解答編
第21話 答え合わせ1
僕がいつも読書をしにくる公園。
いつもの公園。
いつものベンチ。
天気は良く、気温も暖かすぎず、寒すぎず、丁度いい。
こんな日は家族連れが散歩に来たりしているのが、普通だった。
しかし、今日は閑散としている。
健康のためにウォーキングするお年寄りがチラホラいるくらいだ。
僕はいつものベンチに座り、読み途中の文庫本を開いた。
読み進めて、どれくらい経った頃だろう。
僕の前に、誰かが立った。
顔を上げると、見知らぬ女性が立っていた。
それは、僕より少し年上の女性に見えた。
大学生くらいだろうか?
短く切りそろえた髪は、艶々。
クリっとしたドングリみたいな目。
とても細いフレームの眼鏡をかけていた。
大人しそう、というよりは快活そうな女性である。
誰だろう?
女性が口を開いた。
「……君が【スレ主】かな?」
ニコニコと人好きのする笑みで、そう問われる。
それだけで、全てを察せた。
あぁ、なるほど、この人が……。
「えぇ、ということは、貴女が【考察厨】さんですか?」
女性はやはりニコニコと頷いてみせた。
「そうですか。
初めまして」
僕は彼女に頭を下げる。
彼女も僕に頭を下げた。
お互いにお辞儀をした。
とても、不倫現場に出歯亀して刺されるような人には見えなかった。
「こちらこそ、初めまして。
となり、座っても?」
僕は文庫本を閉じた。
「あ、はい、どうぞ」
彼女はベンチに座り、そして、僕の読んでいた本へ視線を落とした。
それから、他愛ない会話で時間を潰す。
最初は僕の読んでいた小説のこと。
そして、話題はまだここには現れない【自称:妹】たちのことへと変わっていく。
「事前に聞いておきたいんだけれど、初めてノートを渡された時のことを話てくれないかな??」
そう訊ねられ、僕はあの日のことを説明した。
説明の途中途中で、覚えている限りの会話のやりとり、その細部まで訊ねられた。
できる限りのことを思い出して、僕は考察厨さんへそれを伝える。
話を聞き終えて、考察厨さんはしばらく考え込んだ。
顎に指を当て、中空を見つめ、ぼうっと何かを考えているようだ。
僕が再び、文庫本を開こうととした時、彼女はぽつりとこう漏らした。
「なるほど、動機はコレか」
パッと、僕は考察厨さんを見た。
考察厨さんは、隠された宝物を見つけた子供のような顔で僕を見ていた。
「わかったんですか?
動機??」
「あぁ、正確には、わかった
犯人たちは仕事して、二年前の事件を起こしたかもしれないとは掲示板で考察されていた。
けれど、何故、わざわざそんなリスクの高いことをするのか?
していたのか?
この根本的な動機は結局分からず終いだった。
当人たちに聞くしか、こればかりはもう手立てがないと思われていたのだ。
それを、この人はわかったという。
わかったかもしれないという。
ドキドキした。
一体何なのだろうか、その動機というのは。
知りたい。
知りたい。
知りたい。
「ヒントは、君とその老婦人との会話のなかにあった」
やがて彼女は、そう切り出した。
「僕との会話?」
「そう。
君はノートを渡される前、別の日にその老婦人と顔を合わせていた。
その時に、かの
「それが?」
「彼女の作品の中にはいくつもの傑作がある。
個人個人の好みはあるけれど、君とその老婦人、私たちスレ民が【コウサカ】だろうと考えた人物が、孫娘、これは【テル】だと目されている人物のことだが。
その自称、孫娘の好きな作品について語っている。
それが、もしかしたら彼女たちがこんな仕事をしている理由かもしれない、と思ったんだ」
「その作品って?」
「灰色の脳細胞の探偵を悩ませた事件。
そして、複数の解釈ができる、出来てしまう事件を題材にした作品。
あまり言うと、ネタバレになってしまうからこれ以上は語れないが、その真相は、かの名探偵を悩ませるに足る事件だった。
君はその小説も読んだことがあるとのことだった。
君自身も、老婦人との会話の中で、【考えさせられる話】だったと思い出しているから」
そこまで言われて、ピンときた。
あぁ、考察していた動機と同じだ。
それが依頼されたか、己でやるかの違い。
それだけの問題だった。
「つまり、法では裁けない、裁かれることのなかった人物に対して、彼女達なりの正義の鉄槌を与える。
それが、彼女たちが依頼を受けてまで、人を殺していた理由、だと?」
「だからこそ、確認が必要なんだよ。
答え合わせがね」
考察厨さんは、困った顔で笑っていた。
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