File No.22:天想星・HIROMI大暴れ!!

 約1000人以上、カンフー催眠波術によって格闘本能を目覚めさせられたマウンペアの住民が、殺気立ててあたしとルリナちゃんを標的に定めた!


「どうしましょうか、ヒロミさん……」

「どうするもこーするも……やるしかないでしょ!!」

 あたしは腰のトクサツールベルトをさらけ出して、変身の構えを取る。


 ――さぁ皆さんも御一緒にどうぞ!!


「クルックル~♪ シャキーン!!」

 ……あ、でも非常事態だからコールはにするね。


「巻き毛クルクルわたあめクルクルクルリと回ってトクサツ変身へ~んしんッッ!!」


 ペースが早くなるとセリフも凝縮されちゃうの。


「そ~~れッッ!!!!」


 ギュビビビビビビィィィィィン!!!!!


(ナレさん)トクサツ少女・石ケ谷ヒロミは、変身ポーズでベルトの『トクサツールコア』にエネルギーを溜めることによって、【トクサツ戦士・HIROMI】に変身するのだ!


「今日もピンチだ変身しちゃった、トクサツ戦士HIROMI 参上ッッ!!」


 ――クルンッ♡︎(バイザー越しのウィンク時に出る効果音)

 全くそれにしても……何で高確率で何の罪のない人々や無関係の人と相手しなきゃならないのかしら!!


 あたしはマウンペアの人々とは戦いたくないの! そして女の子はもっと戦いたくないの!! もう察しなさいよ!!!


「……こうなったら傷害罪に成りかねない前に止めなくちゃ! クルクル~~!!」

 あたしは両腕を前にクルクル回すことでエネルギーチャージを行い、強力な技を放つ!


「HIROMIちゃん・三密は避けましょう光線!!」


(ナレさん)『HIROMIちゃん・三密は避けましょう光線』とは、HIROMIを中心に半径1メートルまで人と人の間を強制的に空けて、相手の動きを止めるパーソナルスペース的にも優しい広範囲な光線なのだ!!


 幾ら広い多目的ホールの外野が舞台とはいえ、1000人も群がってちゃ密の何物でも無いわ!


「そして続けてクルクル~の、『HIROMIちゃん・武力放棄収集車』!!」

 トクサツールベルトの力は無限大! 出そうと思えば純白のゴミ収集車みたいなものまで出せるのよ。


(ナレさん)『HIROMIちゃん・武力放棄収集車』とは、身の回りにある武器や殺意といった戦争の引き金になるものを平和の名において毎週金曜日に吸引、回収させる収集車なのだ!


「毎度お騒がせしております~、暴力反対印の武力放棄収集車でございま~す♪

 お手元のナイフ、ベアークロー、ヌンチャクとその他をお持ちの方は是非御車までお持ちくださいませませ~☆」


 収集車を運転しているのはルリナちゃん。彼女が車の後ろの収集シャッターを開くと台風並の吸引力で武器や殺意を根こそぎ吸いとっていった。


「毎度あり~♡︎」

 ルリナちゃんご苦労様。


「……あれ? ここは何処だ?」

「こんな人の群がるところで何してたのかしら?」

「はぁ~梅酒飲んで小説書きたい」


 良かった! 武器も殺意も回収した事で皆元に戻ったわ!……若干変なのも居たけど。


「……よくも邪魔したアルネ、トクサツ戦士!!」

 後から現れたのは……出たな、この事件の張本人チャンと舞踊団の皆さん!


「こうなったら私と舞踊団が直々に始末してやるネ。東洋流拳法の極意とくと受けてみるヨロシ!!」

 チャンは蛇拳の構えであたしにその殺気を向けた。


「……貴方を見損なったわ。その華麗なる美貌を仮面で填めるように、何故にジャックスと手を組もうとしたの!?」


「お金の為ネ。ジャックスとは貴方を抹殺した報酬として大金を貰う契約で手を打ったアル。

 親も地位も見捨てられた孤児であった私をこの舞踊団に拾われ、この20年間貧乏で苦しみながらも武芸で生き抜いた苦しみなど、ちんちくりんのお前に私の気持ちが解るものカ!!」


 前に調べてはいたんだけど、舞踊団の活動地であるミドルーディング地方は芸などの文化に長けてる分経済が世界の中でも特に乏しく、多くの人が貧困による生活苦を強いられていたという。彼女もその一人だ。


 ――あたしも転生した直後にルリナちゃんに会っていなければ彼女と似た境遇になっていたかもしれない。でも仮にそうなったとしても……


 あたしは悪の力を借りようとは微塵にも思わない――!!


