探偵牧師物語 その壱
佐藤子冬
第1話 牧師
「十人で、一千万円かぁ」
一人、百万円の計算になる。しかも、この五年間は毎年である。それは、献金の金額だった。
もちろん、話をもらった時には、飛びついてしまった。片道で一時間かかってしまうが仕方ない。県内だし、先輩の牧師も喜んでくれている。
けど、一抹の不安はある。
先輩牧師に訊いても「変な教会だよなぁ」と首を捻るばかりだ。あまりに、みんながみんなそろって多くを語らない。そこが不気味な教会だった。
引継ぎの資料はしっかりしている。活動会員の十三人はそれぞれ、仕事を辞めている人もいれば現役もいる。皆がその仕事まで詳細にわかっているようだし、洗礼を受けた環境もすべてが電子ファイルにまとめられている。
一方、形のある資料として教団がくれたのは、あっけいないもので、一枚の写真だけだった。綺麗な身なりに、満面の笑顔、端には会員ではないのだろうか、メイドさん、いや、家政婦さんだろうか制服を着たお手伝いさんが映っている。笑顔が咲き乱れたその写真に、不思議と期待、そして、少しだけの畏怖を感じた。
会員の人数は少ないが金銭的に何の不自由もない教会が、牧師がいない状態で三年続いている。
実際に行ってみると中心の会員は、四人だ。
棺さん、教会の役員で狩人の免許を持った人物で企業経営者。英子さん、先祖代々の資産を受け継いだ未亡人の英子さん。そして、英知さん、知る人ぞ知る投資家だったらしい、現在は一線を引いてAIの株取引を開発中だとか。棺さん、金丸さんは資産の幾許か管理を英知さんに任せ、その資金で膨大な利益を上げているそうだ。
一回目の訪問で判ったのはそれだけだった。
二回目の訪問で異質さの片鱗が窺えた。不思議なことにこの地域のクリスチャンは独特で代々地主だった名家だった。宗教法人とかは社会法人を抱えてはいないが、会員が企業経営者であり、ほとんどで社会的に成功した人物ばかりだった。ただ、普通の企業家と異なるのは価値観だった。
コングリットマローと言えば判りやすいかも知れない。戦前から軍部との繋がりがあったらしく戦後は覇権国家と与していたらしい。膨大な利潤が産まれるのも一説には情報機関と結託し、軍事部門に巨額の投資を進めているからだと言われる。俗に言うインサイダー取引も秘密裏に行っているらしい。
らしいと言うのは実態がどうしても掴めないからだ。噂の範疇を出ないのだ。
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