第5話 猪突で猛進
──果たしてこれが戦闘と言えるものなのか?
ダダダダダダッダダッダダッダッダッダダッダッダダッダ!!!!
ゴガシャン!!ブシュゥウウ!!ブルン!ドオン!!ガシャガシャン!!
ボォオ!!ドオオオオオン!!!
番いの暴君は、交差点の左右と後方から暴風雨のような制圧射撃を受けるも、何食わぬ顔で悠々と横行闊歩する。
その歩みに邪魔があれば踏み潰し、その頭部の膂力で盛大に弾き飛ばす。
弾き飛ばされた車両のまだ熱々状態のラジエーターが潰され、熱湯化している冷却水が吹き出し、別の車両は飛ばされ炎上、そして爆発!!
その巨躯の剛脚は生きた強大プレス機。その頭部は某強面俳優も形無し、顔面凶器ならぬ顔面戦術兵器。
見た目だけのインパクトなら、顔面戦略核兵器であろう。
アメリカが世界に誇る、虎の子精鋭対テロ特殊部隊でも、相手は10m級の怪物。さすがに、対人用の5.56mm弾では豆鉄砲同然、想定外にも程がある。
『Fuck!! After all,the 5.56mm bullet is useless for this guy!!!』
⦅クソがぁ!!やっぱ、5.56mm弾じゃ、こいつにはクソの役にも立たねー!!!⦆
その、超剛毛の黒毛は「アラミド繊維とタングステン製か!!」と、ツッコミたくなるほどの対防弾スペックに、隊員達も声を大に泣き言を愚痴る。
グレネード系の高火力が恋しいところだが、ここは多くの自国民、外国人も超多数生活する大都市部。増して、大勢が行き交う繁華街などでその使用は認められない。
閃光グレネードなどは使うものの、巨猪らは「ちょ、眩し、うっさ、迷惑だからやめてくんない?ま、いいけど」の感覚程度であろう。
彼ら番いの巨猪からすれば、屈強な精鋭部隊でも殺意はおろか、敵認定すらされていないのである。
『……これは一体、何を見せられているのでしょうか……これがどうしても今現在、現実に起こっている事とはとても思えません……番組ご覧の皆様は、どうお考えでしょうか?…』
某有名キー局入社18年目の男性アナウンサーも、余りにも現実離れした中継映像に、白昼夢でも見てるが如くコメントが迷走する。
因みに、この轟音にそこそこの距離がある中、隊員達の音声が日本のお茶の間に届けられるのは、どうやらご都合ピンマイクが付けられているに違い無い。
『Put the soft sound in your hips!! Until the hunter comes, just earn time !!』
⦅弱音は、自分のケツにでも突っ込んでおけ!!‶ハンター〟が来るまでは、とにかく時間を稼ぐんだ!!⦆
部隊を指揮するブロンドにオールバック、ナイスミドルガイ、お尻フェチFBI特別捜査官がマガジンをリロードしつつ隊員達を
どうやら、彼らが与えられた任務は巨猪らの討伐が目的では無さそうだ。
急遽、編成されたタスクチームに与えられた最重要任務とは、市民らへの可能な限りの被害の軽減と及び足止め、時間を稼ぐ事が最大の責務である。
何かの隠語かコールサインか、その‶ハンター〟と呼ばれる何かが到着するまでの時間を……。
巨大ながらも、見た目は猪だが角付き。その角を振るい突き進み、その巨体で猛進する姿は、まさに正真正銘「猪突猛進」と言えよう。
彼らにとって人間など「小アリが何やら、わーわーしてる。知らんけどー、キモー」的な感覚であろう、何をしようが意にも介さない、邪魔な物は蹴散らすのみ。
ブフウウ!!フンガ、フンガ、フンガ!
番いの巨猪はしきりに鼻をひくつかせ、何かを探すかのように匂いを辿っているようだ。
そして何かを嗅ぎ取ってるのか、北側を見据えてマンハッタン七番街通りをひたすら猪突で猛進する。目指すこの先にあるのは──。
『Is this monster's! heading to Central Park!?』
⦅こいつら!セントラルパークに向かってるのか!?⦆
ニューヨーク セントラルパークは、都市公園としては非常に広大。
面積は341he、南北4km、東西0.8km、森林に湖とマンハンタンの摩天楼の中に佇む自然豊かな公園で、自然保護区にも認定されている。
サイズと出どころは兎も角、やはり野生動物、大都会の空気はお気に召さないようだ。
巨大な番いは、木々香るマイナスイオンを求め、北へ北へと猛進する。
『ど、どうやら、彼らはここから北側にある、ニューヨーク セントラルパーク方向へ向かっているようです!だす!』
辛うじて報道魂を燃やし、そのクールビューティの顔や衣服は汚れ、日本語がやや怪しいながらもこの報道レポートは責務であると、むしろ勇ましささえ感じさせる早見である。
「……この、女性レポーター、ガチだな…ファンになりそうだよ』
この異常で危険極まりない状況でも、戦場レポーターさながら報道を続ける早見の姿に、多くの日本人が感銘を受けているようだ。
『し、しかし、この巨大な未確認の生物は、一体どこから現れたのでしょうか? 報告では、‶突然現れた〟としか、分かっておりまそん!せん!』
『早見さん!木戸さん!いい加減、もう逃げた方がいいっすよ!こっち来てるっすよ!ヤバイって!!』
徐々に近づく巨猪らに、さすがに危険と感じた報道クルースタッフが早見とカメラマンに避難を促す。
『まっ待って!あ、あれだけ攻撃を受けても人には見向きもしないわ!建物の壁沿いに避けていれば、大丈夫…そうじゃない?』
日本の報道クルーは、巨猪らに向かって左側の歩道側に居り、巨猪らの動きを見る限り人はガン無視で、直接的な危害を加えそうに無い。
『いやいや、めっちゃ車蹴散らしてるじゃないすかー!巻き込まれますよ!』
確かに、報道クルーは巨猪らの真正面ではないが、先ほど飛んできたイエローキャブ弾によって多少散らばったものの、車道には無人の車両が多数健在している。
巨猪らにとっては、完全にクっソ邪魔な障害物として認定案件である為、確実にぶっ飛ばすであろう。
『Shit!Those guys are still in place!!Do you want to die!?』
⦅クソ!あいつら、まだあんな所に!!死にたいのか!?⦆
ドオン、ガシャン!!
