第158話 パラディン



「ふむ。王の進軍により、アンデッドたちが益々活気づいたようであるな」


 冷然と語るミゼーアの眼下に映るは、ゆるりと行軍するギュスターヴ騎士団を避けるように、後続から激しく流れゆく死の群勢。

 更に、東西側の群勢も北部方面へと攻め処を変え、押し寄せて来る。


「もう、ちゃっちゃくちゃらめちゃくちゃったい! 銀騎士たちに、だいぶゴーレムの数が削られたけん、他方面からもこっちに回さんといかんばい!」

「トレントと精霊獣の一部も、北部に回すわ!」


 混沌ながらも戦線が北部へと流れ始め、これに対して、ドーレスとエルフのメルヴィが使役する各戦力の配置移動に取り急ぎかかる。


「オーホホホ!下級アンデッドなど、幾ら数をなそうと、ただの餌に過ぎませんわよ!さぁ、可愛いしもべたち!たらふく喰らいなさい!」


 〘〘〘WOOOOOOOOOOOOOOOO!!〙〙〙


 意気揚々と、高らかに指揮するミシェル。それに呼応する超獣たち。

 

 ロドス防衛陣「虎口」改め「多頭竜ヒュドラの口」内に、続々と我先にと雪崩れ込むも、精霊獣、地獄獣たちに屠られ喰らい尽くされていくアンデットの大群。


 満員御礼、来場客はもれなく超獣スタッフたちが、美味しくいただく狂コスパ運営。そんな兇夢のテーマパークへ、堂々ご来場。超VIP御一行様方。

 同時に、ドえげつないオーラが多頭竜ヒュドラの体内を浸食。その重圧力が、ロドス防壁上に陣取る冒険者&イナバレンジャーたちを、大蛇の如く巻きつきうねり締め付ける。


 威圧耐性が乏しい地球人たちは、そのプレッシャーと緊迫感に圧し潰されそうになり、恐慌状態に陥る寸前。その中、ただ一人だけ至って平静。何やら物言うのは。


多頭竜ヒュドラの口……今更だが「口」って言うのも何かあれだな……。

ラテン語と組み合わせで【多頭竜口ヒュドラオース】ってのはどうだジョブス?」


 先ほど、その場のノリで例えたもの、何か微妙と改名の改名を投じるイナバ。

どこか気の抜けたと言うよりは、自然体だ。


「は?この状況でネーミングとか、どうでもいいよ中尉! 何で、そんなゆるい感じなんだよ!? そもそも正式名は…えっとなんだっけ?」


「超時空要塞イナバっち秘宝館 必殺ダイダロスアタック【フレンチポンポン】さ!ワイルドだろぉお?」

「なんのことだよ!お前は黙ってろテッド!」


「【幻宮砦陣ファンタズマ・バスティオン】ったい……」


 「そうだったなドーレス。ってか、フレンチポンポンって熱海のやつだろ……」

 

 間の抜けたやり取りながらも、地球人たちは平静さを取り戻した様子。

 同時に無意識にて、一帯を覆い纏わりつく重圧力プレッシャーさえも撥ね退けていた。


  ──NEW!威圧耐性レベルUP!LV2→LV3


 兵士がゆえに、すでに備えていた耐性アビリティ。この世界での凶経験も重なり、昨日の段階でレベルアップ。そして、この瞬間にもう一段階強化されたのだ。


「それで、お前たち。何か気の利いた言葉は必要か?」

「「「いらん!!」」」


「オーライ!では、各自配置に就き戦闘態勢O R!」


「「「イエッサー!!」」」


 いずれも、相貌に鋭利な光を灯し、僅かながらも、身体全体を覆い包み込むオーラを発している。

 その様子を少々離れた位置から横目に、ほくそ笑むレオバルト。侮っていた地球人たちであったが、まだまだ未熟ながらもここでのレベルアップはあり難い。

 


幻宮砦陣ファンタズマ・バスティオン】通称改名【多頭竜口ヒュドラオース】内では、進軍したギュスターヴ騎士団へ早速、防衛陣の前衛戦力たる地獄獣&精霊獣が迎撃態勢。

 双頭犬【オルトロス】と、上空から四翼四頭豹【ブラフマー】。精霊獣からは【砂精霊サンドマン】三体と【風妖鎌鼬ラファーガ】二体が迅速対応。


 双頭犬オルトロスは、獄炎と獄氷のブレスを。ブラフマーは四頭部から爆炎、極氷、暴風、雷撃を。サンドマンたちは、砂蛇と化し螺旋を描き突進。ラファーガ二体は暴風刃を巻き起こし、陸空左右前方へ各一斉、多重属性攻撃。

