小国の侯爵令嬢視点 叔父達に嫌な商人の後妻になれと言われて部屋を飛び出したらボロボロの女の子が上から落ちてきました

私の名前はカトリーナ・ハルスカンプ。侯爵令嬢だ。


そう、今はまだ……


私は侯爵令嬢として大好きなお父様とお母様に囲まれて幸せに暮らしていた。1年前までは……


我が国フィアーネン王国は小さな国で、その日、父と母は仕事で隣国のバイエフェルト王国に行っていたのだ。でも、その帰り道に馬車の事故で執事とともに亡くなった。


ショックのあまり、私はしばらく寝込んでしまった。


そうこうしている間に叔父一家がこの侯爵家に乗り込んで来たのだ。


そして、叔父一家は私があれやこれや戸惑っている間に、いつの間にか侯爵家の主として采配をふるいだしたのだ。


それに反発する使用人は次々に首になっていった。


私が気付いた時には、昔からいた多くの使用人はすでに首にされた後だった。


そんな中、いつの間にか私の部屋は離れに追いやられていた。


叔父たちは二言目には「私の為」というので頷いていたのだが、絶対に叔父たちのためだったのだ。そう私が気付いた時はすでに遅かった。

私が正気になった時にはもうどうしようも無くなっていたのだ。


「申し訳ありません。お嬢様。私がついていながら」

両親と一緒に亡くなった執事の息子だったスヴェン・エスフェルトが言ってくれたが、彼は事件を調べるために現地に残って色々調べてくれていたのだ。


「いいえ、あなたは何も悪くないわ」

この地にいなかった彼は何も悪くなかった。叔父家族の横暴に立ち向かえなかった私が悪かったのだ。

「いえ、お嬢様がショックを受けておられるのは判っておりました。そんな時にあの強引な叔父夫婦がここに乗り込んで来れば対応しきれなかったでしょう。このようなことになったのは、お嬢様の側を離れた私の責任です」

とても後悔した顔をスヴェンは言ってくれたけど、そんな顔をさせたいわけではなかった。



でも、そう言って私の味方になってくれたスヴェンも、今は本邸で執事見習いとして働いていて、私のいるこの離れにはあまりやって来なくなった。


そう、私は今ではこの館では一人ぼっちだった。


私は今はほとんどこの離れに閉じこもっている。


掃除も洗濯も今は私がやっていた。私づきのメイドはほとんど首になっていて、離れには誰も来なくなったのだ。最初は慣れなくて苦労したが、今は何とか出来るようになっていた。


1日三回の食事だけはメイドによって運ばれてくるが、それも碌なものではなかった。パンは少しかび臭いしスープは下手したら腐っていた。腐ったスープは捨てて、かびたパンはカビたところを取って飢えをしのいでいたのだ。たまに、袋に入ったお菓子が知らない間に置いてあって、私はそれで何とか生きていたのだ。



そんな悲惨な生活を送らせられていた私だが、今日は珍しく本邸に呼ばれた。こんなことは滅多にないのだ。私は一年ぶりに本邸に入った。


本邸の応接室に入ると、すでに叔父夫婦とその娘のアニカが揃っていた。


そして、3人共ニコニコ笑っているのだ。これは絶対に碌なことではない。


「良く来たな。カトリーナ」

叔父はその遠慮ないぶしつけな目で私を見た。


「実はな、カトリーナに縁談が来たのだ」

「私に縁談ですか?」

「そうだ」

「これは穀潰しのあなたにとっても、とてもいい縁談なのよ」

母まで猫なで声で言う。

絶対に碌でもない相手だ。


「なんと大金持ちのテュール・ブールセマ殿がお前を後妻にもらってくれるというのだ」

「良かったわね。お姉様。これで大金持ちの奥様よ」

テュール・ブールセマ、我が家に来ていた商人だ。私は私の体をいやらしく舐め回すように見る爬虫類のような目が嫌いだった。商人らしい恰幅の良い体格はガマガエルのようで、年は50近く、油ぎった手は握手するのも怖気が立った。

私は蒼白になった。


「叔父様。それだけは嫌です」

私ははっきりと断った。


「何だと、ここまで面倒見てやった私達に恥をかかせるのか」

「そうよ。何だったら今すぐ追い出してやってもいいのよ」

「お姉様。せっかくお姉様なんか地味な人と結婚してくれるって言ってくれているのよ。これを逃したら一生結婚できないわよ」

「なら、一生涯結婚しなくていいわよ」

私は叔父たちの話を聞いていられなくて、私は思わず部屋を飛び出したのだ。


さすがの叔父たちも追っては来なかった。


私は離れに走って帰るとベッドに飛びのって涙に暮れたのだ。


絶対に嫌だ。


それは貴族だからいずれは誰かと政略結婚させられるとは思っていた。昔はスヴェンと結婚すると言っていたみたいだが、執事の息子のスヴェンと侯爵令嬢では身分が違いすぎて無理だというのは今では判っていた。

でも、あのガマガエルのような商人と結婚させられるなら、スヴェンともありなんじゃないかと思わず思ってしまった。でも、スヴェンは、もう叔父たちの味方みたいだったが……

私の結婚のことも知っていたはずなのに何も教えてくれなかった。スヴェンが私に親切だったのは私が侯爵令嬢だったからなのだろう。


でも、私は今やこの屋敷の離れの居候だ。この侯爵家も叔父の娘のアニカがいずれは誰か貴族の婿を取って継ぐはずだ。叔父らにとって私は目の上のたんこぶと言うかさっさと処分してしまいたい不良物件なのだろう。


私の部屋には父と母の二人の描かれた絵が飾られていた。


「お父様、お母様、もうそちら側に行ってもいいですか?」

思わず私はその絵に向かって話しかけていた。

もうこんな生活は嫌だったのだ。


『何言っているのよ。まだ死ぬには早すぎるわ』

その時だ。私は女の人の声が聞こえてたように思えたのだ。


慌ててキョロキョロ周りを見ると私の真上が、いきなり光ったのだ。


「きゃっ」

そして、それが、人影になるといきなり、私の上に落ちてきたのだった。

私は慌ててその女の子の下からはい出した。


女の子は全身傷だらけで服もボロボロだった。

女の子は完全に気を失っていたのだ。


「お嬢様、大丈夫ですか?」

そんな時に、いきなり扉を開けてスヴェンが飛び込んで来たのだ。


「す、スヴェン!」

私は久しぶりにスヴェンを見た。


「す、すみません。お嬢様の悲鳴が聞こえたもので」

スヴェンは慌てて謝った。


「で、その子はどうしたのですか?」

「いや、良く判らないんだけどいきなり上から落ちて来たのよ」

私は混乱していたが、状況を説明した。

そして、大きな外傷はなさそうなので、取り合えず、この部屋で私が看病することにしたのだ。

叔父たちに知られたら絶対に外に追い出されるのは確実だったし、下手したら不法侵入で騎士団に犯罪者として突き出されるかもしれないし。このぼろぼろの格好をした少女にそれは可哀そうだと思ったのだ。


それに、こんな時だけど、久々にスヴェンと話せて私はとてもうれしかったのだ。

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さて、現れたのは我らがヒロインです。

続きは明朝更新予定です。


この物語の第一巻が書店にて発売中です。

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