第5話 代議士の想い
「お初にお目にかかります。深淵教会の牧師です。早速ですが本題です。遠藤先生、失敗しましたね」
「な、何を言うのですか? 牧師先生」
「事情はお伺いしました。あなたは元々秘書さんのお父さんの秘書を務めていたらしいですね。つまり本来代議士になる予定だったのは秘書の方だ。そのことで恨みを買っていたのではないですか?」
「それでもどうやって殺そうとしたのですか? 毒物など取り扱いが出来る者は限られている……」
「ええ、資格上はね。ですが、この地域は自然の宝庫だ。山に入れば毒茸の類は手に入ります。あなたは年の功でどれが毒でどれが食用か見分けられていたのではないですか?」
「それは推測ですよ」
「いいえ、証拠は三つある。一つはダストボックス。あなたが毒物を入れた瓶、あそこにありましたよ。お手洗いに行くと言ったのはこの為です」
「それだけでは……」
「排水溝です」
代議士の表情が固まった。
「排水溝付近の生き物が死んでいたのが発見されています。つまり毒物が使われたのは調理場です。更にあなたが使っていた台所から極微量の毒物が検出されました」
「そうか……失敗したな」
「ええ、失敗です。殺す気のない殺人など端から失敗すると決まっています」
署長が驚いた表情をしている。
「ど、どういうことですか? 牧師先生、私共にはサッパリです」
「元々代議士先生は本来秘書の方に議員の座を禅譲する気でいたのでしょう?」
「ええ、私の恩人のご子息でしたからね。代議士の道を拓かせるつもりでした。しかし……」
「枠は余っていない上、後援会もあなたを推したというところでしょう」
「ええ、だから私の名誉が下がれば拓司に同情票が集まる」
それで今回の殺人未遂か、いや、実際には致死量に至らない様に調節もしたのだろう。
「先生」
突如現れた人物に皆が眼を見開く。
「拓司! どうした? 具合は……」
「先生が以前教えて下さった薬学の知識で回復しましたよ」
「すまん。お前をこんな目にあわせた上に議員の道も開かれんで……」
慙愧の念に堪えない表情の代議士だった。
「方法はありますよ」
「え」
その場にいた全員は自分の方を振り向いた。
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