 

 対するギュスターヴ騎士団は、親衛隊移動要塞 金鋼六騎士アウリウムナイツが即座に動き出し、大盾タワーシールドを前方に構え、斧槍ハルバードを上空に掲げる。


「──極鋼錬牆塞アダマンドーム


 極彩色光の幾重もの多重属性魔術障壁ギアバリアを展開。

 色とりどりの眩いエフェクトと共に、一帯を揺るがす大爆轟。

 周辺のアンデッドたちは粉々に吹き飛び塵化するもの、騎士団は全くの無傷。


 透かさず、親衛隊後続の近衛隊が一糸乱れぬ動きで、前方へ移動し陣変容。

 砂蛇突進を障壁バリアに弾かれ、霧散化したサンドマンたちが、再び人型形態に戻りかけたところに、一瀉千里いっしゃせんりと疾走する近衛騎士たち。

 各携える直剣が、瑠璃紺るりこん(瑠璃色がかった紺色)色の光を放ち始める。


 斬 斬 斬 斬 斬 斬 斬 斬 斬!!


 洗練された剣技と、雷光が如し斬撃光の乱舞。


 雲散霧消。


 砂精霊三体は、再度形成も復活の兆候も無く、散り果て消失。


「「「!!!!」」」

「な!?なんばしよったと!?サンドマンが……」


 サンドマンは、ドワーフたちが使役する土属性精霊。砂で形成されているとは言え、本質は超自然霊体。故に、物理攻撃無効であったはずが、剣技のみで消滅させられたことに動揺するドーレス。

 どさくさに紛れて、銀騎士に破壊された防壁を修復していた他のドワーフ二人も「どうよ?」のところで、同様に動揺のようだYO。


 近衛騎士たちは、続けざまに上空に浮遊していた【風妖鎌鼬ラファーガ】へ、剣を振い放つ瑠璃紺色光の斬撃波。二体は小間切れに分断され、儚くも消えゆく。


「ラファーガまで!?精霊を滅するなんて、あの騎士隊は何なの!?あの剣はまさか……」


 エルフたちが使役する精霊まであっさりと屠られ、驚愕するメルヴィとエルフたち。高次元体である精霊を斬る事が可能となれば、限られた系統の術式か武器が必要。察するは──。


「【魂砕きソウルブレイカー】の類か。剣技の方も、相当なものだな……」


「ですわねレオバルト……。おそらく、あの剣は【劣化ペトラマデュリアイト】製」


「劣化ペトラ…マジュマ…ったく、言い辛いな。何だそれはミシェル?」


「劣化ペトラマデュリアイト。純正のものは、魔力マナを通すと虹色に発光。古代魔導戦略兵器製造にも使われた特異超合金ですが、あの魔光色を見る限り、その劣化型かと。その辺りの事は、ドーレスの方が詳しいのでわ?」


「まぁ…ワシも伝聞程度やけんね お嬢。【純ペトラマデュリアイト】は、硬度と魔力伝導性が高い【ペトラマジカ】。柔軟性と魔法吸収、蓄積に優れた【マデュライト】。魔法効果増幅の特性を持つ【ソーサリアイト】を複合した伝説級レジェンダリー超合金ったい。ばってん、希少価値が非常に高いけん、純度の低い量産武器用に使われたのが【劣化ペトラマデュリアイト】ったい」

 

「と云った代物ですわ。まぁ量産型とは言え、現在では入手も製造も困難な超希少合金。更にあの剣を使いこなすには、高レベルの魔術と剣術の両技能が必要ですわ。つまり、あれらは‶魔導剣士ルニックナイト〟…いえ、王直属となると、その上位級の──」


