第84話 便所虫かよ?
トール、リディとカレン、トア(フェンリルモード)の
場合によっては再び戻って来る可能性もあるが、それは状況次第。外の環境が全く把握してない状況下で、この快適極まるセーフティゾーンは貴重。必要とあらば是非とも有効再活用したいところである。
「あれ? ここって、俺が扉に穴を開けたはずなんだが……? 穴が塞がってるな……鉄鉱石かこれ?ピッタリ
そこは、トールがこの厳重施設に入る為に、鉄製頑強扉を極大剄力でぶち開けた穴だが、何故か鉄鉱石のようなもので隙間なく修繕されていた。
「ああ、それね。ちょっと待ってて。──術式リリース」
「うお!?砂になってまた穴が!?……砂鉄だなこれ……どうなってんだ?」
『それ、エルフ特有の【ギア】で【スピルギア】だよ!おとたまー!』
「は? ギア?それと、 スピ…なんだってー?」
「【ギア】は
『普通のエルフだと土の壁なんだけど、ハイエルフのは鉄のすごい硬い壁をつくれるってお母たまが言ってたのー』
「フフ、そういうことね。何か変なものが入って来ると鬱陶しいから、仮で塞いでおいたのよ」
「……はぁ、名前から、精霊の力を用いた魔術ってところか」
「まぁ、そんなところね」
これまでの話から理解を示すトールだが、混乱の色も残しつつ扉の穴を抜ける。
そして、昨日
視界確保の為にトールは『M27 IAR』。リディは『Mk18CQBR』のウエポンライトをONにする。すでに即席聖域効果は消失しており、その空間は重く不気味な雰囲気に照らされた。
「あ、ちょっと待って。あの居住エリアはまた利用させてもらうかもしれないし、
一応ここ塞いどくわね」
そう言いながら振り返った先は、最奥に扉がある物資搬入用駐車スペース。横幅、奥行き約8m、高さ4mほどの壁を掘り抜いたコンクリート製空間。
「え?……ああ、そうだな。戻って来たら、悪趣味な観光客たちで満室になっていたとか勘弁だからな」
「術式陣起動展開。プロトコルコード、エレメンタル」
リディが、そのスペースに向けて掌を
「おー、すげっ!」
「インタプリタ実行。ソースコード ノーム。カテゴリー ディフェンシブ・ウォール。──レベル4【
詠唱が終わると、煉瓦色光の魔法陣が完成。ゴゴゴと重い地響き、床から銀灰色の金属砂粒が間欠泉の如く幾つも吹き上がる。瞬時にその空間を全て埋め尽くされ、外壁とはフラット。隙間無く一体化した。
『うわぁぁぁ! すごいリディ! すごく堅そうな壁ができたのー!』
『ガチすごーい! これで、誰も入れないねー!』
「……マジか……これはさすがにぶち破れねーな……。なんの金属だこれ?」
「フフフ、比重19.3。モース硬度は9。重さは鉄の2.5倍。融点は3422℃。
──タングステン製よ」
「……はぁ、左様でございますか……」
『タンがすげーくせー? それはすごいことだねー!』
「そりゃ近寄りたくもねーな。嫌なすごさだなーそれ。って、違ぇーよ!」
トアの小ボケ耳にトールのノリツッコミが木霊する中、その場を後にして進むは、この大空間の反対側。
車両駐車スペースがあると言う事は、車両通路もあるはず。行く行くその先には、外界へとの出口でまず間違い無いであろう。
と、思うのはここが地球であればの常識論の話。確かに途中までは四角形コンクリート造りの車両通路ではあったが。
「……なんで、こっから洞窟になってんだよ?ぜってーここ、物資搬入用トラックとか入れねーよな……」
その洞窟の開口部は、幅約3m、高さは4m程の自然洞窟入口。入ってすぐに下がった段差があり、歪に折り重なった鍾乳石のような岩が地面所々に見られる。
「……推測だけど、ここまでが地球にあった施設が丸ごと転移か、この世界の神が複製創造で設置した領域……。おそらくここには、様々な世界の古今東西の建造物や領域が、混沌と存在していると思うわよ」
「はぁ!?お前、ここがどう言ったところか分かってんのか?」
「とある人物から聞いた話よ。その世界は建造物もだけど、生態系も地球だけではなく幾つものの異世界から、幾重にも入り混じって生息する混沌世界。その中には
「……クソヤベー世界だなそれ……。で、その世界の名称ってあるのか?」
「ええ、あなただけでは無く、私が生まれ育った故郷の世界。そして地球でも多くに知られる、天界と地獄の畏怖すべき中間世界。それは──」
「──
「フフフ、察しがいいわね。そう言う事よ。これまでの地球での常識は全て捨てた方がいいわよ」
「……なるほど。お前がアフガンで言っていた「全て覚悟しろ」ってこの事か……。
ハハハ、上等! つまりは何でもあり。この世界丸ごと
──NEW PICTURE〖タクティカルピクチャーが変化。コール上書き。
新たなピクチャーを確立〗
トールの脳内で新たな情報認識が確立された。人間誰しも過去から得た知識経験により、常識、ルールと言った型が構築される。ここでは、それらを一切合切
「ん!?」
──RADER CONTACT BANDID〖レーダー捕捉。敵判定〗
NEAR-FAR〖複数反応〗
「あー、この先に何か群でいるなー。便所虫かよ? 洞窟内とかにも、アレは大量にいるからなー」
「その感知スキル、ずいぶんと優れているわね。──術式【
