70.妄想の暴走とお孫ちゃん認定

「各グループの自己紹介が終わり次第、荷物を持って転移陣まで移動するように。

番号を呼ばれたらまとまって陣に入るように」


 各学年主任と担任達が口々にそう言いながら促すのを意識の片隅に捉え、グループ移動を始めたところですぐ背後から声がかかったわ。


「公女、うちのリーダーがつくづく申し訳ない。

しかし差し出がましいとは思うけど、公女にもいま少し公女たる自覚は持って欲しい」


 まあまあ、まあまあ!

最後の言葉は耳元近くで不意打ちね!

軽く振り向けば私より高い目線から申し訳なさげなお顔が中性的!

ノーマル、アブノーマル、百合も衆道も何でもござれな妄想を掻き立てる罪深いお顔じゃないかしら?!


 あちらの世界の現代ミステリーの主人公にだってミナ様ならなれましてよ!

ミステリーを書くのが苦手な己がこれほどに悔やまれた事はないわ!


「……公女?

その、すまない。

会ったばかりなのに、このような事を言うべきでは無かった」


 あら、いけない。

妄想が暴走スタンピードしていたわ。


 しまった、なんて焦ったお顔はお口よりも物を語っていてよ。

なんて可愛いお孫ちゃんかしら!

あの俺様婚約者も孫なのだから、ミナ様もお孫ちゃん認定でいいわよね!

祖母おばあちゃん、可愛いがっちゃう!


「うふふ、ごめんなさい。

お気になさらないで。

仰る事は理解していてよ。

特に辺境を守るウジーラ侯爵家の方ですもの。

私の素行に何も思わないはずがないわ。

家格く、こほん」


 あらあら、お孫ちゃんフィーバーでうっかり家格君て言いそうになったわ。

淑女の微笑みがデフォルトで良かった。


「ふふふ。

公子の言動も気にしておりません。

魔獣討伐の実戦でつまらない見栄など張ってグループを危険に晒すより、つまらない嘲りを受けても現状をお伝えする方が余程マシですもの」

「……随分と大人な対応だね。

そこは感服するよ」

「ちっ、無才無能を無才無能と言っているだけだ」


 うふふ、家格君たら、相手にされたいのかしら?

追い抜きざまに言い捨てて足早に先に行ってしまったわ。


 でも今はみなぎり滾るこの妄想を頭に刻み込むのに必死なの。


 相手なんてしていられなくってよ!


 なんて思っていたら、早々に転移陣に到着してしまったわ。

そうね。

数十メートル奥に歩いただけだものね。


 地面の転移陣という名の魔法陣は、直径5メートルくらいの円陣。

陣からは淡く白い光が出ているわ。

魔法陣にはこちらの世界の古語やモチーフが浮かんでいるのだけれど、前世の世界的にはそれっぽい円陣だと思ってくれればいいかしらね。


「グループAD8」


 1つ前の人達が光った魔法陣の中に消えたから、次が私達ね。


 それにしても今年の合同訓練からは難易度が上がるって本当なのね。

私は魔法陣を見ればどこに転移するのかわかるわ。

でも普通はこんなに早く魔力を通さずに場所を限定なんてできないみたい。


 それよりあの魔法陣、引っかけも仕掛けてあるから面白いわね。


 そう思っていると、ラルフ君がこちらを見るから、小さく2度頷いておいたわ。


 油断しちゃ駄目っていう合図よ。


 それを見て、私とカルティカちゃんを挟むようにラルフ&ローレンの2人が立つ。

ラルフ君はベルトの腰の辺りに引っ掛けてある革紐のトップにつけた剣のモチーフにそっと手を触れたわ。


「グループAD9」


 私達ね。

A、Dクラスのクジ番号9番ていう意味よ。


 8人で円陣の中央に進んで立つ。


「用意はいいかしら」


 4人で等間隔に立って魔法陣を維持している、居残り学年の先生の1人が声をかけてくれる。


「「はい」」


 家格君とラルフ君の2人のリーダーが返事をすれば、円陣の白い光が私達を包む。


 瞬きする間に景色が変わったわ。


「ふん、今回は森か。

随分薄暗いな」

「そうだね。

何年かに1度は変わる趣旨変更かもしれない」


 さすがに4年生ともなれば訓練にも慣れているみたいね。

確か昨年はもっと明るくて開けた森だったし、新1年生が多少パニックになっても逃げられる魔獣ばかりの森だったから、全然違うわね。


 リーダー家格君に続いてサブリーダーお孫ちゃんと2人して肩を並べて辺りを見回しているわ。


「ローレン」

「はい」


 こちらのリーダーとサブリーダーは私達を挟んだまま、互いに背中を向け合い、目視と索敵魔法を使ったわ。

といっても微々たる魔力を地面に沿って網状に広げただけだから、余程臆病で敏感な魔獣でないと気づかれないでしょうね。


 私は右、カルティカちゃん左を目視する。

私達がグループで食料調達する時のフォーメーションね。

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