66.オネエ?〜ミハイルside

「ええ。

以前は天井からよく覗いてらした、王家の影をされてる家名は秘密のガルフィさん。

御年31才、ちょっぴりオネエで独身貴族を謳歌中でしてよ。

ふふふ、絵画と食べられる草や茸を見分ける能力がピカイチで、隠れるのは苦手ですの。

天井は覗くついでにいつの間にか修繕して下さったのだけれど、他もお願いしているうちに修繕の腕がプロ並みになりましたわ。

時々定期的に覗いてお帰りになります」

「………………そうか」


 ……監視対象者に名前と個人情報教えていいのか?!

オネエ?

何かわからんが、つっこんだら負ける気がする?!

絵画と食べられる草と、修繕?!

専門外の仕事が専門になってないか?!

隠れるのは苦手な奴が影でいいのか?!

影と仲良くしすぎだろう?!


 しかも妹よ。

その発言だけだとガルフィとやらはただの覗き魔だ。


 うら若き乙女はそれで良いのか?!

まあ影だし、一応王子の婚約者だから定期的な監視対象なのは仕方ないんだろうけれども。


 どうしよう、妹のおおらかが過ぎまくっている。


「ま、まあいい。

邸の管理は今年から俺に一任されているし、邸のお前の部屋は元に戻す」

「まあまあ?

必要ありませんわよ?

それにお母様とシエナがうっとう……色々とお思いになるでしょうし」


 ……その淑女の微笑みはあからさまに誤魔化しているだろう。

今絶対うっとうしいって言いそうだったな。


「ラビアンジェ、必要ないからといってロブール家の邸を母とシエナの好きに振り回して良いという事ではない。

お前はロブール家の第1公女なんだ。

もちろんこの離れはお前が好きに使えばいい。

だが、そうだな。

俺も常にこの邸にはいないから……」


 一瞬頭を過るのは、妹が幼い日の母の暴力。

そして妹の部屋から出てきた義妹の姿。


「それなら私の部屋の階に1つ空き部屋がある。

これからそこを使え」

「あらあら?」


 妹は困惑している。

それはそうだ。

俺のいる棟は代々当主を継ぐ者が使用してきたんだから。


「俺の部屋は母上やシエナの部屋とは違う棟にあるし、使用人達も俺の専属だ。

母上の管理外の者達だから、教育もちゃんとされている」

「左様ですのね。

使うかどうかはわかりませんけれど、それでよろしいのでしたら」

「ああ。

その部屋にも保護と防犯の魔法はかけておく」


 そうしてその後も初めてに近いくらいにまともに話し合って、離れを出て行った頃には日も完全に落ち切っていた。


 学園祭の件を褒めようと王女の茶会でのシュシュの一件を持ち出したら、とても驚いていた。 


 それはそうだろう。


 公にはされていないが、稀代の悪女と呼ばれるベルジャンヌ王女が悪魔を召喚して以来、王家の者に聖獣は祝福を与えていないのは周知の事実だ。

更にいえばそれ以降、聖獣はこの国の誰とも契約を結んでいない。


 その眷族が王女を助けた。


 王家からすれば聖獣との関係を改善できたと思いたいだろうし、教会が祈祷した布を使った限定シュシュとなれば、教会は自分達の手柄だと主張したいだろう。


 それもあって箝口令を敷いたものの、やはり高位貴族達とはいえあの日は子供ばかりが集まったせいだろう。

すでに広まり、シュシュとパッチワークは淑女達の間で人気となっている。


 教会は今のところ静観しているようだが、それはそれで……。


「そろそろ遅くなりましたわね。

明日の準備もありますから、そろそろ」


 妹との話に夢中になってしまったようだ。


「そうだな。

明日は私達の学年の合同訓練だ。

お前は何を担当するんだ?」

「野営準備と調理ですわ。

お兄様は討伐兼治癒担当かしら?」

「ああ。

ランクの強い魔獣がいる地帯だから、もし怪我をしたらすぐに私達4年生の治癒担当に見せなさい」

「わかりましたわ」


 2年生の誰と組むかはわからない。

当日にそれぞれのグループでクジを引いて2年生と4年生の班が決まるからだ。


 ただ戦力を均一化するのに、組むのはAとD、BとCの各学年のクラスと決まっている。


「荷物が多いだろうから、明日は私の馬車で共に行こう」

「……わかりましたわ」


 いくらか間が空いてから、淑女の笑みを浮かべてそう返事をしてくれた。


 妹からすれば、今更なのだろう。

家族として振る舞うには、溝が深い。


 自室へ直行し、こちらの棟の使用人達に誰も取りつぐなと伝えておく。


 今は絶えて久しかった兄妹のやり取りの余韻に浸りたい。

義妹とは顔を合わせたくなかった。


 義妹が俺に会おうとしたかどうかは明日にならないとわからない。

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