第157話 良きに計らえ
「皆‶覚悟〟の程は決まっているな!」
「「「おう!!!」」」
死地になるやも、とうの昔に
さぁ、いざ尋常に運命に抗おう──。
「では総員、北部防壁側へ移動!!最大戦力態勢にて、敵主力侵攻に備えよ!!」
「「「おおおおおおおおおおおおお!!!」」」
冒険者’S総リーダーレオバルトの指揮号令に、士気高らかに一同呼応。
他方面の下級アンデッド勢は、超獣防衛部隊に丸投げ。最脅威であるギュスターヴ親衛隊が布陣する北部側へ配置すべく、ロドス宿舎屋上を後にし、全員移動開始。
「は!?こいつらマジか!!」
突然の状況に、米海兵隊五等准尉ジョブスが驚きの声を上げる。
普通であれば、建物内の階段で階下に下りるべきところだが、冒険者たちは優に20mはあろう屋上から、お構いなしで次々とダイブ。屋外地面に難なく着地。
「いやいやいやいやいや、ショートカットにも程があんだろ!」
「しかも、地面が石畳だし……」
「未舗装でも、五点着地の限界を遥かに超えてるよ……」
「どげんしたとー?早よ、降りてきー!」
「「「できるかー!!」」」
当然とも言える地球人たちの反応。軍の訓練でも行われる、足、ふくらはぎ、太もも、臀部、肩の順に「五点着地」と呼ばれる高所着地法があるが、未舗装の地面にて無傷で着地できるのは、熟練者でも10m前後がギリギリ。舗装地となるとその半数以下であろう。
「なんだ、お前たち行かないのか? なら、俺が先に行くぞ」
「「「へ?」」」
「イナバ中尉?」
呆然とする部下たちをよそに、イナバがピョーン──シュタっ!
と、五点着地ではないヒーロースタイル着地。
「「「えええええええええ!?」」」
「どうした、お前たち? 作戦開始だぞ。早く降りてこい!」
「「「できるかー!!」」」
さすがに無理と、すでにファンタジー色に染まるイナバを尻目に、他の地球米兵は
「「「あざっす……」」」
「あ、ああ……」
なんか微妙な空気。まぁそんな経緯はさて置き、冒険者’Sは、北部防壁上への階段がある北東部へ向かう。
「城攻めは三倍の兵力が必要」
と、誰が提言したのか、何処ぞで捩じれ曲がった
そもそもの元ネタは「攻撃三倍の法則」。戦闘において、有効な攻撃を行うためには相手の三倍の兵力が必要とする考え方である。
だが、城塞の立地状況や防衛設備性能で、如何様にも変容する攻城戦に当てはまるものではない。
地球戦史上でも攻城戦に限らず、武器性能や戦術によって、兵力大差を覆す事例は幾つも挙げられる。
しかし、現在ここで行われている戦いは、そんな事例の比では無い前代未聞の極大差。
異世界冒険者と地球兵士の
地球的観点でみれば、戦いもへったくれもない馬鹿げた相対比率。
だが、ここは地球理外の別世界。量より質が、クッソ物言う異質戦域。
それを先ず明言するは、
敵勢においても、注視すべき点は数に非ず。雑多数多の中のイカれた特異質。
ヒュゥゥウウウウゥゥウウウウ!!
ヒュゥゥウウウウゥゥウウウウ!!
ヒュゥゥウウウウゥゥウウウウ!!
ギュスターヴ親衛隊、
次々と超常防衛戦力が沈黙し、防壁に施された魔術障壁を大きく震わす。
その衝撃にロドス陣営は、防壁上への階段を上がる途中で足を止める。
「拙いですわ、障壁が!!直ちに重ね掛け──」
パリーーーーーーーン!!!