『きゃああああ!!』
有言即実行か、言ってるそばから速攻で邪魔な車両がぶっ飛ばされ、危うく建物との間に挟まれそうになり、紙一重で難を逃れる激運報道クルー達。
「もーダメよダメダメ!」と、クルースタッフらは、早見とカメラマン木戸を無理矢理引きずるように、その場から連れ出そうとする中、状況に変化が起きる。
ピッガッ
『《Ahh. To the agent,this is cougars,radio check over?》』ガッ
⦅あー、代理人へ、こちらクーガー。レディオチェック オーバー?⦆
突如、FBI特別捜査官が、所持する無線機の元へ、コールサイン‶クーガー〟と名乗る者からの通信を受信する。
このまま足止めもできずに、人的被害が増える一方なのかと焦燥感が募る中に、ついに待望の‶客人〟が来たかと、ニヒルな笑みを浮かべるナイスミドルガイ。
『This is agent!Your voice loud and clear how do you here me over!』ガッ
⦅こちら代理人だ!ああ、はっきりとよく聞こえるよ!オーバー!⦆
『《Arrived at LZ.Your guys did a good job now.Leave the rest. Break over.》』ガッ
⦅今、LZに到着、配置についた お疲れさん。後は任せてくれ ブレイクオーバー》⦆
『From agent to cougear!!Thank you! Roger out!!』ガッ
⦅代理人よりクーガー!!感謝する!ラジャー、アウト!!⦆
通信終了後に、特別捜査官はM4カービンを下げ、勢いよく右腕を上に拳を掲げる。
だが決して「やったー!」とか、某世紀末覇者の最期の如く「我が生涯に一遍の悔い無し!!」などでは無い、むしろ有り有りだ。
そして、親の仇のように撃ちまくり、トリガーハッピー、コンバットハイ状態の隊員たちが動きを止める。
まぁ、つまりは「攻撃を止めろ」のハンドシグナルである。
『Alright!You guys!The hunter has arrived !But still, don't loosen the hole in the ass!!』
⦅よーしお前ら!ハンターが到着したぞ!だが、まだケツの穴は緩めるなよ!!⦆
FBIのタスクチームらには事前に情報が通達されているようだが、片やNYPDのSWATチームは、所属も作戦内容も異なる為「聞いてないよー!」と、困惑の様子だ。
『え?ホワッツ?どいうこと?何で攻撃が止んだの?』
巨猪さんらは、今だに元気ハツラツ、悠々と闊歩している。
当然日本報道クルーとカメラ向こうの視聴者も、突然の攻撃停止に「どないやねん?」と困惑する。
そんな混迷の中、辺りは二頭の巨猪が発する荒々しい息遣いと、ドスドスと重く響く巨躯の足音のみが、その場をただ支配していた。
そして早見は何気なく、後方北側を確かめるように見回すと数百メートル先、左側建物屋上に何かの光を見た。
ドオン!!………ドオン!!
大口径銃による爆音のような発砲音と、一際眩いマズルフラッシュの光だ。
そして間を置いてもう一発。
……ドスン!!……ドスン!!
その刹那に二頭の番いの巨猪は、苦痛で暴れ回ることなく絶命したようで、僅かな静寂の後に緩やかに倒れて沈黙する。
何が起きたのかと見れば、倒れた巨猪の眉間から腹部にかけて、狙撃によるものだろう、二頭とも寸分違わず大きな貫通痕が見える。
その傍に、淡い光に包まれた何かを見つける……弾丸のようだ。
更に不思議なことにその弾丸は、巨猪を貫通後、まるで急激に失速したかのように路面を傷付けることなく転がっている。
そして弾丸は、役目を終えたかのように光の粒子となり、キラキラと散らばり儚く消えた。
「今のは……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます