第136話 ロドス



 地上、ヴィヨンヌ南部 冒険者’S 拠点。元都市衛兵駐屯砦。


 その様相と規模を語れば、高さ10m程の城壁に囲まれた四角形の要塞。敷地面積は日本の公立学校の平均面積と同等、約8,500平方メートル。

 壁内には、数百人は居住可能なゴシックとネオヴィクトリアン様式が組み合わさった石造りの建物。右手には、都市健在当時の兵士たちの戦闘訓練用大広場。


 発見当初は、雑草が生い茂り荒れ果てていたが、建物内部も含め魔術により清掃、修繕、浄化がなされ、現在は整然とリフレッシュ。施設機能が完全復活。


 その中にはサウナや大浴場が備えられ、各自、大分堪った疲労や汚れを綺麗さっぱり流し落としたところで、ようやくの大宴会。


 先ほどまで、あちらこちらで呑んで歌って珍妙に踊り笑う、カオス大盛り上がりの様相であったが今は落ち着きを見せ、ちびちび、しみじみと呑みながら各席で語り合う一同。


「それで、イナバよ。ここの名付けは決まったか?いつまでもただの『拠点』との呼び名では味気が無いであろうからな。今後の行動次第で第二、第三の中継拠点も必要やも知れぬし、識別の呼び名はあった方がいいであろう」


「は? コールサインってことか。決定権、俺かよ? こう云うのって総リーダーが決めるんじゃないのか?レオバルト」


 と、突如の拠点コールサイン ネーミング決議会が一部のメンツで開かれた。


「お前が、ここを見つけ出し住居に決めたんだ。云わば、家主であろうから当然であろう!」

「そんなルールなのか! いや、俺一人で見つけた訳じゃないし、共用扱いだろ。

他からも案を募り、多数決の方がいいんじゃないのか?」


「まぁ、それもいいだろう。誰かここに相応しいと思える名の案はあるか?」


 ぶっちゃけ面倒くさいので、この手の事が得意そうな(勝手偏見)イナバに丸投げのレオバルトであったが、他の候補もあるならば、それもまた一興であるとのエンジョイ思考。


「じゃあ、俺の案を挙げると『痛快なりゆき拠点 風雲イナバ城 』とか?

もしくは『超時空要塞 イナバ秘宝館 』ってのはどうだいハハン?」

「うるせーよ!お前は黙ってろ、黒ボケ兎!」


「おい、そこで俺の名をネタに大喜利を始めるな。風雲うんたら城もマクロス風もだが、秘宝館って熱海の……お前なんで知ってるんだよ? 」

 

 テッドは転生前から親日家で、日本の某大人のテーマパークに訪れていた様だ。

ジョブスは、テッドが米海兵隊の頃からのツッコミ役であったが、イナバもいつの間にか、その気質に目覚めていた様子。


「そいでイナバよ、おまんの考えの方では何んちゃあ、決まっちゅうが?」


 腕を組み瞼を伏せ、寝ているのかの様であった竜人ドラゴニュートのリョウガが、とっとと話を纏めろと言わんばかりのズバリの問い。


「ああ、まぁ一応考えたけど、真っ先に思い浮かんだのは──『ロドス』だな」


「「「ロドス?」」」

「それは地球の言葉か? どう云った意味なんだ?」

「イナバ中尉、それは、もしや‶ロドス島〟のことか?」


 レオバルトの問いに、レンジャーの一人が記憶にある歴史的地名を重ねる。


 それは、エーゲ海に浮かぶギリシャ領の島の名。島と言っても長さ80km、沿岸線が約220kmにも及ぶ巨大な島だ。


「ああ、それだよ。ロドス島には、かつて‶聖ヨハネ騎士団〟が築いた城塞都市が、今現在も保持され、ヨーロッパに現存する中世防衛拠点施設群では最大級の規模なんだよ」


 その規模は、旧市街を全長4kmに及ぶ堅牢な城壁に囲われ、世界遺産にも登録されている。


「へぇー、地球にも僕たちの世界の様な、騎士団や都市形成様式があったんですねぇ」

「魔術と科学とで発展したことわりは違えど、同じ言葉を話し、同じ人種の容姿。歴史上の何処かに、共通する文化が在ってもれ必然であろうぞ」

「イナバは、そげん共通ば歴史背景から、ここを見つけちょったばい」

「聖ヨハネ騎士団……その名の印象から、宗教騎士団の様ですね」 

 

 聖ヨハネ騎士団は、11世紀に起源を持ち『テンプル騎士団』『ドイツ騎士団』と共に、中世ヨーロッパの三大騎士修道会の1つに数えられる宗教騎士団。

 