耳をつんざく破砕音。ミシェルが対処する間もなく、魔術障壁が破られた。
続く、ロドスを揺るがす衝撃爆轟。
「アカン!!防壁部まで破壊されよったやんけ!!」
北部防壁の一部が破壊。虎獣人ガイガーが叫ぶ中、聖女クラリスが血相を変える。
「いけません!!あの辺りには、私が施した【
「そそ、それは、どう言うことなのかにゃら…クラリス?」
薄々は分かっているいるもの、そう問わずにはいられない猫獣人ネイリー。
「はい……聖域効果が消失しました」
ロドスを囲う四角型防壁に施された、点で結ぶと六芒星を形造る術式。
その一点が破壊されたことにより、聖域効果が解除されたのだ。
「「「………」」」
一同絶句。北部防壁だけではなく、聖域効果まで破壊された今、ロドスは開け晒しの状態。辛うじて、召喚獣たちがアンデット大群の侵攻を防いでいるもの、真っ裸も同然。
「一か所だけなら新たに設置し直し……いや、あの
「その通りったい」
言いかけるも、元を絶たなければ意味が無いと、即時に察するイナバにドーレスが重ねて同意。
取り急ぎ一行は、防壁上の回廊部へと辿り着き、戦況を窺うべく見渡せば、時は来たりと不動山が鳴動する。
「
短く微かながらも、重々しい
「「「仰せのままに……」」」
絶対的忠誠、御意然りと厳粛なレスポンス。ギュスターヴ親衛隊、ついに進軍開始。荒れ狂うアンデッドの大海原の中を、巨大戦艦の如く威風堂々と微速発進。
「ふむ。あれらは、亡者化により知性を失っておったはずだが、強者たる所以か、戦況を見据え、指揮を振るう智も言葉さえも持ち得ておるか……それより、敵にも伏兵が紛れておったかよのう」
「「「!!!!!!」」」
「なに!?伏兵だと!?」
この凶嵐荒れる最中、事の成り行きを冷然と見定める、幻想的に美しき狼獣人。
真なるは、神獣最高峰にして神狼フェンリル女王たるミゼーア。
彼女の神眼に映るは、雑多アンデッドの中に隠れ潜む異質波動。
「うむ。伏兵と言うより、ギュスターヴが本来率いる騎士らであろう」
ミゼーアがそう述べると、有象無象の下級アンデッドが駆け抜ける中、統制の執れた動きで、親衛隊の後方に追従する一団の全貌が露わになった。
その数は約300。いずれも一般人種サイズだが、全身
「マジか…ゾンビどもの中に、まだあんな大隊規模の精鋭部隊がいたのか」
他大多数の元々は、民衆や一般兵、獣種がアンデッド化したものだが、この一団は、選りすぐりの精鋭騎士たちが亡者化したもの。
「王直属の近衛騎士団か」
「ふむ。親衛隊ほどでは無いもの、あれらも亡者上位種であろうな」
その精鋭最たる親衛隊は、中遠距離火力支援特科隊 【
各々3から4m程の巨人族所以の体躯。嘗ては、さぞや名のある戦士や騎士たちであったのだろう。亡者アンデッドになり果てようとも、轟々に迸る凄まじきオーラを幾重と纏っている。
そして、その中央、馬鎧姿の紅蓮巨馬に跨る、嘗ては救世の英雄にして覇王。
長き時を経ても、王たる威光は今も健在。亡者の王にして魔人王。
「勇者もおらんで、あれらとやらんとアカンのか……」
「大昔にその勇者ですら、敵わなかった相手にゃら……」
「英雄譚に記された、伝説の王…アンデッドでも敵でもなければ、手厚く歓待すべきなんですけどねぇ……」
「まともなら最上級VIP待遇ってところか…まぁ何にせよ、もてなすには数が多すぎるぞリュミエル……」
「イナバっち、それなら俺のギャグ百連発で、全員まるっと大爆笑のオモテナシをするまでさハハン」
「やめろやテッド! あのエグイ弓矢百連発で、こっちが全員まるっと大爆発のオチもナシだよ!」
「イナバっちって……」
などと軽口で語り合うも、差し迫る血戦死闘の憂き果てが脳裏に過り、心持ちは実に重々しく険しいもの。
「各々、思うべきところは多分にあるだろうが、余計な事は考えるな!相手が何者であろうとクソ喰らえ!!己がすべき事に
「ドルゥアハハハハ!!かの英雄と刃を交えられるとは、げに誉れがぜよ!!」
悲愴漂う空気を両断すべく、レオバルトが檄を飛ばし、
敵勢主力部隊にして本陣営が、最前線へ堂々出陣。これに対して、ロドス陣も最大防衛態勢へ移行。防壁上回廊、凸凹状の
その陣容は、主に賢者ミシェルを筆頭とする
メルヴィ率いる精霊術&弓兵エルフチーム。
精霊術により強化付与から遠距離攻撃&守備支援が可能な、ドーレスたちドワーフのマルチタスクチーム。
そして、そのドワーフたちの魔改造により高火力を得た、イナバが指揮するレンジャー&海兵隊の米兵チーム。
対アンデッド戦に秀でた浄化魔術を有するも、遠距離術式が不得手の
尚、近接専門の戦士職は、後衛にて待機。つまり、前衛と後衛が逆転。
これまでのボス攻略戦とは異なる、砦防衛戦においての適材適所の配置態勢。
「果たして、我が
「ドルゥアハハハ!竜の咆哮なら、元より
「ふむ。いよいよ、我も‶真の姿〟にて
「‶
そう呟きながらイナバは、意識を静かに深く、闘気を高めていく。
そして、大量アンデッドが超獣たちに殲滅される中、ロドス防衛「虎口」改め、「
ついに、最上級国賓VIP皆々様のご来場。
さぁ、スタッフ一同総出で、最高のオモテナシを振舞いましょう。
「良きに計らえ……」
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