プロローグー転生した元聖剣 

「「「アシュア、誕生日おめでとう!!!」」」


「皆ありがとう!!!」


ここ、王国の辺境爵家の屋敷で、辺境爵家4男であるアシュアランスは家族と使用人たちに成人である16歳の誕生日を祝られていた。


広場は使用人が一日中飾り付けしたため華やかなパーティー会場に変化し、料理人達が丹精込めた料理や、その真ん中にある大きなケーキは見ているだけで心が明るくなっていく。


「いやはや、アシュアももう16か。」


「時が経つのは早いですね。」


「昔はあんなに小さかったのにね。」


「お兄様は立派ですよ!!」


彼の家族は楽しそうに談笑しているが、当の本人はなぜか浮かない表情だ。


さて、彼のことを語るにはすこし昔の事を話さないといけない。


今から丁度400年前、人間は魔族達の侵略を受けていた。


魔族達の圧倒的な力で人間は侵略を受け続け、とうとう人類が絶滅の危機に迫ったところ、とある救世主が現れた。


彼は圧倒的な力で魔族を倒し、人々から剣聖と呼ばれ崇め称えられた。


そう、彼こそがその400年前に英雄として活躍した剣聖の生まれ変わりだったのだ。


(まぁ僕が剣聖の生まれ変わりだと言っても誰も信じないだろうけどね。)


アシュアが考え事に浸っていると、彼の母親が話しかけてきた。


「でもアシュア、家を出ていくっていうのは本気なの?ほんとなら後に3年ぐらいは家にいてほしいのだけど......」


貴族は平民とは違い16歳で成人として認められる決まりになっている。

18歳になる彼の兄も辺境爵の跡取りとして16歳の頃から彼の父の近くで学んできた。 


「はい、母さま。僕は家を出て世界中をこの目でみたいんです。」


「アシュアもこう言ってるし、私達が止めるわけには行かないだろう。それにアシュアは4男だがしっかりいているし。」


「そうですけど......」


「アシュアは小さいときから家を出るって言ってたもんね。」


貴族に転生したことで自由にのんびり行きたいという夢はかなわないと思っていたが、4男ということもあって比較的自由に動けた。


「それにそいつが家を出て行こうが、この家にはなんの損害もねぇ。」


「この家は兄様が、いや俺が継ぐからな。」


パーティーで不機嫌そうに一言も喋らなかった人物がようやく口を開けた。


彼らはこの辺境爵の三男と次男で、なぜかアシュアを目の敵にしている。


今そのことは関係ないだろう。アシュアの門出を祝ってやれよ。


「チッ、わかったよ。」


「相変わらず良い子ぶりやがって。」


二人は温厚な長男とは反対に性格が荒々しく、またアシュアやアシュアの兄を嫌っていたのだが、こうして後押ししてくれるのはありがたいと彼は心の中で思っていた。


(ほんとにふさわしいのは......)


父の気持ち


#                            __・__#


「アシュア様、とうとう行かれてしまうのですね。」


「うん、今までありがと。マリアも元気でね。」


「お兄様......行かないで......」


「メナ、ごめんね。でもまたいつかは帰ってくるから。」


次の日、アシュアが家を出ていく準備を終え、いよいよ家を出ていく時間になった時のこと。


「ホントならついて行きたかったんですが......仕事がありますので.....アシュア様の成長を見届けられなくて残念です。」


彼は自室でメイドのマリアと、妹のメナと話していた。


マリアはアシュアが生まれた時からそばにいて世話を焼いていた。


またメナも歳が近かったため彼を兄として慕っていた。


「もう別れの時間だ。ふたりとも、また今度。」


アシュアはなんとか二人を言いくるめて部屋から出た。


もう他の家族には挨拶したので、残るは......


 


「あら、やっと来たのね、アシュア。」


「セリア!!!!来てくれたんだ!!」


「当たり前よ。幼馴染が旅に出るっていうんだったら送るのが当然でしょ。」


話しかけてきたのはアシュアの幼馴染である大商会の娘、セリアだった。


彼女は貴族ではないため地位が低いのだが、彼らは同い年で幼い頃から一緒にいたため自然と敬語が抜けていた。


「会えて良かったよ。来なければ僕から会いに行こうと思ってたところだったよ。」


「あなた、それ私じゃなきゃ勘違いしてたわよ。」


「勘違い???」


「いいえ、なんでもないわ。それより今日はこれを渡しに来たの。」


そう言い彼女は宝石のついた腕輪を渡してきた。


「これは?」


「『祈りの腕輪」よ。これをつけていれば一度だけ攻撃を防げるわ。」


彼女が渡してきたのは魔道具だった。


魔道具とは魔石の力を使い人々の生活を便利にしてくれる。しかし魔石を加工できる職人が少ないため希少価値が高い。


大商会の娘であるセリアにしかできないことだろう。


「セリア!!!ありがとう!!!


それじゃ、行ってくるね、セリア。


ええ、いってらっしゃい。

 

まるでどこかに遊びに行くのを見送ってるように、二人は控えめに手を振りあった。


過去に英雄として生き、そして貴族に転生したアシュア。


そんな彼の新しい人生の物語は今ここから始まろうとしなかった。

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