 などと、ネーミング決議会に参加してきた王子リュミエル、神狼女王ミゼーア、

ドワーフリーダーのドーレス、聖女クラリス。


 他の様子を語ると、賢者ミシェルは、その傍の床で大の字。エルフリーダーのメルヴィは、テーブルに額を擦り付ける様に伏せ、共に酔い潰れて爆睡中。

 珍踊り高笑い疲れた天氷狼スコルの阿狼、吽狼や、冥狼ガルムの月影、灯影、ミゼーア親衛隊も同様。


 虎獣人ガイガーと猫獣人ネイリーは、巨人族ルーツ女性タンクのイルザを交え、未だに爆食いチャレンジ中。他米兵は、この決議会とドワーフたちとの武器談義中の半々。他も床で寝てたり、各テーブルであーだこーだとどこぞの居酒屋状態。


「それで、ロドス島は14世紀から2世紀に渡って、聖ヨハネ騎士団の本拠地であったんだが、オスマン帝国の圧倒的な数に攻め入られ、占領されてしまったんだがな」


 オスマン帝国は、テュルク系(後のトルコ人)オスマン家出身者を君主とした多民族帝国。15世紀に東ローマ帝国を滅ぼし、17世紀の最大版図は、東西にアゼルバイジャンからモロッコ。南北はイエメンから、ウクライナ、ハンガリーに至るエグイ広さの領域。

 古くからイスラム教、キリスト教圏諸国に殴り込んで領地を広げまくり、取った取られた大忙しの暴れん坊国家であったが、後に第一次世界大戦にて敗戦。それからなんやかんやで解体し、現在の『トルコ共和国』建国への流れとなっていた。


「その様な大国に占領……それは、不吉な地の命名では無いのか?イナバよ」


 レオバルトが指摘する様に、現在ヴィヨンヌは無数の亡者、屍人が蠢き彷徨い歩く魔界都市。そんな中、ここは荒れ狂う大海原に浮かぶ孤島の様なもの。

 その命名では、いずれ同様に数の殲滅力に蹂躙され、同様の結末に至るのではと、危惧と憂慮の想いが脳裏をひた走る。


「ああ、確かに俺も想思ったよ。だが、その騎士団は敗走後に別の地で、更なる堅牢強固な都市を築いたんだ。しかも、オスマン帝国からの攻勢にも、見事防衛を果たした、今現在でも遺る難攻不落の城塞都市ヴァレッタをな」


 それは、地中海のマルタ島 城塞都市『ヴァレッタ』。正に海に浮かぶ大要塞。軍艦島とも称されたが、海上から見るに、それを遥かに超える大スケール。

ロドスと同じく世界遺産に登録されている。

 因みに、人口の倍近く生息する「マルタ猫」。マルタ島は別名「猫島」とも称され、ネコ好きには溜まらない楽園である。


「つまり、この拠点は、あくまで一時しのぎ。『ロドス』と銘打ったのは、いずれ盤石、安寧楽園の地ニャン島 ヴァレッタに至ると云った、意味合いを込めての仮住まいの屋号なんだよ」


 イナバは、例えで「安寧楽園の地」と抽象的な表現の言葉であったが、本懐に抱くところは、各々‶元の故郷への帰還〟と云った意味合いの表現だ。


「なるほど。ここにいつまでも居座るつもりは無いからな。正に打ってつけの名付けと言ったところだろう。ヴィヨンヌ最後の防衛拠点‶ロドス〟か。それで決まりでいいと思うが、他に案はあるか?」


「意味合いも含め、素晴らしい呼び名だと僕は思いますねぇ」

「地球の聖騎士団が砦拠点としていた地名ですか。実に妙名ですね!」

「ワシも賛成やきに、そいでえいろう」

「ブォホホ!良かとですばい!」

「ふむ。我も其れを是としようぞ」


「その決定に異議あり!」

 

「「「「!?」」」」


 いずれも盤上一致で可決と思われたが、一名だけ異を唱え、某逆転裁判の如く、人指し指をビシっと指し示す。


か……。一応、聞いておこう」


 彼に、臨時案決議委員会?一同の審議の注目が集まり、その不撓不屈の決意を露わに力強く告げる。


「俺は『痛快なりゆき超時空要塞 風雲イナバ秘宝館。百人ノッても大丈夫だぁ!』を推すよ! 正に打ってつけの絶妙極まる名だろ?ぅあ?」


「却下だ。よし!『ロドス』で決まりだな!」





 その頃、地下ダンジョンにて、未だにひたすら行軍中の幻浪旅団一行。


『お腹がクソすいたのー!』

『うん、バチクソ腹減ったね、おねたまー』

『ワイもクソ減ったフィィ!』

『『『クッソ同じくフィィ』』』


「だなぁ。時間もクソ遅いし、いい加減歩き回るのもクソだりぃし、そろそろどっかで野営キャンプが必要だな」


「賛成じゃあ。ワシもぶちクソ同感じゃけぇ。はぁたいぎーもうダルいのう」

「オレノ腹ノ蟲共モ騒ギ立テ、収集ガツカナイ状態ダゾ」

「クソチンカス共が、なんやヌルい事ゆうよるやんけーボケ。せな しゃーないし、うちも団長の案に一応ノッとくわなハゲ』

『『『ワオン!!』』』


 トールの周りには、各種リーダーや神狼双子以外にも小型化したグリ坊、ヒッポ娘らがまったり浮遊飛行。暴言を吐きながらも、勝手従魔契約に至った剣歯白虎ホワイトサーベルタイガーのナーヴを連れ添い、その後を仔狼たちが付き従うゆかいな仲間たちの絵面。


