夢の世界から出られなくなった

黄昏 光

僕の夢の中の出来事


辺りは不思議な光景に包まれていた。

地面は僕の足首ほどの深さしかない湖が、水平線まで広がっていて、その果てには青色をした太陽らしきものが輝いている。

全体的に見ると、青を基調としたような美しい世界。

何だか、幻想的だ。

……いや、それよりも。

ここはどこだ?

僕は、さっきまで寝ていたはず。

「……夢?」

それにしては意識がはっきりしている。

五感もしっかり感じ取れる。

これが俗にいう明晰夢というやつなのだろうか?

……もし。

もしここが、僕の夢の世界なのであれば。

自分のしたいことが、現実世界ではできなくても……。

―――夢の中なら、何でもできる。

……なんだか興奮してきた。

試しにいろんなことをしてみる。

まず、飛んでみる。

「……とう!」

すると、現実ではありえないほど高く飛んだ。

ギネス世界記録とかのレベルではない。

ざっと、五十メートル以上は飛んでいる。

「……なんだこれ。自分の運動能力がずば抜けてすごくなってる」

滞空時間十秒ほどで着地した。

走ってみる。

―――バン!

「うわっ!」

あまりの速さに衝撃波が出るほどだった。

水面をしぶきをあげて突っ走る時の爽快感がたまらない。

夢の中って何故か走るのが遅いっていうけど、これは想像以上だ……。

十分ほど走っても、疲れは全く感じない。

他にも、水面を思いっきりすくい上げてみたり、高速で回転してみたり、空を浮遊してみたりもした。

非現実的な超能力に、僕は楽しんでいた。






しばらくして。

「……随分と暴れてますね」

誰かが言った。

俺は聞こえたほうに振り向く。

「……魔女?」

見た目は魔女の姿をしていて、右手には杖を持っている。

服装の色は青色をしている。

「まぁそうです」

「どうしてここにいるの?」

「……分かりません」

「えぇ」

「気づいたらここにいた。ただそれだけです」

「……そうなんだ。名前は?」

「さぁ。覚えてないです」

「はぁ」

自分のことが分からないなんて、一体どういうことなんだろう。

「ただ一つ分かることは、あなたにはやるべきことがあることです」

「やるべきこと?」

「あなたは、この夢から覚めること」

「……そのうち勝手に覚めると思うけど」

「何もしなかったら、もう二度とここから出られませんよ」

「え?」

―――じゃあ、どうすれば。

僕がそう問いかける前に、魔女はなんも合図もなく杖を向け、水魔法のようなものを繰り出してきた。

水の塊が、僕にめがけて突っ込んでくる。

「ちょっ!」

とっさの反射神経で避けきれた。

しかし僕はバランスを崩し、水面にバシャンと転んでしまった。

外れた水の塊は進み続け、やがて大きな爆発音とともに散った。

「いきなり何するんだ!」

魔女は強い表情を浮かべ、こう言った。

「この夢から覚めたければ、私を倒してください」

「……!?」

「さもなくば、私はあなたを殺します」

……意味が分からなかった。

夢の中だから、何でもありなのだろうか。





「……倒すって、君を殺さないと出られないってこと?」

「私を‘‘倒して‘‘ください」

「もう何が何だかわからないよ!」

その後も水の塊が複数に突っ込んでくる。

「……ここは夢の中、理由を求めても意味がない! クソっ」

―――バン!

