77.蠱毒の箱庭
「問題だろう。
君達のせいで危険に晒されては俺達が困る。
それに面倒を見ているのは上級生にして、上位貴族である俺達だ」
「なるほど。
ならばお前達グループはこの魔獣避けから出て行けばいい」
「何だと……」
ラルフ君はギリリと歯噛みする家格君の言葉を遮って淡々と告げる。
確かにこの魔法具は私の物、ひいては私達グループの物だから、リーダーのラルフ君がそう言うなら
この森の魔獣にどこまで効くかは謎だけれど、ないよりはある方が良いわよね。
でも魔法師になるらしい家格君や治癒魔法に多少の精神感応魔法が使える金髪組がいるのだもの。
必要ないかしら?
そちらにはお孫ちゃんもいるのだし、森から逃走するくらいなら体がいくらか欠けても何とかなるわよね。
もちろんお孫ちゃんは陰ながら守ってあげるから、安心してちょうだいね。
「俺は俺の仲間をこけにされるだけでも腹立たしい。
それに卒業した元Dクラスの兄達から
あらあら?
金髪組の顔色が変わったわ?
目が泳ぐってああいう事なのね。
「だがお前達はそれだけではなく、あまつさえこんな危険な場所で俺の仲間に個人の判断能力を鈍らせて仲間の死を招くような精神感応魔法を使うよう指図し、それに何の疑問も持たずに止めようともしない愚か者ばかりだ。
リーダーとしてお前達は必要ないと判断する」
金髪組がこちらをチラッと見るから微笑んでみたのだけれど、何故か怯えた顔に変わったわ。
……何故?
それよりもラルフ君は敬語を使うのを止めたのね。
いつの間にか仲良くなったのかしら?
でもそれにしては家格君のお顔が不穏ね。
お孫ちゃんは心苦しそうに私を見て頭を下げるし、うちの他の2人は苦々しそうなお顔をお孫ちゃんを除く3人に向けているわ。
まあまあ、こんな鬱蒼とした場所だからかしら?
随分なカオスっぷりよ。
「危険な場所?
はっ、これだから経験値も頭も足りないDクラスとの合同訓練は嫌なんだ。
愚か者はお前だ。
そもそも学生用の訓練場所に死に繋がるような危険があるわけが……」
「
鼻で嗤う家格君の言葉を再び遮ってこの森の名称を伝える。
「……は?」
あらあら、家格君てばさっきからお顔が歪みっぱなしね。
金髪組はお口を開けてポカンとしてしまったわ。
お顔を上げたお孫ちゃんとうちのグループだけは神妙な面持ちをしていて、やっぱりちゃんと状況判断ができているみたいね。
ふふふ、うちの子達ってば優秀だわ。
「ここは蟲毒の箱庭だ。
来たのは初めてだが、間違いない」
「……何を……言ってる?
学園の合同訓練だぞ?
大体、中に入れるはずが……」
まあまあ、絶句しそうになっていたのを気力を振り絞って出したかのような声音ね。
でも魔法師になると宣うだけに、この森に
途中で口を噤んだわ。
「あのムカデはそもそも規格外だが、索敵してみればあのクラスの蟲型魔獣が何体もいる。
この国でそんな蟲がゴロゴロ転がっているのは、危険度Aの蟲毒の箱庭くらいだ」
あらあら、ラルフ君?
蟲は転がっていないと思うわよ?
もちろんリーダーの発言だから指摘せずにデフォルトの微笑みを浮かべているだけよ。
「知っているだろうが、蟲は群れる。
それにここは最低でも危険度がBクラス以上の個体に加えて、大半は毒を持つ魔獣ばかりの生息地だ。
この森で家格や上級生がどうだからと言う面子は何1つ役に立たない。
むしろ邪魔だ。
そんなくだらない事を主張してこちらの命を脅かすような者は不要。
そう判断して何が悪い」
「そんな……」
「嘘でしょう……」
ローレン君の言葉に金髪組が顔を蒼白にして震え始めたわね。
「嘘ではない」
救いを求めるように自分達のサブリーダー、お孫ちゃんを見やったけれど、ラルフ君のお話を肯定されて絶句してしまう。
金髪ちゃんなんて地面にへたりこんで涙を浮かべているのだけれど、元々ムカデがいたような場所だから土は少し湿気ているの。
ズボンに泥汚れがついちゃうわよ?
泥汚れはなかなか落ちないのよね。
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【秘密の多い魔力0令嬢の自由ライフ】
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