139.聖獣の出現〜ミハイルside
「さあ、今度こそミハイル君の妹ちゃん達の所に行こうか」
軽い口調でそう提案するその後ろでは、蜘蛛が
「いいのか?」
「ああ、アレの罪と死は確認した。
既にニルティ家からは遡って籍を抜く手続きは終えてある」
「随分と用意が良いな」
こいつ、やはり最初からそのつもりだったのか。
もう弟とも呼ばないらしい。
「四公としては当然の事。
責任の全てをアレが被っても、死んでしまえば誰も余罪は追及できないさ。
あの縁故の2人の生死や、どこからか増えた者が気にならなくはないが、そこはどうとでもなる。
第1王子も多少の収穫はあった以上、責任の所在については協力してくれそうだ」
「そうだな。
フードの女だと言った以上、エンリケとの面識はないんだろうが、少なくとも手がかりが手に入った。
調べるのにニルティ家が出てきては面倒だが、家門から放逐した者をどう調べようと口は出さない。
だろう?」
なるほど、既にレジルスとも取り引きを成立させていたという事か。
「もちろんだとも。
ニルティ家に何かしらの沙汰がなければな」
「ああ、既にそちらとは関わりがない者だ。
それは無い」
腹黒同士が悪い顔で頷き合う。
「ロブール家の次期当主は最初から口を出さないと約束してくれているし、アレが元弟だった事に責任を感じて捜索に協力した事も認めてくれるだろう?」
「……ああ」
最初の約束だからもちろん守るが、俺にウインクは飛ばすな。
「後はチーム腹ペコとウジーラ嬢が全員無傷で無事帰還すれば、アレの元兄としても言う事はないさ。
さあ、急ごうか、諸君」
相変わらず色々軽いが、それとなく釘を刺すところは抜け目がない。
それでもこの時はやっと妹を迎えに行けると安堵していた。
なのに……。
「「「!!!!」」」
突如ザワリと大気が揺れて、巨大なエネルギーの塊がパッと姿を現した。
気配のする上空を見上げれば、すぐ真上に巨大な塊が浮き、こちらを見下ろす金の散った藍色の瞳と目が合った。
全員が突然の事態に息をのみ、動けなくなる。
それは朝日に反射する煌めく青銀の鱗に覆われた長くしなやかな体躯に、白銀の鬣が首元から背中を走り、尾を彩り、荘厳な美しさを放つ存在。
「……聖獣」
無意識に呟いてしまう。
かつてこの国の王族や四公家の者達と契約していた聖獣達。
その姿は文献や口伝で聞いた事はあった。
しかし俺達の祖父母の世代から、聖獣は加護を与えても契約はしなくなった。
あの稀代の悪女が聖獣達の逆鱗に触れたから。
この国の王族であった王女が悪魔と契約しようとした時、聖獣達はこの国とのあるゆる者との契約を破棄した。
以来、全ての王族と四公の当主となる者には加護すらも与えなくなり、その姿も加護を与えた者しか見られなくなった。
だから聖獣を目にしたのは初めてだ。
それでもわかる。
知識として外見を知っているからだけではない。
思わず跪きそうになる程に、纏う魔力が清廉かつ清浄が故だ。
ふと、あの時感じた有無を言わせないと意志を持ったかのような魔力は聖獣だったのかと思うも、すぐに否定する。
目の前の魔力とは明らかに質が違っていた。
「古巣が騒がしいから来てみれば、人の愚かな争いをここに持ちこむとはな。
挙げ句、
視線は聖獣から目が離せない。
しかし最後の言葉にレジルスが大きく息をのむのが気配でわかった。
「実に不快。
去れ、愚者の末裔らよ」
聖獣がどことなく実妹を彷彿とさせる藍色の瞳をカッと見開けば、突如体が上空へと乱暴に引っ張り上げられ、聖獣と同じ目線の高さで1度静止する。
と思えば、向こうから一団がどういう原理でか飛んで来くるのが見え、数秒で合流した。
すぐに気を失っている妹達のグループだと認識する。
しかし……。
「待って下さい!
妹が、ラビアンジェがいない!」
そう、そこに1番助けたかった妹の姿は無かった。
「黙れ。
まともに魔力を持つ人はこれで全て。
あとは知らん!」
言うが早いか、俺達は一団となって何処かへ飛ばされる。
体に強い圧が加わり、それ以上話す事も為す術も、目すらも開けていられないまま、ただ飛ばされる。
途中、レジルスの舌打ちが聞こえたような気がした。
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