101.卒業生からの名指しの忠告

「そのリュンヌォンブル商会が研究に関わってもいる。

特に四公は国民からすれば貴族というよりも国に近い存在だ。

あの領地にお前の個人感情で今何かしらしてみろ。

その商会の裁判沙汰の時以上の反発が国内至る所に起こって国民の大半が国に、つまり王家や四公に牙を剥く危険性は十二分にあると思わないか?」

「……っ、それは……」

「そもそも下級貴族の俺ですらわかっているような危険を、国王陛下は元よりニルティ家の当主がわからないなどとは考えらない。

事が起こる前にどう動くか、もうわかるだろう?」


 ふふふ、たじろいだ家格君に畳みかけるように淡々と話すラルフ君。

家格君の怒りのボルテージが鎮火してきたわ。


 さすがうちのリーダーね!


 あの商会の会長からは先を見越して、研究を妨害する貴族がいたら自分の商会の名前を出していいと言われているもの。

もっとやってもいいくらいよ。


 それに今の四公の当主なら、そうね。

災いの芽はサクッと摘んじゃうんじゃないかしら。

親としてよりも、当主としての責務を全うできる人間が当主を務めるのが四公なの。


 人としてどうか、なんて思わないわ。

四大公爵家はあらゆる国営と領地経営に携わっているの。

当主の個人感情を優先して抱える人達を路頭に迷わせられるはずがない。


 残念ながらベルジャンヌ時代には一部の王族や四大公爵家当主かそうだったとは言い切れないのだけれど。


「それに俺はこの森を出た後の心配より、如何にして自分の仲間を無事にこの森から出すかしか考えていない。

お前達グループが個々にどれほどの実力を兼ね備えていたとしても、正直どうでもいい」

「「「「····」」」 」


 まあまあ、あちらはもう息を飲むだけで誰も反論しなくなったわ。


 お孫ちゃんですらも顔色が悪くなっているから、きっと次に続く言葉がどんなものか気づいているのね。


「A級冒険者並みの実力があってもチームワークが悪ければ生き残れない。

それが蠱毒の箱庭という場所だ。

俺のグループを蔑み、チームワークもバラバラで非協力的、常に自分達が有利になろうとするお前達は、俺達が生き残るのに邪魔でしかない。

それほどこの森は危険だ。

プライドを先行させていられるお前達は危機感が無さ過ぎる」


 その言葉に、金髪ちゃんはとうとう涙を無言で溢し始めたわ。


 お孫ちゃんはその言葉を真摯に受け止めているようだけれど、男子2人は何だか呆然自失みたい。


 今までこんな事をきっぱり伝えられた事がないのでしょうね。

それもそうよね。


 最上級生のAクラスは全てのクラスから羨望の眼差しを向けられて然るべきと考えているし、実際うちのDクラス以外はそういう対象として見ている人も多いもの。

こんな事を誰かが思っていても、本人達に面と向かって口にはしないはずよ。


「加えて今のお前達は、1年前の合同討伐訓練で俺達グループを盾にして自分達だけが助かろうとした、お前達の元同級生達と同じ目で俺達を見ている。

去年のDクラスの卒業生達からも、そういう上級生のAクラスのグループの幾つかを名指しで気をつけろと忠告された。

実際、このグループは俺達のクラスが警戒していたグループの1つだ。

俺はお前達を全く信用していないし、実際お前達は俺達の危惧した通りに行動した」

「あ、あれは……」


 金髪ちゃんが何かを言いかけるも、ラルフ君は無視ね。


「この期に及んでまだ言い訳か。

お前達の謝罪は薄っぺらいな。

できればお前達とは早く別行動したいと思っている」

「そんな!」


 金髪君の悲鳴もラルフ君は無視して続けるわ。


「俺達は自己責任で動くから気にしなくて良い。

お前達グループも好きにすればいい。

俺は身勝手なお前達の尻拭いはご免だし、俺達の実力からいってこの森でそこまで気は回せない」

「大げさだ。

現に俺達は無事だろう」


 あらあら、家格君はまた苛々して甘い環境認識を披露するのね。

プライドを守るのに他人を攻撃して自分を正当化して慰める方法があるのは間違いないけれど、今それをするのは悪手だとわかっていないのかしら。

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