105.安心させてあげたのに、解せない

「それにトワイラ家とルーニャック家。

そのどちらもがニルティ家と縁故のある家門だけれど、だからこそあなた達のお父様にして当主であるお2人は、ニルティ家と同じ四公のロブール家には感謝こそしても、恩は返さないでしょうね」

「そんな事は……」

「まあまあ、そんな事はありましてよ?」


 明後日の方向に疾走するメリット話しかしない金髪君の否定しようとする言葉は遮っておくに限るわ。


「だってニルティ家との縁を持つ2つの侯爵家がロブール家の公女を後見するのでしょう?

仮にも侯爵家の当主なら四公の勢力図を偏らせる事も、ニルティ家に睨まれる事も避けたいのではなくて。

ロブール家と何かしらの共同事業すらもしていない関係なのだし、ロブール家が与える見返りもないのに、何人かいる自分の子供をたかだかグループに加えただけで後見する?

それも私達はDクラスのグループなのに?」


 ふふふ、金髪君も少し冷静になったみたいね。

顔色が悪くなったわ。


「有り得なくてよ。

大方子供の主張した事として、恩を踏み倒して終わりでしょうね。

もっとも関わりがないのだから、恩を返してもらう機会すらないかもしれないけれど」

「そ、そんなのあなたみたいな方が把握していらっしゃらないだけで、わからないではありませんか!」


 それでも金髪君はゴネるのを止めてくれないわ。

必死にゴネるなら、まともに話すのは無駄でしかないのよね。


「それならそれでも良くてよ。

押し問答する価値をあなた達に見い出せないもの。

ああ、それから愛称呼び?

それに何の価値があるのかは見当もつかないの。

この討伐訓練の間だけとあなた達が限定して許可していたけれど、私、1度としてあなた達を愛称で呼んだ事はなくってよ。

そもそも私はあなた達と違って自分の名を呼ぶ許可すらも出した事は無かったのに、どうしてあなたが私を名前で呼んだのかしら?」

「そ、んな……」


 まあまあ、今更ながらに気づいたの?

金髪ちゃんのにぶちんさん。


 あなた達がこの森で入ってすぐ、自分達の周りにだけ防御魔法を展開したあの時から、心の中では名前ですらも呼んでいないの。

けれどそこまでは言わなくてもいいわね。

若者につらく当たる理由もないもの。


 下に見ていた私がそうしていたのがショックだったのかしら?

腕から震えが伝わるわ。


「ふふふ、勘違いなさっていたのね。

私の周りでは学園と実質的な貴族社会での身分を混同してらっしゃる方が多々見受けられるの。

たとえ婚約者である王子が解消を願っても、王家が正式に解消を通達しないのがロブール家の公女であり、嫡子である私だともう理解なさったのでしょう?

でも私が望まない限り特に大きな沙汰はないから安心なさって?

まだ学生ですものね」

「さ、沙汰……まだ、学生……」


 あらあら?

慰めた甲斐がなく、ガタガタと本格的に震え始めたわ。


 でもいつまで私の腕を活きの良いカツオ扱いにするのかしら?

お孫ちゃんも驚いたお顔になっているから、そろそろ離してくれない?


「だからお気になさらないで。

もちろん私も気にしていなくてよ。

だって興味のない方を気にしても、仕方ありませんもの。

これまでもあなた方は平穏無事に学園生活を送れてらっしゃるでしょう?

もちろんこれからもきっと、気にしないと思っているのよ。

あなた達も今と違う未来を招きたくはないでしょう?」


 淑女の微笑みを浮かべて、安心させるように具体的に教えてあげる。


 あら、金髪ちゃんの腕力が急速に緩んで、腕が力なく下に落ちたと思ったら、座りこんだわ。


 でも良かった。


 完全にうつむいてしまったから表情はわからないけれど、きっと安心して腰が抜けたのね。


 すぐそこの金髪君も座りこんで項垂れたわ。


「公女」

「ええ、行きましょう」


 ラルフ君に促されたから、ここまでよ。

何か言いたそうなお顔が気になるけれど、彼は無口だから言いたくなるのを待ちましょうか。


 お婆ちゃんは気が長いのよ。


「ロブール様、素敵です」

「そう?

慰めて安心させてあげただけなのだけれど、ありがとう?」

「「「「……安心?」」」」


 どうしてかしら?

うちの子達に加えてお孫ちゃんまでもが残念な何かを見るような目で私を見たわ。

解せないわね。

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