも今はもういいわ」


 くすくすと笑い始めるのと同時に、何だか突然存在感が薄らいだ?


「次代の聖獣候補の可能性を潰せたもの。

まだ自我のしっかりしない、ただ生きる事に貪欲で、体には強力な魔力を宿した無知で無垢な魔獣は魔法呪として最適な依り代の入れ物だったから残念だけれど。

あの王女亡き今、邪魔なのは聖獣。

あんな目にあい続けた一生だったのに堕ちもせず、最期に全ての聖獣の契約を破棄させて味方につけた挙げ句、つまらない願いを聖獣に託して逝ってしまうのだからとんだ食わせ者だったわ。

けれどどれか一匹でも欠ければいずれは、ね。

面倒な相手には気長にいく主義なの。

時間はたっぷりあるもの」


 そう言うと胸のあたりまで光の粒子で固まっていた体がサラリと風化するようにかき消えた。


「逃げられたのか?」

「元より本体ではなかったらしい」


 そう言いながらお父様が魔方陣を消して近寄って何かを拾ったわ。

騎士団長もすぐ後に続いてお父様の手元を覗きこむ。


 遠目には糸に見えるわね?

恐らくあの糸に魔力を纏わせる事でより本物に見えるような変わり身を作って動かしていたのね。


 ……でも待って……違う……色が薄桃色に銀の入った……あれは……。


「それは?」

「毛髪だ」

「この色……」


 2人の顔色もいくらか変わる。


 毛、髪……まさか……。


 ふと頭に振動を感じる。

怒りで震えているのはもちろんリアちゃん。


 そうね……死んでからもベルジャンヌをここまで冒涜し続けていたなんて。


『ラビ』

『……なあに、リアちゃん』


 それよりもリアちゃん?

あなた…………何を決心したの?

そんな口調はやめて欲しいわ。


『わかっているんだろう?』

『……わからなくはないこともないかもしれないけれど、リアちゃんがそこまでしなくても……』


 腕のアルマジロちゃんはあまり動かなくなってきたけれど、それでもやっぱり生きたいと望む切実な声は紋を通して繋がる今の状態では聞こえてきてしまう。


『アレはあの時の悪魔の欠片だ。

恐らくあの時切られたベルジャンヌの髪を使って悪魔が仮に宿れるような体を作ったんだ。

ベルジャンヌの魔力を宿した髪ならできない事もなかったんだろうね。

やらかしたのは十中八九、あの女だ。

第2の申し子とやらもきっとそうなんだろう。

私達聖獣全員が王家から手を引いたがばっかりに見落としてしまった。

ごめんよ、ラビ。

こんなの……死者への冒涜だよ』

『リアちゃん達が悪いわけじゃないわ。

悪いのはあの王妃なんだもの。

それに私はこうして転生してここにいるわ』


 だから妙な責任感なんて発揮しないで欲しいの。


『だけど姿を現したんなら、大方別に何かしらの手を打ってんのは間違いないよ。

それに全てにおいて真実を話したとも思えない。

何かを隠すのに出せる真実を話すのも悪魔の常套手段だろう?

悪魔の時間の進みは私達とよく似ている。

あの悪魔にとっちゃ100年後も200年後も大した時間じゃない。

だけどラビの時間はどんだけ長くたって今のような力も体力も100年と保ち続けられない』

『それは……まあ否定しないわ』


 前世でも40才近くでガクンと体力が落ちたし、80才あたりからは病気もしやすくなったもの。


『私が寿命を迎える時に次代の聖獣がこれ以上減っちまうのは良くないだろう?』

『それでもまだ100年かそこらへんは……』


 最近眠る事が増えていたのはリアちゃんの寿命の期限が少しずつ近づいていたからだって気づいていたわ。

最古の聖獣だし、十分長生きしているとは思う。

けれど元来聖獣としての寿命は長いものよ。

私の寿命と同じくらいは生きられると思っていたのに……。

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