「【聖騎士パラディン】か」


「ですわね……」


 即ち、古代ヒュペルボリア、当時、最強武装国家を誇る【アヴェロワーニュ】主力最高峰の聖騎士団。

 おそらく、10体ずつの分隊か小隊編成なのだろう、精霊獣たちを沈黙させた部隊とは別の一個小隊班が、双頭犬オルトロスへ前後衛に分かれ攻撃。

 剣から放たれる各属性光弾ボルト系の火力支援で揺さぶり、近接剣技にてライフゲージを削り取る。基本とも言える対大型パーティ戦術だが、一切無駄が無い精錬極まる連携陣。


 別の小隊は、上空を飛翔する四翼四頭豹ブラフマーへ剣を掲げ、SFプラズマ兵器の如く、赤、青、黄、緑系色様々な光弾ボルト斉射。

 ブラフマーの四翼はズタズタ。飛行能力を失い落下したところに、一斉剣技にてフルボッコ。

 間もなくしてほぼ同時に、オルトロス、ブラフマー共に倒れ塵化。


「あの子たちまで瞬殺とは…親衛隊に加えて、益々厄介極まりますわね……」


 敵主力部隊の脅威度のマシマシ盛りに、険しき表情で呻くミシェル。


「ふむ。あれら脅威も然る事ながら、有象無象の雑兵どもの猛進も侮れぬぞ」


 相貌を細め、懸念を呈するミゼーア。

 

 他方面からの増援に、ゴーレムとトレント隊が馳せ参じ、アンデッドたちを無双で蹴散らすも、数が多すぎる為に鈍亀の歩み。

 精霊獣、地獄獣たちも同様。途切れなく押し寄せる大量アンデッド駆除にてんやわんや。初っ端、高出力の各範囲殲滅技を連発した所為もあって魔力が尽きたのであろう、ご退場もちらほら見られる。


 些末な雑魚扱いであったが、延々と続く果てしない数の暴威。

 その群体力は相当な運動エネルギー。TNT爆薬威力に換算すれば、いったいどれ程の数値を叩き出すであろうことか、個体差もあり計測不能。


 その暴風高波の中を掻い潜り、標的の許に辿り着くも即座に撃沈。もはや、降りかかる火の粉を払うかの如し。次々と超常戦力が薙ぎ払われ、悠々と行軍を謳歌するギュスターヴ近衛聖騎士団。

 

「多少なりとも‶奴〟の武威がどれ程のものか見れれば、指し手を推し測れると云うべき処だが、こうも取り巻きの守備が堅固とあってはな……」


 ここで指揮を見誤れば致命的であるのは確実。嘗てない相手が超相手だけに、過剰なまでのド慎重。指し手の判断がままならずに喘ぐレオバルト。


 ギュスターヴの戦闘を垣間見たのは、イルーニュ城探索に赴いたテッドたちシーカーチームだけ。聞くも凄まじきものだが、それでは記述に或る伝聞と変わりはない。

 

 刃を交える前に、僅か一振りでも一見すべき処だが、超獣たちは要塞が如し布陣に阻まれ数を削られるのみ。

 最高峰ボスとのレイド戦&継戦マネージメントも考慮し、ただ闇雲に仕掛ける訳にもいかず。何やかんやと、取っ掛かりの糸口さえ見えないまま差し迫る決断の時。


こじゃこれは、勇者専用‶世界級ワールドクエスト〟と同等やきに、迷うのは分かっちゅうが、早よ前切らんと詰んじゅうぞレオバルト!」


 竜人ドラゴニュートのリョウガも同様の思い。だが、もう居ても立っても居られずに脳筋本能が‶バンバン〟囃し立てる。


「あぶっ!!りょ、リョウガさん落ち着いてください!!」

「アカンアカンアカン!!尻尾、尻尾、尻尾!!通路が壊れるで、そのバンバンやめや!!」

「みゃー!破片が飛んでくるにゃらー!!」


 と、うずうずのリョウガの周囲で一部被害が生じている。


 そんな混迷足踏み&フリフリ状態に、同じく指揮する者として呈するは──。


「レオバルト!俺たちが道筋を切り拓いてやる!後の指揮は任せたぞ!!」


 何が見ているのか、双眸に妖しく蒼光を灯し靡かせるイナバ。

 

「「「は!?」」」


 その一切迷い無き明言に、冒険者’Sの面々は呆然。

 

 イナバが地球にて所属するは、アメリカ陸軍特殊作戦コマンド

 第75レンジャー連隊。その部隊のモットーは──。


「Rangers lead the way(レンジャーが道を拓く)!!」


「「「Of their own accord(自らの意思で)!!」」」


 イナバの宣誓に他レンジャー三名は、及びの部隊信条を重ねる。


「いや、俺は海兵隊だし、モットーは…まぁ…はいはい、上官の指揮に従いますよ」


 と、ガチノリに已む無く従うジョブス。彼ともう一名の所属はアメリカ海兵隊。

部隊モットーは──。


「「Semper Fiセンパーファーイ(常に忠誠を)!!」」

 

 

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