「……どうしても改心する気が無いのなら、女の子相手でも容赦はしないわ。あたしが直々にお仕置きしてあげる!!!」

「無駄な事よネ、貴方のへなちょこ拳法などコテンパンに伸してやるわ!!」


 確かに、今の状態では到底チャンや舞踊団に勝てる気はしない。でもあたしには……とっておきのがある!!


「トクサツール・電撃龍酒デンゲキロンシュー!!!」


 あたしはトクサツールベルトからボトル状のお酒を出し、一気にキューっと飲み干した!! すっごいキツいけど何年ものかしら……?


(お酒……まさか、お酒を飲めば飲むほど強くなる『酔拳』アルカ!? こんな素人が出来るはずは無いネ!)


 電撃龍酒を飲んだあたしは直ぐにその効果が現れた。

 最初に強い震えが体に襲って来たものの直ぐに直り、バイザーの下の素顔が真っ赤になるほど酔いが回ったと同時に秘めた力が沸き上がっていく……!!


「フォォォォォオオオオオ……」


 深く息を吸い込み、吐き出した後に迫力のある演舞を披露させるあたし。


「トクサツ戦士! 天想星てんそうせい・ヒロミ!! 天に輝く一番星が、正義の拳で成敗してくれるわ!!!」

 右手を突き出すように酔拳の構えを無意識に取ったあたしは、意気揚々とチャンに戦意を露にさせた!!


(ナレさん)トクサツ戦士HIROMIは電撃龍酒を飲むことによって、力の源であるイマジネーションを最大限に発揮させる【天想星拳てんそうせいけん】を出す事が出来るのだ!!

 つまり、ヒロミがカンフーパワーで暴れ出したのは、本来の力を制御出来なかっただけの暴走に過ぎないという訳である!!


「えぇ!? じゃヒロミさんが暴れまわったのは、その拳法のパワーをコントロール出来なかったからって事ですか!?」

 ……どうやらそうみたいね。つまりチャンの仕業じゃ無かったみたい。でもこれで同等に戦える!!


「行くわよ!! ゥアチャァァァアアアアア!!!!」

「くっ……こざかしい!!!」


 すると理性がプツンと切れたかのようにおぞましいオーラを纏わせながら、チャンは人の姿から怪人へと変貌を遂げる。


 深緑の蛇の鱗を纏った奇っ怪なるジャックスの怪人、『スネーク拳士』として本来の正体を表した!!!


「我がジャックスが誇る『スネーク拳殺法』で絞め殺してくれるわ!! シャアアアアアア!!!!」


 決闘開始! 本来はジャックスの戦闘員が人海戦術を迫ってくるところだが、ここは舞踊団の拳法使い達が相手になる。


「ハイヤァァァァ!! ツァーーッッ!!!」


 ドスの聞いた気合いの掛け声と共に舞踊団を正拳突き、蹴り、悩殺からの金討ちで一網打尽!!


「いよっ! カッコいいですわー!!」

 センキュー、ルリナちゃん♡︎


「貴方もヤル気か、おじいちゃん!!」

「なぬッ!?」

 次なるターゲットはチャンの祖父、拳法使いである以上手加減無用!!


「HIROMIちゃん天想星拳! 回転蹴り!!」


(ナレさん)『天想星拳・回転蹴り』とは、円を描く大開脚による蹴りで目にも止まらぬ速さで相手を連続キックを繰り出す必殺技である!!


「ィャアアアアア、覇ッッ!!!!」


 チャン顔負けの回転開脚蹴りでおじいちゃんの顔面にクリーンヒット!! そのまま成すすべなくバタンキュー。


「はっ!? おじいちゃん!!!」


 安心せぇ、殺しはしてない。蹴り技で脳に振動を食らわせただけだ。後はチャン……いやスネーク拳士、貴方だけよ!!!


