162.追い出しとーーカサ、カサ
「私が学園側に傍観するようお願いしていた事でしてよ?
殿下はそもそも保険医として学園側の所属でいらしたでしょう」
「だが俺は違う……」
「お兄様には伝えなくて良いとお話ししておりましたもの。
王子の婚約者に固執云々の誤った情報しか得られなかったのですから、仕方ありませんわ。
それにそれも含めて慰謝料をいただいたと思っているので、その件は蒸し返さなくてかまいません」
「「しかし……」」
仲良く重なる低音ボイスも今は耳障りね。
そろそろ眠さもピークでイライラしちゃう。
「しつこいですわね。
特にお兄様、くどい謝罪はむしろわざとらしいと以前にも話しましてよ。
それに私、眠くなってますの。
ご用件が終わったのなら、お2人共お帰りになって。
お兄様、ちゃんとお見送りなさって差し上げて」
「「え、待て、ちょっ、、」」
微笑みはそのままに、勢いよく早口でまくし立てて2人の手を引き、立たせたら背中をグイグイ押して外に追い出してドアをバタンと閉めたわ。
よし、これで一段落ね。
気配も遠ざかったから、もう戻ってこないでしょう。
「さあさ、キャスちゃん?
校正は終わったかしら?」
「ラビ、お疲れ様。
終わったよ。
それより追い出して良かったの?」
「いいのよ。
それよりもまずはキャスちゃんの校正を確認したら眠りたいわ」
「先に眠ったら?
どうせ寝落ちするでしょ」
「ふふふ、確認しながら寝落ちするまでが至福の時よ。
もし寝ていたら夕方前に起こしてくれる?
他の2冊も含めて今日中に持って行きたいの」
「わかった」
ポン、と消えたわ。
テーブルの上を片づけてから既に完成してあった小説2束を置くわ。
ベッドの上に置かれていた校正済みの紙束と、2種の特殊インクをそれぞれ染み込ませた特製ペンを持って静かにテーブルにつく。
「ふふふ、至福の時ねぇ〜」
なんて言いながら改めて自分でも見直して、必要なら修正を入れていくの。
ペンの1つは書く専用。
けれどただのペンじゃないわ。
ある魔法と対応するように作られたインクを使用していて、
この世界にはパソコンやワープロ、タイプライター的な物や、印刷機は存在しないわ。
でもね、このインクで書いた書物の上に何も書かれていない紙束をドンと置いて魔法をかければ数秒後にはコピー完了!
画期的でしょ!
これができたのは前々世の時代よ。
それまでは版画だったから、このインクと魔法は印刷業界を大きく発展させたって歴史の本にも書かれているのよ。
そしてこの特製ペンは更に改良してあるの。
何とコピーした時に文字を自動修正してくれる優れ物!
私の文字って丸文字だし、右上がりになりがちなのよ。
それをコピーした方には前世のワード機能なんかであるような、楷書体の読みやすい文字でコピーしてくれるわ。
ちなみに今はタイプライターを試作中。
でも私が書く時ってごろごろしながらパパッと思いついたシーンを書きとめる事も良くあるから、タイプライターを作っても使わないかもしれないと思うとなかなか進まないのよね。
そしてもう1つの特製ペンは消しゴムみたいなものよ。
書き物専用のインクを綺麗に消してくれるの。
書く方のインクが残ってるとコピーした時に移っちゃうのだけれど、実は今までに無かったわ。
ただの消しゴムならあるんだけどね。
前世のお婆ちゃんのシミ抜き知識が役立ったわ。
主婦の知恵ってやつかしら?
まあそんな感じで2本のペンを使って改めて修正していけば、やっぱり頭クラクラ、目が霞んで瞼も重くなってくるわよね。
いつしかウトウトして意識が暗転していったわ。
ーーカサ。
ーーーーカサ、カサ。
何かしら?
紙が擦れる音ね?
もしかして聖獣ちゃんの誰かが置いてあった小説でも読みに来たの?
キャスちゃんも出先で他の聖獣ちゃん達に会えば、小説の完成を教えたりするし、一応それを見越してテーブルに置いてあったのよ。
それにしてもこのほっぺたの感触はソファ……いつの間に移動したの?
覚えがないわね。
なんて思いながら目を開けて体を起こしながら音のする方を見て、思わずフリーズしたわ。
「……お兄様?」
ギギギ、と油の切れたロボットみたいな動きでクールなお顔、体と順にこちらを向く。
ヤだ、ちょっと怖い。
※※※※※※※※※
後書き
※※※※※※※※※
いつもご覧いただきありがとうございます。
フォロー、評価、応援、感想は有り難く頂いております。
サポートしていただいた方には限定公開で何か投稿しようと思っているので、よろしければそちらもご覧下さい。
本日は2話投稿します。
多分夕方以降になるかと。
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