69.自己紹介と滾る創作意欲

「ニルティ公子、時間の都合もある。

ロブール公女の言う通りだよ。

訓練とはいえ、魔獣討伐は実戦。

不毛な会話はグループの為にも控えて欲しい」

「ちっ」


 まあまあ、舌打ちする家柄男子と違って、なんて素敵な騎士様でしょう!


 止めに入ってくれたのは、ハニーブラウンのサラサラストレートなボブ髪に、ダークブルーの切れ長な瞳がとっても理知的な女性よ。


 顔立ちは中性的。

確かファンクラブがあったはずなのだけれど、頷けるわね!

国王が伯父だし、どこぞの王子と同じで孫みたいなものね。

帯剣する剣が本格的だし、服装からも専攻は騎士科じゃないかしら。


 家格男子の方が家格が上でも、大公の娘の彼女には強く出られないみたいね。

とりあえず彼の命名、家格君でいいかしら。


「2年生諸君、失礼した」

「こちらこそ、申し訳ありません。

自己紹介と、グループ構成の特色を伝えてもよろしいか?」


 ふふふ、ラルフ君は入学してから研究関連で上級生にもしっかりやり込められているから、受け答えもハッキリしていていて格好いいわ!


 というか今の2年Dクラスは1年生の時に現物寄付の魔獣狩りや食料確保の為に散々実践を積まされて、荒くれ冒険者達とも接したりしていたせいか、気後れやら駆け引きやらには強くなってしまったのよ。


 だから1年生の初めの頃の合同訓練のイメージでいると痛い目見ちゃうわよ、そちらのリーダーの家格君は。


「ああ、頼むよ」


 微笑む素敵騎士様は恐らく実戦経験を積んでいるのね。

こちらの事を全く侮っていないみたい。

辺境を任される侯爵家のご令嬢だけの事はあるわ。


 うちのラルフ君から私達の名前と専攻科目や特徴について簡単に説明する。


「ふん、やはり使えんな。

四公の公女が野営と調理の担当とは、情けない」


 昨年組んだグループリーダーと同じ反応ね、家格君。

パクり芸は流行らないのよ。


「エンリケ公子」


 そして今度は名前を呼んで咎める女性騎士様……素敵ね。


「こちらのリーダーは彼、エンリケ=ニルティ公子。

四大公爵家の1つ、ニルティ公爵家の第2公子だよ。

専攻は魔法師科だ」

「ふん、間違ってもDクラスが名前で呼ぶなよ」


 あらあら、家格だけの高圧的なあなたの名前はそもそも処世術として下位貴族や平民は誰も呼ばないと思うわ。

もしかして、呼ばれないのが寂しくて先に呼ぶなと牽制しているのかしら?


 一応他の3人と一緒に頷いておきましょう。


「私はサブリーダーのミナキュアラ=ウジーラ。

辺境侯爵家の出だけど、同じグループになったんだ。

私の事はミナと呼んで欲しい」


 はい、喜んで!


 なんて内心ではミナ様フィーバーしつつ、もちろん淑女のポーカーフェイスよ。


「後ろの2人はペチュリム=ルーニャック侯爵令息とマイティカーナ=トワイラ侯爵令嬢だ。

この訓練の間だけ、リムとマイティと呼んで良いらしい」


 そう言うと金髪碧眼の男女が前に一歩出る。

少しずつ髪と瞳の色合いが違うけれど、上位貴族にはよくある色合いなの。


「ペチュリム=ルーニャックだ。

この合同訓練では同じグループだからそう呼んで構わない。

終わった後の名前呼びは許さない」

「マイティカーナ=トワイラよ。

申し訳ないけれど、身分も学力も違う以上、私もそうして下さるかしら」


 もちろん彼らより家格が高い私も含めて否とは言わないわ。


 あらあら、ミナ様ったら申し訳なさそうなお顔ね。

でもこんなのは1年生の時に経験済みだし、卒業生達からも教わっているわ。

とね。


「2人は経営科と淑女科を専攻しているけど、今回は治癒係と後方支援をそれぞれ兼ねている。

どちらも魔力は君達より大きいが、君達と違って学園以外での実戦経験はない。

互いに良い影響があればと期待している」


 ミナ様はそう言って爽やかな笑顔を向けてくれたわ。


 ……ああ……帰りたい。

……帰ってこの溢れんばかりの創作意欲を紙に向かって書きなぐりたい!!


 何の創作意欲って、それはもちろん自作小説よ!

そろそろ聖獣ちゃんと愉快な仲間達にも催促されているし、今世で初めて素敵ナイトに出会えたんだもの!

しかも女性騎士!

たぎるわ!!

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