「おのれぇ……よくも大事なおじいちゃんを!! このスネーク拳殺法の力を思い知るが良いわ!!!」


 しかしあたしが其れごときで怯むはずがない。目が既に座り、背後から向かって来ようとも、その殺気は止むことが無い。


「止めておくのね。欲に溺れた蛇が想像の星に叶うと思う? 自惚れるなッッ!!」

「うるさい!! 死ねぇぇぇぇぇッッ!!!」


 蛇の如くうねる両手の構えから絞め伐とうとするスネーク拳士。しかしそんなもの……あたしが振り返り様に必殺の秘技を打つまでよ!!!


「天想星拳秘技・流星群閃光!!!!」


 スネークの両手突きを繰り出したその刹那、がら空きの腹目掛けて……連打パンチ!!


(ナレさん)『天想星拳秘技・流星群閃光』とは! 1コンマに100連発の突きを急所、その一点集中して打ち込む超必殺の秘技である!!


 そして最後の一撃!!!


「ウァチャアアアアアアアアアッッ!!!!!!」


 並木道の木を薙ぎ倒すほどの衝撃で後方彼方まで飛ばされたスネーク拳士。最期は尾羽討ち枯らすように……


「お……恐、るべし……トクサ、ツ戦士――――!!」


 殺意の闘志が尽きたその時、スネーク拳士の姿から元のチャン・リンシャンへと戻っていった。



「――――我が天想星拳に、一片の死角無し!!!」


 ★☆★☆★☆


 ――数日後。


「……で? ヒロミの様子がおかしいって、いつもの事じゃないのか?」


 出張からマウンペアの町まで帰って来たタケル。一体何処ほっつき歩いてたのやら……それはさておき。

 喫茶店『リリィ』にてルリナちゃんが心配そうな様子でタケルに頼み込んだのには訳があった。


「実は舞踊団との戦いが終わってから、ヒロミさん何か情緒が事切れたようにおかしくなっちゃって……」


 ルリナちゃん、『余計』って何?


「でもその舞踊団、本当の舞踊団と偽ってミドルーディング地方に潜伏したジャックスの幹部達だったんだろ?」

「そうなんです。あの後全員逮捕して取り締まったのはヒロミさんのお手柄なんですが、あのカンフーパワーの後遺症で……」


 ルリナちゃんがあたしの部屋のドアを開けると……


「我思故我有? 我空腹、菓子又相方接吻頂戴」

 完全に広東バージョンになったあたしを見て、タケルは御霊が吹っ飛ぶほどにポカーンと立ち尽くしていた。


「……これはアカンね」


「何故特捜機関犬此所居? 早々帰候」


(オイ『特捜機関犬』って誰の事だ俺の事かコルァ)


「お医者さんにも聞いたんですけど、何かみたいなものを与えれば直るんじゃないかって」


「ショック……!」

 それを聞いたタケルは何か閃いたように変に熱い眼差しをあたしに向けた。


「ルリナ、何か長い棒とか無いか? 例えば物干し竿とか」

「長い棒……? あ、そう言えば前に暴れたときに使ってたトクサツロッドが……」


 え? 長い棒? トクサツロッド!? あれこの展開どっかで……

 ――何か無性に股間がムズムズしてきたぞ、これは危険を予知するような感じだぞこれ!!



「せーの……ッッ!!!」



 止めてーーー!!! 攻撃しちゃダメーーーーーッッ!!!!



(ナレさん)そして、ヒロミがこの後カンフーの呪縛から解き放たれたかどうかは言うまでもない。

 そしてヒロミは『もう当分カンフーなんてこりごりよ!!』と思いつつ、次なる戦いへ挑むのだった!!


 行け、トクサツ戦士! 戦え、トクサツ転生少女ヒロミ!!



〘おまけ〙

 ヒロミ「全国の良い子の皆!

 どんな理由があっても誹謗中傷や暴力はダメ! 互いに話し合って分かり合える心を持とうね!!」

 ――クルン♡︎

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