母が血まみれになっていきなり難癖つけてきたので、断りました

「もうダメ、死ぬー!」

疲れ切った私は、タウンハウスに帰って来るなり、着替えもせずにソファの上に倒れ込んでいた。


「フラン様。そんな所に寝転んだらドレスがシワになってしまいます」

私の侍女のアリスが注意してくるけれど、

「もう無理! この夏、ずーっと礼儀作法の補講なのよ。やってられないわよ」

私は投げ槍な態度で言った。

本当にやってられなかった。


「なら、そういうふうに、フェリシー先生や王妃様におっしゃったらいかがですか?」

「そんなの言えるわけないじゃない!」

本当にアリスは意地悪だ。そんなことが言えたらこんなに苦労していない!


「なら、素直に諦めて下さい。フラン様が反対できないのなら、我々にもどうしようもありませんから」

「ええええ! もうやだ。王宮に行きたくない」

アリスは平然と言ってくれるんだけど、私の精神はもう限界なのだ。


「本当にフラン様は手がかかりますね。そんなに嫌ならアドルフ殿下に頼めば宜しいのでは?」

「ええええ! アドに?」

私はむっとして言った。


「だってもともとアドがギャオギャオに酷いことするから悪いんじゃ無い!」

窓の外に控えている古代竜が私の言葉に大きく頷いている。


そうだ。折角おばあちゃんが、補講を無くしてくれたのに、アドのボケがギャオギャオに酷いことするから、ギャオギャオがアドに反撃したのだ。

なのに、王妃様もフェリシー先生もあなたのしつけがなっていないからだと、二人がかりで注意されて、結局、私の補講が復活したのだった。


アドもアドだ。私が礼儀作法の補講が嫌いなの知っている癖に、助けてくれないんだから!

私はアドにも切れていたのだ。


でも、本当にそろそろ限界だ。ここはアドに頭を下げて、王妃様になんとか言ってもらおうか。

と私も思案し出したときだ。




バリーーーン


大音響と共に、我が家の庭に面した窓ガラスが、叩き割られて何かが飛び込んできたのだ。


私は一瞬で立ち上がった。


どこのどいつだ? 我がルブラン公爵家に喧嘩を売る奴は。



「どうしました?」

部屋の中には外から10人くらいの騎士が飛び込んで来た。

さすがルブランの騎士だ。対応は早い。




「お、お母さま?」

でも、その私達の前には、なんと血まみれの母が立っていたのだ?!

私達は驚いた。



「どうしたんです。お母様? 血まみれになって」

私は母に皆が聞きたい事を聞いてあげたのだ。


「どうしたですって? あなたのせいでしょ!」

「えっ?」

私は母の言う意味がよく判らなかった。


「何ボケた顔しているのよ。あなた、この屋敷の障壁を勝手に改造したでしょう!」

母が聞くんだけど、そういえば、暇だった時に練習ついでに障壁を強化したかも。


「あんた、何を勝手に我が家の障壁を改造しているのよ! そんなことするから私が転移で入れなかったじゃない」

「痛い!」

その時には私の頭は母によって思いっきりはたかれていた。


「自分の家に拒否された私の身になって考えてみなさいよ!」

母が怒って言うが、前もって言ってくれれば障壁は開けたのに、とは到底言える雰囲気ではなかった。


まあ、前はいくら私が障壁を張っていても母はぶっ壊して入ってきたのだから、今回入れなかったという事は、私の障壁を破れなかったってことよね。私の力が少しは強くなって、母に勝てたということで、その点だけは少し嬉しかった。


「何喜んでいるのよ」

もう一度私を叩こうとした母から一瞬で離れる。


君子危うきに近寄らずなのだ。


でも、私に合わせて全員後ろに下がったのは笑えたが。


そう、我が家で一番の理不尽というか暴君は母なのだ。普段は問題ないんだけど、怒っている時に近寄ったら碌なことはない。


でも、母は何をしに来たんだろう?

私は不安になった。


母は基本は領地にいて、滅多に王都には出てこない。それがわざわざ出てきたと言うことはろくなことがないような気がする。


私はうんざりした。それでなくてもフェリシー先生の補講で疲れきっているのに!


「フラン、あなた聞く所によると、絶滅危惧種の古代竜を自分の都合でペットにしたんですって」

母の言葉に私は目が点になった。


外では危険を察知したのかギャオギャオが庭の隅に一瞬で移動して、うずくまっているんだけど。


そもそも、魔の森にいた古代竜のギャオちゃんをペットにして帝国に攻め込んだのは母なのだ。

その母がそんなことを言える道理があるのか?


でも、怒り狂っている母にそんな正論言える奴はいないんだけど、他のやつがフォローしてくれるわけもなく……


「えっ、でも、元々お母様が魔の森にいた古代竜のギャオちゃんをペットにされましたよね」

仕方無しに私が言った。


だってこのままだとまた私がしばかれそうだったから。


「何を言っているの。私はギャオちゃんをペットにしていないわよ。配下にしただけよ」

「はい?」

それって単に言い方を換えただけじゃないの?


「そもそも、ギャオちゃんは我が領地の魔の森にいたのよ。私は魔の森を治める責任があったからちょっと頭を撫でて、部下にしただけよ。でも、あなたは、自由に行動しているはぐれ古代竜を無理やりペットにしたじゃない」

「だってあのままだと、このエルグラン王国に被害が出ましたけれど」

そうだ。私は国のためにやったのだ。


「だからってペットにすることないでしょ。そのまま帝国の方へ放してやったら良かったのよ。後は寸胴がなんとかしたわよ」

寸胴って帝国の皇帝をなんて呼び名で呼んでいるのよ。

母はこう言ったけれど、そもそも帝国最強の第2師団、世界各国からは死神師団として恐れられていたのを、ギャオちゃんは一匹で殲滅したのだ。

ギャオギャオはそこまでいかないにしても、帝国全軍を一掃する可能性はある。

そうなったら苦しむのは帝国の民なのだ。いくら他国のこととはいえ可哀想ではないか。


私がそう言うと


「フラン、あんたいつからそんなに偉くなったの? ちょっとアルメリア王国の国王を倒したからっていい気になっているんじゃないわよ。最近は未来の王妃か何か知らないけれど、格好つけて礼儀作法にはまっているそうじゃない。そう言うことは私に勝ってから言いなさい」


何かめちゃくちゃ理不尽なこと言われているんだけど。

そもそも礼儀作法は私がやりたくてやっているんじゃないっていうの!

いくらでも母に替わってあげたかった。アルメリアにしても私はやりたくなかったのに、流れ的にやらざるを得なくなったからで、母にグチグチ言われる筋合いはなかった。


「私に勝てないのならば、さっさと古代竜を帝国の地に放してきなさい」

母は傲然と言い放ったのだ。


私はその言葉に流石にムッとしたのだ。


「フラン、判ったわね」

母が私に言葉を重ねてきた。


普通はここで頷くんだけど、そう、母には頷いておいて、後はジェドとかヴァンに知恵を借りて上手く処理すればよかったのだ。

でも、私はフェリシー先生の礼儀作法の補講で疲れ切っていてうまく頭が回らなかったのだ。母の自分勝手な言動に完全に切れていたのだ。


「嫌です」

私は、はっきりと母に逆らったのだった。


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