衝撃波を放ち、僕は走る。

そのすぐ後ろに、水の塊が連鎖するように爆発している。

「逃げてるだけじゃ何も変わりませんよー」

魔女が煽ってくる。

「ええい! こうなったら」

僕は逃げから攻めに転換する。

魔女めがけて猪突猛進に突っ込む。

「ぬああああああああ‼」

水の塊を華麗に避ける。

「……!」

魔女はすぐさま水の壁を作った。

「はっ!」

水の壁が、高波のようにうねり迫ってくる。

「とう!」

かなりの高さはあったが、今の僕ならこんなの余裕で飛び越えた。

魔女の真上を急降下する。

「空中じゃ避けれませんよ!」

作られた水の塊がぶつかり、僕は吹き飛ばされた。

「痛い! クソ、夢の中のはずなのに、痛みを感じるなんて」

痛がる僕に、魔女は容赦なく杖を向けた。

「あなた、魔法は使えないのですか?」

「……魔法?」

「ここはあなたの夢の中。何でもありなんです。だから、あなたも魔法を使おうと思えば使えるはずですよ」

「……へぇ」

「そのほうが、面白いですし」

「…………どうして君は、魔法が使えるんだ」

「そんなの知りません。私はただ魔女という設定だから、使えるだけです」

「この世界にいるのは、僕と君だけなのか?」

「そうらしいです」

「……はぁ。そうか」

「魔法、使わな―――」

僕は左手で魔女の杖を掴んだ。

「! 何を」

掴んだまま魔女をこちら側へ倒そうとしたが、杖を手放したせいで失敗に終わった。

だが、杖は手に入った。

「くっ、私の杖が」

「これがなかったら使えないのか?」

「…………」

「今度は、僕の番だ!」

杖を上に掲げ、円を描き、水面を吸い上げる。

「うおりゃああ‼」

大きな水の竜巻を作る。

魔女は無の状態からほうきを出して見せ、それに乗って遠くへ避難しようとする。

「くらえ‼」

竜巻を魔女に向けて吹き飛ばす。

しかし外してしまった。

「くっ、でも魔女はおそらく杖がないと魔法が使えないはず」

「杖がないと使えないなんて、いつ言いましたか?」

「何」

すると魔女は素手で魔法陣を作り出した。

そこから霧状の氷が放出される。

「凍えてください」

「……凍られてたまるか」

僕は杖を地面に突き刺し、バリアを作る。

「これなら大丈夫だ……」

「ふん」

直後、霧状から鋭い氷の柱に切り替わった。

「まずい!」

すぐさま杖を引っこ抜きバリアを解除する

氷の柱から逃げ、いったん距離をとる。

しばらくして魔女が来る。

「…………はぁ」

僕はため息をついた。

どうして夢から覚めないんだ。

どうして君が、僕を殺しに来るのか。

「どうしましたか。いくら動いても、夢の中なら疲れることはないはずなんですけどねぇ」

僕が、君に何をしたっていうんだ。

「どうして、どうして僕が君に殺されなきゃいけないんだ‼」

「……」

「僕は君とは無縁だ! 君のことなんか、何にも知らないんだ‼」

魔女は険しい表情をして、また魔法を放つ準備をしてくる。

「僕を殺したところで、君はどうなるんだ? 何が変わるんだ?」

「あなたは……」

僕の目の前に無数の氷の柱が作られる。

「私の幸せを、すべて奪った。家族も、友人も、愛人も! すべて、あなたのやったことです」

「……は?」

「だから私は、あなたの夢の中に入り、あなたを殺しに来たんです!」

氷の柱が迫ってくる。

「……どういうことなんだ」

僕が、魔女の幸せを奪った?

とんだ人違いだ。

僕は、君のことなんかなにも―――。





『お願いです、私の子供たちに乱暴なことをしないでください! 返してください‼』

……これは、誰の言葉だろう。

この声の感じ、もしかして、あの魔女なのだろうか。

『僕は殺すために来たんじゃないんだ。僕はただ魔女の血さえ手に入ればそれでいいんだ。だから、君たちの血を―――」

これは僕が言ったことなのか。

……この記憶はなんだ。

『あなたには、私たちの血なんかあげません‼』

『だったら、乱暴せざるを得ないな』

『やめてください‼」

あぁ、そうか。

僕は、魔法の力が欲しかったんだ。

魔法の力が手に入れば、僕は怖いものなしになれる。

その好奇心で、僕は手を出してしまった。

……すべて、思い出した。





僕は魔女の背後にすぐさま瞬間移動し、殴り飛ばした。

勢いよく水面にたたきつけ、ついに僕は魔女を倒した。

「……くっ」

魔女は悔しそうな表情を浮かべる。

「思い出したよ。僕は、魔法の力が欲しかった」

「……そうですか。反省したって、許しませんから」

「ふっ。てか、君を倒したぞ。これで目が覚めるんじゃないのか?」

「そんなわけないじゃないですか。私を殺せば、目が覚めます」

「そうか」

魔女の胸に、杖を向ける。

「……もう、どうでもよくなりました。早く殺してください」

「復讐失敗のようだね」

「まぁいいです。これで家族達に会えると思えば、それで構いません」

「……さよなら、魔女さん」

杖を両手に構え、魔女の胸に突き刺した。

胸から血が噴き出している。

「作戦……どう……り」

「ん?」

最後に魔女が何かを言って、息を引き取った。





「……これは、してやられたな」

魔女を殺した後、結局目が覚めることもなく、ずっとこの世界に閉じ込められたままだった。

「ははっ、きっとこれは、あの魔女の呪いか何かだろうか。夢から永遠に覚めなくなる呪いを」

僕は大爆笑した。

「ははははははは‼」

この世界でありったけの力で暴れまくった。

食欲も、寝ることもできないまま、何年も、何百年、そしてこれからも、この世界を、彷徨い続けるのだ。







あとがき

試作的に書いてみました。

魔法、僕も使ってみたいなぁ。



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夢の世界から出られなくなった 黄昏 光 @Shousetukaninaru

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