『カレン様とトア様の言い回しが……』

「ええ、朔夜。誰かさんに完全に毒されているけど、口の悪い輩が増えたわね……」

『あの御仁の影響力はクソぱねぇでござるから、某らも尋常に用心クソ然り!』

『兄上にも何やら影響が……』


「……まぁそれで、この辺りでこのメンツが揃って休める場所なんてあるのかしら、サウル?」


 臓物の様な鍾乳石に浸食された組積造キモ通路を、ちょいちょい戦闘をこなしつつ半日以上延々と歩き続け、いずれも腹の虫がクーデター中。そろそろ鎮圧の必要が差し迫っている状況。

 その中で、この多種多様な面々、総勢103名の野営空間となると大分限られるだろう。


「ああ、リディよ。この先に地下河川の合流点となる広めの空間があるのだが、全て自然物ゆえに、見た目の光景もこれまでより遥かにましであろう」

「なるほど。地下自然オアシスと言ったところなのかしら」


 帝国小鬼インペリアルゴブリン王子サウルの言葉を確証するかの様に、入り組んだ通路先の方で、微かに水流の反響音が耳に届いてきた。


「あー、確かにオアシスの様だが、俺らだけに限った訳じゃなそうだな」

「すでに感知していたか……まぁその通りだトールよ。多少掃除の必要があるが、些細な日常家事程度であろう」


 それは、この陣容だからこそ言える些末事の様に語るサウル。そのオアシスに辿り着くと複雑な地形だが、広さは歌舞伎町シネシティ広場、俗名トー横と同等面積(832㎡)の大空間。

 複数の滝から注がれる清流が、複数の小川を形成し繋がり、下流洞窟へと流れ出でている。天井、岩壁には無数の発光鉱石が散りばめられ、幻想的な地下自然空間を照らし写し出していた。だが、が居なければの話。


 そこは、多種多様の形態生物が大手を振って闊歩し行き交う、トー横か渋谷スクランブル交差点さながらの混沌大賑わい。悪夢のハロウィン収穫感謝祭 開催中。


「あー、結構いるなー。つうか、どいつもこいつも頭部がきっしょい仕様だなー」


「何か共通しているわね……胴体部は、割と種の分別がつくけど、頭部だけ何だかよく分からない奇妙な形状ね」


 胴体部を見る限り、人種、獣種、小型恐竜種など判断できるが、頭部がカニの様であったり、花びら型、イソギンチャク型等、いずれも顔パッカーンな形態。


「あれらは、全て‶ラフレイダー〟だな。しかし多すぎるな……」


「「『『ラフレイダー?』』」」


「あがーは、元々亡者や魔獣など各別種の生態。じゃが、寄生蟲‶パラネス〟に寄生され変異しよったクソ生物。そがぃが【ラフレイダー】じゃけぇのう」

「以前ニ比ベコノ多サハ、ナノカ……」


 サウルの情報に継ぎ足す古代醜鬼エルダーオークゲバルと古代獣鬼エルダーオーガのゾイゼ。この寄生生態を周知している様子。


「主にヴィヨンヌ壁外、西部森林に生息していた‶歩く肉食植物〟だが、捕食したものを基に体内にて精製した【パラネス】の卵を他生物に射出し寄生。あの様な形態に変異させると云った兇生物。度々同胞たちにも変異被害は確認されておるよ。それが、地下迷宮にまで繁殖の触手を伸ばしていたと云う訳だ」


「かなり厄介な生態の様ね……」


「正にだな。しかも、その肉食植物は菌類にて胞子を飛ばし、同菌類植物が故か、キノコ類に寄生して変異繁殖。二系統で増殖する悍ましき生態なのだ。元は、何処かと聞いておるよ」


「エグイな……つうか、歩く肉食植物ってあれか?‶ラフレシア〟みてーだな」


 異形の群の中 所々に、ダンシングフラワーの如く、うねうね踊りながら歩き回る地球最大の花『ラフレシア』に似た花型動生物。


「ああ、あれが、その寄生型菌類 肉食動植物類──【パラシア】だ」

  



 ────△▼△▼△▼△▼△▼△▼────


 ここまで拝読感謝御礼でございます<m(__)m>


 ここでセントラリアにての寄生生物が明らかになりましたが、今回ネーミングの方は、ぶっちゃけAIチャットにて幾つかの案から採用したものです。

 検索必要ワードは自力で弾き出すしか無いですけど、格段に救われております。


【パラシア】は「パラサイト(寄生)」と「ラフレシア」の合わせ造語。


【寄生蟲パラネス】は「パラサイト」と「ネスタ―(巣主)」の合わせ。


【ラフレイダー】は「ラフレシア」と「レイダー(略奪者)」の合わせ造語となっております。



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