213.彼岸花

「ちょっと狐!

ラビの脳みそが揺れるだろう!

これ以上ポケポケして鈍感力が跳ね上がったらどうするんだい!」

「ふん!」


 これ以上って、そんなにポケポケした事なかったはずだけれど、どういう事かしら?


 でも私の肩に止まり直したリアちゃんはなんて可愛いの!

可愛いは正義ね!


 そこで叫ばれるとお耳がちょっぴりキーンてするけど、そんな事どうでも良くなるわ。


「ああ、シエナをどうするかだったかしらね。

ギリギリまでは見極めるけれど……」

「結果はわかっている、かい?」


 言い淀めばリアちゃんが続きを口に出すのだもの。

苦笑してしまうじゃない。


「そうね。

今後もあの子がロブール家にいる以上、あの性格が助長する事はあっても、変わる事は無いでしょうね。

加えて今回は……」


 どうにかできないかと、少しばかり思案する。

けれど……。


「そうね、やっぱり難しいでしょうね」


 ため息が出てしまうわ。


「お父様にも今回の件はいずれ伝わるでしょうし、そうすれば調べて正解に辿り着くもの。

せめてあのマーキング紋が無ければまだ誤魔化せたかもしれないけれど、よりによって赤のリコリス。

王家は単なる愉快犯で済ませないんじゃないかしら」

「でもあいつの白のリコリスも見られたみたいだよ?」


 キャスちゃんにお願いして様子を見てもらっていた愉快な仲間達が、お知らせしてくれたの。


 ワンコ君たら身体強化もせずに服を搔き破ったのですってね。

騎士を目指していただけに、馬鹿力なのはさすがと言うべきかしら?


「そこはほら、聖獣ちゃん達以外で知る人なんてあまりいないでしょう。

それにワンコ君が気を失ったのなら、すぐに消えたはずよ?」


 今は誓約紋の発動も感じられないし。


「ベルの本当の花は白のリコリスなのに。

王家の奴ら、やっぱり大嫌いだ。

禿げの呪いでもかけてやろうか」

「面白そうだけれど、やめてあげて?

今の世代のせいでもないでしょうし、仕方ないわ。

それにリコリスと聞いて真っ先に思い浮かぶのは赤だし、ベルジャンヌだった時にそれを見越して私の印章をリコリスにしたのだもの」


 リコリス……前世の記憶があるからか今では彼岸花の方が馴染みがあるわ。

前々世ではまだ赤い彼岸花しか東方からは入ってきていなかったの。

でもたまたま白色もあるって聞いて、花言葉を調べた。


 こちらの世界とあちらの世界って名前が被っている事が多いのだけれど、彼岸花もそうよ。


 赤の花言葉はこちらではとにかく死を連想する物が多いの。

ベルジャンヌ没後に稀代の悪女ってワードが追加されたのには笑ってしまったけれど。


 逆に白の花言葉はポジティブよ。

そうね、あちらの世界での黄色やオレンジ色の花言葉を足した物が多いかしら。


 当時もだけれど今世に至る現在まで、この世界で黄色やオレンジ色は見つかっていないわ。

赤と白だけで、白は未だに知る人が少ない希少色なの。


「お祖父様も四大公爵家であるロブール家に事が及ぶとなれば、今度こそ切り捨てるわ。

家格君と同じね。

それよりシエナの養子入りの経緯はわかったかしら?」


 私の肩を止まり木にしているリアちゃんに、ほっぺスリスリしながら聞いてみる。


 ふわふわな羽毛、最高か!


「ああ、シャローナを気にかけるように言ってあった眷族達に聞いてきたよ。

何年も前だったけど、珍しく祖父母で口論になったから覚えてたんだってさ。

何でもラビ父からの知らせを受け取ったシャローナが、亡くなった息子の子供を見捨てられなくてソビエッシュに引き取りを頼んだらしい。

だけどソビエッシュはあくまで駆け落ちして除籍した息子の子供だから認められないと突っぱねたんだ。

それで今度はラビ父に頼んで、魔力がそれなりに強いならって事で調べたらラビ父の合格基準に達したらしい」

「そう……随分と甘い審査基準ね?」


 思わず首を捻ってしまったわ。


 平民の中でなら、かなり魔力があるのは間違いないわ。

でも血筋に宿る魔力を維持する為に政略結婚をしてきた四大公爵家の子供と比べれば、見劣りするレベルなの。


 もちろん表向きの私とは比べちゃ駄目よ。

ほら、私のレーベルってば魔力が平民レベルの無才無能な逃走公女でしょ?

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