192.アメンボスイスイ

「あら。

ありがとう、リアちゃん」


 小説を明るめの光に照らしながら読み始めたのを見届けて、亜空間収納から靴底を取り出す。

そのままペタリと靴裏に装着するわ。

形はインナーソールみたいな薄っぺらいやつよ。


 そのまま川に足を踏み入れようとすれば、日が沈みかけてかなり薄暗くなったのがオカン気質なせいか気になったのね。


 ひゃ~、きゃ〜、んぐっふふふ、なんていう奇声……嬌声?が聞こえ始めた方向から、優しいオレンジ色のライトボールを投げてくれたわ。


 私の足元に浮かんで優しく照らしてくれる。


 もちろん水の中には入らないわよ?


 ペタリと貼りつけた靴裏は、虫型魔獣であるアメンボの脚髭を加工してあるの。


 自分の体重はいくらか重力操作で軽くしないと沈むのだけど、これによってアメンボのようにスイスイと水面を移動できるわ。


 こちらのアメンボは私より少しだけ低めの背丈だから、間近に見るとなかなかの大迫力ね。


 大きさは違うけれどあちらの世界と姿形も、肉食なのも同じだから、捕まると体に針を刺されて中身を吸われるの。

注意してね。

 

 水面に浮く理由は水の中に入るとお魚の魔獣に噛じられてしまうかもしれないから。


 もちろん今もリアちゃんの威圧はずっと続いているから、浮いていれば飛び跳ねてまで狙う事はないでしょうけど、水の中は彼らのテリトリーになるから別みたい。


「せえの!」


 スイスイと近寄って、かけ声と共に虫取り網をゴルフスイングしてまずは1匹掬う。


 植物型魔獣は威圧効果のないワサ・ビーのようなタイプも多くて、最初の1株は大抵問題なくゲットできるわ。


 その後ね。


 今までその場で浮いていた魔獣達が、スーッと氷の上を滑るかのように散り散りに四方へ逃げ始めたの。


 網の中の魔獣は空中でスナップを利かせて投げ捨て、そのまま亜空間にイン。


 また水面をスイスイと滑って近寄り、ゴルフスイングで掬って、投げて、イン。


 それを数回繰り返せば、四方へ散るスピードが増していく。


 徒歩滑りから小走り滑り、小走り滑りから風魔法でスピードを制御しつつスケート走行して、最後はスピードスケーターもびっくりな全力疾走で追いかけては、本気スイングからのインを50回ほど繰り返したの。


 人気のない山の奥地とはいっても、さすがに夏にこれだけ動くとかなりの汗をかくわね。


 辺りはすっかり暗くなってしまったわ。


 水面から砂利の上に戻って自分も持ち物全てに洗浄魔法をかけて汗も汚れも綺麗に除去。

うん、スッキリ。


 靴裏からペリペリ靴底を剥がして、網と一緒にぽいぽいっと亜空間に収納すれば、ずっとついてきてた足元のライトボールが消える。


 すぐにバサバサッと羽音をさせて読書用ライトボールを伴ったリアちゃんが私の頭に再び鎮座したわ。


「思ったより時間がかかったね。

お陰で小説が全部読めたよ」


 そう言ってクチバシに挟んで上から紙束を差し出すから、受け取ってこれも収納ね。


「例のエコなラップの予備も作りたかったから、いつもより多く捕獲していたの。

楽しめたようで何よりよ」

「ふぇふぇふぇ。

大奥シリーズの中でも乱デ舞ランデブーシリーズはたまんないよ」


 まだ興奮冷めやらぬ変た……高揚した笑いに微笑みを返しておくわ。


「楽しんでもらえたようで良かったわ。

いつもの18禁仲間にネタバレしておいて」

「アイツは私の反応とネタバレさせて内容確認して読むかどうかを決めるからね。

わかったよ。

それじゃあ、そろそろ帰るかい」

「そうね。

今日はいつもより暑いから、早く戻らないとラグちゃんにお願いして凍らせてるはずのお肉が解凍されちゃうわ。

ログハウスの裏手の用具入れに転移してもらえる?

滅多に使わなくて仕舞いこんだ大鍋を取り出しておきたいの」

「任せな」


 そう言って来た時と同じように翼を広げたリアちゃんが私の頭を羽で挟むようにバサリと羽ばたけば、瞬く間に用具入れの前。


 やっぱりド派手な衣装を思い出すわ。


 特注の大鍋を奥から引っ張り出して表に回れば、前触れなく頭上のオカン鳥がいなくなったの。


「ラビアンジェ?」


 一瞬遅れて、お兄様が門扉の向こうから声をかけてきたわ。

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