190.ラップと力持ち

「…………そう。

何だか面倒臭そうだから、ご飯も食べ終わったし、お肉を受け取ったらおいとまするわ。

お兄様と第1王子殿下がいらっしゃるなら、何か起きても対処するでしょうし」

「そうね。

公女は関わらない方が良いでしょうね」


 昔はログハウスの天井を間借りして同居してた王家の影さんも同意してくれるわ。

従妹で義妹のシエナを良くも悪くも理解しているのよ。


「婚約者がいなくなっても男女で寮の部屋に行くのはどうかと思うから私も付き添うけど、いいでしょう?」

「もちろんだ」


 ガルフィさんは気遣いのできるオネエ様なの。

ラルフ君も硬派だから、そういうところは気にしてくれ……。


『でも実際には男2人に女1人だよ。

そこらへんは問題ないのかい?

考えようによっちゃ乱痴気パーティーだ』

『……』


 リアちゃん……色々残念よ。

私のエロス系18禁小説に毒されすぎじゃないかしら……。


「ありがとう、2人共。

早速行きましょう」

「「ああ(ええ)」」


 リアちゃんは無視してバケツに蓋をするわ。


 鞄をごそごそ漁って繰り返し使える伸縮素材のエコなラップを取り出し、伸ばしてペタっと蓋をする。

ちゃんとくっつく素材になっているのよ。


 主成分はアメーバ。

最近完成したの。

抗菌作用も持たせてあるから、おすすめね。


 この世界に保存用ラップがなくて不便だったから、試行錯誤して作っていて良かったわ。


 蠱毒の箱庭から帰還後に過保護化したお兄様が心配症を発症したせいで、暫くログハウスで監禁状態になったでしょう?


 あまりにも暇すぎて、作ってしまった作品の1つなの。


「その便利そうな代物は何?」


 新しもの好きなオネエ様は、何だか好奇心の抑えられない子猫ちゃんみたい。

美人さんのそういうお顔って、いつもより可愛らしく感じるから不思議。


「繰り返し使える……布みたいなものよ。

こんな風に蓋にもなるし、食材を包んだりもできて便利なの。

逆さにしても……ほら、落ちないでしょう。

粉末にしたワサ・ビーの粉と、香りを飛ばしたハーブオイルも混ぜたから、衛生的で乾燥も防ぐわ」


 ワサ・ビーは植物型魔獣に分類されていて、前世のあのツンとくる、日本食文化に欠かせないワサビと色形や生息地、効能はほぼ同じよ。


 普段は清流にぷかぷか浮いてるけど、白い花が咲いて種が育つと葉っぱの部分をバサバサして飛ぶの。

食べ頃は花が咲いた時ね。

種ができると栄養がそっちに取られて、えぐい食べ物になっちゃう。


 あちらの世界と違うのは、下の部分が蜂のお尻みたいにくびれている事よ。


 でも前世の記憶を持つ私には、形の悪い某植物が葉っぱをバサバサして飛んでいるようにしか見えないわ。


 水から栄養を取るみたいで、肉食じゃないから虫取り網でも捕獲できるのよ。


「何それ!

欲しい!

素材とか渡すから、私のも作って!」

「俺も……」


 食い気味、遠慮気味の違いはあるけれど、予想通りの反応ね。

ちょうど良いわ。


「耐久性なんかはまだわからないの。

暫く使って使用感を教えてもらえれば、それで良いわ」

「やった!」


 いざとなったら巨大ムカデのウゴウゴやお肉の腐臭はなんのその、とばかりに食べては主に体調的な意味で状況を悪化させる王家の影さんは心底嬉しそう。


 うちの寡黙なリーダーはコクコク首を縦に振って、前世の動物が首を振る郷土人形みたいでちょっと可愛らしいわ。


 そうして空になったお皿を各々手にし、返却口に立つマリーちゃんにご馳走様を言って食堂を後にする。


 そうそう、ラップを見たマリーちゃんも欲しがったから、同じように言っておいたわ。


 プリンのお礼に大きめサイズを作ってあげましょうか。


 実家では大鍋で料理を作るものね。

このラップはある程度の耐熱性もあるのよ。


「それじゃあ、明後日にはお肉とラップを持ってくるわ」

「ああ、頼む」

「ラルフ君またね。

今度会ったらデートしましょ」

「……」


 私には頷き、お肉の入った大きな袋を左肩にワイルドに担いでウインク&投げキッスをお見舞いしたオネエ様には無言で手を振ったラルフ君とは男子寮の出入り口でお別れね。


 お肉はバラしたとはいえ兎熊ほぼ1頭分だったの。

前世の世界の子熊サイズくらいだから、ガルフィさんがいて良かったわ。


 外見は美人さんでも、実際は並みの成人男性より力持ちなんだもの。

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