196.悲劇のヒロイン劇場
「お兄様!
違いますわ!」
私が口を開く前に、これまで通りシエナが叫ぶ。
このやり取りもお久しぶりね。
悲劇のヒロイン劇場の開催が懐かしく感じるのだから不思議。
こうして時間を置いて改めて開かれると、これが私達3兄妹のコミュニケーションだったのねと、何だかほっこりしみじみしちゃう。
「何が違う?」
ゆっくりと斜め後ろを振り返れば、眉を
そしてその隣には黒銀の髪に父親譲りの朱色の瞳をした、今は全学年主任でもある第1王子殿下。
相変わらず不遜に無表情。
いえ、いくらか呆れているのかしら?
彼がこっそり保険医をしてた頃、彼の異母弟に怪我を負わされた私に向けた事のあるお顔ね。
でもそんな事よりも視界の端に映るマリーちゃんよ。
とてつもなく不安なお顔でオロオロしているけれど、いくらここが学園でもマリーちゃんは平民。
王族と四大公爵家の子息令嬢ばかりだもの。
割りこむなんて自殺行為はできないわ。
そうね、これまで通りならお兄様は義妹の言葉をあの子の思惑通りに反対の意味に取って、まずは私を責めるもの。
バイト先のオーナーの娘さんだったよしみからか、私に好意を寄せてくれるマリーちゃんが心配するのも頷ける。
「お義姉様は悪くないの。
私が無理にお義姉様の手を掴んでしまったから……それで……」
相変わらず綺麗に涙を流すのね。
お久しぶりなだけに感動しちゃう。
もしかして将来は女優さんになりたいの?
「それで?」
「え……あ、その……振り払われて壁にぶつかっただけ、で……」
あらあら、お兄様ったらとっても冷静に先を促すわ。
いつもと違うやり取りに、あの子の声が戸惑いながら小さくなっていく。
「ラビアンジェ」
「はい」
「本当か?」
「いい……」
「お義姉様!
お義姉様が力任せに振り払ってしまったのも、私のせいなの!
壁にぶけられたのも!
だから……お義姉様が私を嫌っていても、全て私が悪いってわかっているわ!」
遮って早口で捲し立てられるのだけれど、よく噛まずにそれだけ喋れるなと、ある意味尊敬しそう。
もちろん全てシエナが悪いのにも同意するわ。
「シエナ、私はラビアンジェに聞いている。
黙っていなさい」
「……ぁ……」
あらあら、お兄様の不機嫌オーラが冷たいお怒りオーラに変わってしまったのね。
この子、これまでまともにその手の怒りをぶつけられた事が無かったのかしら?
元々いくらか悪かった顔色が、更に悪くなってうつむいてしまったの。
慣れって大事だから、これを機に訓練してみてもいいんじゃないかしらね。
「ラビアンジェ、どうなんだ?」
「いいえ、振り払ってはいないわ」
まあまあ、言った途端に私に向けたお顔がとっても残念。
私だけなら良いのだけれど、その角度は後ろのマリーちゃんにモロ見えしていてよ?
それとなく見やれば……待って、マリーちゃん。
何だか憤怒のお顔で腕まくりしてこちらに来ようとしていない?!
このお休み中に就職したらしい若い見習い君が颯爽と現れて、後ろから羽交い締めにして止めているわ。
まずいわね。
正義感溢れるSクラス給仕オバサンが殴りこみに来ちゃう?!
「シエナが私の手を掴んだ途端によろけてぶつかったみたいね。
顔色が悪いから、体調が思わしくないのでは?
私とシエナではお話の主観が違いますし、どちらが正しいかの証拠もございませんの」
あらあら?
マリーちゃんの為とはいえ、一応庇ってあげているのだから、全部お前が悪いんだろうみたいな責任転嫁が推察できるお顔で睨むのは止めなさい、シエナ。
これはさっさとお引取り願うしかないわね。
「シエナも体調不良から冷静でいられないようですし、お2人で保健室に運んで下さる?
私が運んでも良いのだけれど、今は2人きりにならない方がお兄様も安心でしょう?」
「……お前はそれで良いのか?
私達も見ていたが、先ほどのあれは……」
「左様ですわね」
恐らく一昨日の夜の遺体遺棄疑惑をかけられた時にも感じたけれど、お兄様はもう私への色眼鏡を外してくれているのでしょうね。
客観的に現場状況を把握できるようになって何よりよ。
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