『うん、いっぱいいるのー!きもち悪い音ー!』
『大きい虫かな? おとたまどうするのー?』
「あー、回り道をしてもどこも似たり寄ったりだろうし、友好的では無く、好戦的なら全部敵だろう。通り道にふんぞり返って塞いでいるようなら排除するしかねーな」
「オーケイ。
「そんで、カレンとトア……いや、何でも無い。とりあえず、あてにしてるぞー!」
『『ラジャーッサッサー!!』』
その姿は
──HOSTAILE〖
──OUTLOW〖ROE新基準(敵、邪魔、ぶっ殺す)を満たすコンタクト〗
トールの脳内感知レーダーに、レッド反応表示。煉獄の巨釜とも呼ぶべき禍々しい兇気に溢れたその洞窟内に入り進む
洞窟の壁や天井の岩肌は悍ましく異様。まるで巨大な生物の腹の中を思わせる。肉片のような赤黒い苔、黒い血管のような太い蔦状のものが、幾つも張り巡らされていた。
「フフフ、中々のロケーションのようね」
「……悪趣味すぎだよ」
『『キモ~~~~~い!!』』
──mission2 start!『煉獄、
──ENGAGE〖会敵〗
「うわっ!キモっ!でかっ!多すぎっ!」
わらわらと数十匹。地面、壁、天井に群がるキショい昆虫属の生物。体長1.5mはある、濁った白地に黒のまだら模様のカマドウマ。所謂便所コオロギ。
本来の名の由来の「カマ」は、
ギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギ
ギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギチャギ
──地獄低位界、直翅類目 イビル・ダイストラメナ科
【マダラ・サイスドウマ】
「あなたが例えでツッコんでいた‶便所虫〟……正にその通りだったみたいね……」
「……ああ…そうだな……」
そして、
「よーし、ロックンロールだ!俺とリディは銃で数を減らしつつ援護射撃をするから、カレンとっと!?おいカレン!何を!?」
『アタシにまかせて!おとたまー! 見ててよー!!』
そう言い放ち士気高らかにカレンは勢いよく駆け出し、一斉に向かってくるサイスドウマの群へと快速疾走。
『
謎な言語術式を詠唱直後、カレンの左前脚、黒のフレアー模様が燃え盛る黒炎に具現化して増大。堕天使の黒き片翼の如く大きく
それを目にしたサイスドウマの群は、進撃の脚を止め慄き怯みだす。
「なんだありゃ!? 黒炎の片翼……。あれって
「……あんな
地球の燃焼化学理論での黒い炎は確かに存在する。化学変化による炎色反応。そして、純粋な燃焼温度上昇による火炎色の黒色。その温度は摂氏8,636,748度。太陽の表面温度の凡そ1440倍。
これはあり得ない。そんな超温の熱エネルギーがこの場で発現すれば、超極度の温度差による熱核爆発の誘爆に次ぐ誘爆と、超熱温度による相乗効果で、この場の生体は勿論、世界そのものが瞬時にジュッ!であろう超超高高熱。
その事象が起こり得てないと言う事は、この黒炎は全くの別物。地球の理とは大きく異なる法則による獄炎色。その熱エネルギーは化学理論では、全く解明不可の現象。
『いけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
最大術式発動。『ムシュフシュ』との発音の魔術獄炎名を発すると、黒き片翼
その【
『はぁ、はぁ、はぁ……』
「だーっ!カレン!今ので、魔力をどんだけ消費してんだよ!ライフゲージもがっつり削られてるじゃねーか!初戦でいきなり超必殺ぶちかますなよ!」
「おそらく、あの子に取ってはこれが初の殲滅目的の全力戦闘。明らかな経験不足ね。必要以上に
『おねたまぁぁぁぁぁあああ!!』
その威力は絶大だが、幼い身体と未熟な魔力調整により、加減ができずに相当の負担が生じていた。それを察知してトールは慌てて、ふらふらになっているカレンの許に駆け寄る。リディとトアもそれに続く。
『……えへ…へ。ごめんなさいおとたま。ハリキリすぎちゃった……』
「ああ、分かってるって。けどよくやったな。クソすごかったぞー!」
トールは無茶をしたカレンを叱らず、その功績を称えながら優しく抱き、労わるように撫でる。同時に練りまくっていた
すると、見る見るうちにカレンの魔力と生命力が回復。これで一つ、自らの身体で学んだであろうと、特に諫めることなく褒めて育てる、のびのび教育プラン。
『クゥゥゥン……おとたますごく暖かい……気持ちいいのぉ……』
『おねたまズルいーっ!おとたま、ボクも撫でて撫でてー!』
「だーっ!コラっトア!おまっ、まだ戦ってねーだろ!あーコラ、腕を甘噛むな!」
そんな微笑ましい光景を見ながら、リディは顎に手を当て訝し気に何やら思案。
昨日もカレンとトアを救い出した状況を聞き、リディはまさかと、我が耳を疑っていた。しかし、実際にこうして目の前でいとも簡単にそれを成した事に、驚きの表情を見せていた。
「……地球人が、
───
「あー、今の騒ぎで、また何か来やがったぞー」
「嫌な予感がするわね……ビジュアル的に……」
『『きしょいのイヤ~~~~~!!』』
──
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます