182.照れるオカン鳥
「狐も蛇もいつまで経ってもいじけてるから王都中がじめじめして、そのうちキノコの群生地帯にでもなるかと思ったよ」
まあまあ、当時を思い出したのかリアちゃんてば渋いお顔になってしまったわ。
「そうねえ、あの時は顔を合わせればキャスちゃんは前世で変態が取り憑いたってぽろぽろ泣くし、ラグちゃんは呼んでも声だけで姿は雲隠れしっぱなしだったのよね」
でもリアちゃんがそうなるのもわかるわ。
まさかあんなに照れちゃうなんてびっくりよね。
数百年以上生きてる聖獣ちゃん達なのに、とっても
可愛らしいチャームポイントね。
「ずーっと長雨で、しまいにはどちらも私に寄りついてもくれなくなったから、あの時は幼心に寂しかったわ」
「眷族をざわつかせて天候に影響与えるなんて、まだまだ修行がたりないよ、まったく。
それにラビもラビだ。
あの時の小説は燃やしたように見せかけて、今でも大切に亜空間収納しているんだからね」
あらあら、何だか渋かったお顔がニヤリと歪んだわ。
「だってせっかく書いたんだもの。
同棲中のキャスちゃんの目を盗んでこっそり書いてるからスローペースだけど、新作もそろそろ書き終わるのよ?」
「ふっふっふ、お主もワルよのう」
「ほっほっほっ、時々しれっと用事を言いつけてここから遠ざけてくれる御代官様には負けますなあ」
お互い悪い顔を突き合わせるわ。
「「んっふぉっふぉっふぉっふぉっ」」
重なった悪い声がお部屋に響くけれど、もちろん今は防音対策もばっちり。
ついでにあの2人の気配はないから、きっとリアちゃんが何かしら用事を言いつけているんじゃないかしら?
「秘密厳守よ。
でないと次はあの2体のどちらかが、責任をもってこの世界から消去してしまうわ」
リアちゃんは比較的そういうお話にはオープン、というよりもむしろ大好きなの。
今世の私が産まれてからは落ち着いたと自己申告しているけれど、その真偽のほどは推して知るべしよね。
「もちろんだよ」
「新作はリアちゃんオーダー、あちらの世界の大奥が舞台よ」
「うちの愛し子の才能は称賛に値するね!
最初に読むのは私だよ!」
「ええ、そのつもりよ」
興奮して翼がパタパタ、尾っぽがふりふりしてて、まるで求愛ダンスね!
ああ、そのふわふわに柔らかいお腹の羽毛にほっぺをすりすり……。
「ちょっとラビ、鼻の下伸びてるよ!
いくらラビでも羽毛の堪能は遠慮しておくれよ!」
「な、なんと?!」
くっ、以前に1度許可をもらって以来、1度も下りなくなったの。
ああ、小鳥なお顔がスン、と真顔になったわ?!
何故?!
「話がそれたね。
あの蛇の時は本当に運が良かったのさ。
先代竜が奥方だったのはもちろん、ベルジャンヌの魔力量が原初の契約者並みだったんだからね。
そうでなきゃ契約者も、色々足りなかったあの蛇も死んでたさ。
いくら先に契約してた狐が手を貸したとしてもだ」
「そ、そうね。
突如真面目モードに切り替えたリアちゃんも素敵よ。
契約と昇華は別物だし、聖獣候補ちゃんの素養に、引き継ぎをする聖獣ちゃん、それから契約者の魔力の全てが必要で、失敗には全員の死がつきまとうわ。
だから引き継ぎをする聖獣ちゃんや聖獣候補ちゃんがそんな危険を冒してまで昇華を望む必要はないと思ったりもするのよ」
そう言って、リアちゃんをじっと見つめる。
「何だい、居心地が悪いね」
「何でもないわ。
ただ……ずっとこの国を守ってくれてありがとうって、いつも感謝しているのよ」
「もう、何だい、改まって!
それがラビ達の先祖との約束なだけさ!
それに今はラビが気に入ったから契約したんだよ!
それでも気にするなら、早くあのただれた小説を書いてちょうだい!」
あらあら、リアちゃんも照れ屋ね。
「もちろんよ。
今世ではゆっくりまったり、一緒に楽しく過ごしましょう」
「わかってるじゃないか。
それじゃあ、さっさと用意して出かけるよ!」
「すぐに準備するから少し待ってちょうだいな」
「もう!
仕方ない子だね!
寝起きだから茶でも淹れとくよ!
まずは顔を洗ってきな!」
「わかったわ」
何だかんだとオカン鳥は体も気遣ってくれる、できる女なの。
ふわり、ふわりと赤い羽根が舞いながら淹れてくれた美味しいお茶を飲んで、出発ね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます