王弟の息子視点5 いきなり毒殺されたはずの暴虐女が反省塔の屋上に現れました

俺達は反省房に暴虐女がいなくなっているのを知って慌てた。そして、すぐに探させようと反省房を出たのだ。


「慌てて、どうされたのですか? 殿下」

俺達は直ちに一階に降りて塔から出たところで、一番会いたくない人物に会ったのだ。

フェリシーだった。

フェリシーに悟られないように暴虐女を捕まえようとしたのだが、こうなっては仕方があるまい。


「先生。大変です。フランソワーズがいなくなったんです」

「なんですって! 中央騎士団では逃走させる恐れがあるからと、あなたのところの騎士の方々が見ていてくれたのではないのですか?」

詰問口調でフェリシーは聞いてきた。


「いや、フランはなんと転移して逃げたみたいで」

「そのようなことがあり得ますか? あの子の母親でさえ、あそこからは転移で逃げられなかったのですよ」

フェリシーは全く信用しなかった。

そこで仕方無しに、反省房に連れて行った。


「ほら、先生。いないでしょう」

反省房の中を見せる。


「いや、そんな訳は無いでしょう。隅々まで探すのです。絶対に何か仕掛けがあるはずです。そもそも、あの子は転移なんて出来ないんですから」

フェリシー先生が命令してきた。

こいつ男爵夫人のくせに未来の王太子に命令してくるなんてなんて奴だと思いつつ、大事の前の小事だ。


「判りました」

不満そうなエーリックたちを促して部屋の隅々までいろいろと探してみる。

よく見ると度の壁も落書きだらけだった。フェリシーの悪口とかも平然と書かれている。

糞フェリシーから始まって口だけババアとか、行き遅れだの、もう悪口のオンパレードだ。


これを言いつければ暴虐女の罪は更に重くなるのではないか。

俺は良いことを思いついたのだ。


「先生! ここに」

フェリシーを呼びつけて言いつけようとしたその時だ。急遽誰かが頭上に転移してきたのだ。そして、逃げようとした俺らを押しつぶしてくれて落ちてきたのだ。


そして、当然フェリシーをも巻き込んでいた。


落ちて来たのは暴虐女だった。


これこそ飛んで火に入る夏の虫だ。


自分が踏み台にされて足跡までつけられたフェリシーは完全に切れていた。


俺がチクるまでもなく、暴虐女は罰として更に絶食させられることになったのだ。


ざまあみろだ。


その前に腐ったパンとスープを食わしていたことを暴虐女は告発しようとして、逆に「いつも豪勢な食べ物ばかり食べているので慎ましい食事を腐っているなんて言うのですね」

と更にフェリシーの怒りを買ったのだ。


これでもう、決行当日に出てこれないだろう。

俺達は安心した。


何しろ転移の魔導具は魔術理論の先生に停止させられたし、いくら暴虐女でも出てこれなくなったはずだ。


しかしだ。そのまましておけば良いものを、何故かズンダーラ教の教皇が暴虐女の毒殺を命じてきたのだ。

あの女は後でルブランの奴らを引き寄せる人質になると言うのに。


その上、何故か父まで、その依頼を受けてしまったのだ。

可哀想だと言いながら。

父は何か教皇に弱みでも握られているのかもしれない。


サマーパーティーの前に立派な食事を見せられたら、何も考えずに暴虐女は食べるだろうとのことだった。


それはあの食い意地の張った暴虐女なら、絶食している時に料理を見せられたら一も二もなく飛びつくだろう。


毒殺で殺されるのか。まあ、空腹を抱えて殺されるよりも大好きな食べ物食べながら殺されるのが良いだろうと俺は暴虐女のために想ってやったのだ。





決行日当日、サマーパーティーを前に生徒会室に設置した転移装置から次々に俺らの騎士たちが転移してきた。俺等はその騎士たちを空いていて誰も入ってこない部屋に次々と誘導していた時だ。


そんな時だ。血相変えたアドルフが走ってきたのだ。何しにこの時に来る?

俺は流石に焦った。騎士たちを慌てて隠す。


アドルフは騎士たちを俺の直属の警備のものだと勘違いしたみたいだった。本当にお気楽な第一王子だ。



「カミーユ。どういうことだ! 俺はフランを反省房に閉じ込めるなど聞いていないぞ」

「これはアドルフ殿下。俺は仕方無しに許可しただけです。文句はフェリシー先生に言ってもらえますか」

そう誤魔化すと、アドルフは嫌そうな顔をした。


「まだ、職員室にいらっしゃるはずです。すぐに行かれたらどうです」

俺が言うと不満そうな顔をしたが、それでも健気にフェリシーの下に歩いて行った。


あんな暴虐女の何処が良いんだろう? でも、その好きな奴が今は知らないうちに毒殺されようとしているなんて、こいつも可哀想な奴だ。もっともそう言う貴様も残り少しの命だが……


俺は少しおかしくなった。


当然のごとく、アドルフは30分くらい経つと一人で不満そうに戻って来た。


「どうでした?」

「全く話を聞いてくれなかった」

そらあそうだろう。何しろフェリシーはキスしていたことを問題視しているのだ。

キスくらいで反省房ならば、今頃多くの者がそうなるのだが、流石にフェリシーの耳には入っていないらしい。


それやこれやでやっとサマーパーテイーの始まる時間になった。


正装した俺達は校庭に集合したのだ。


着飾った学生600人と先生や父兄も600人くらいいる。


後少しだ。


父も大公も少し緊張した顔をしていたが、準備は万端だった。


近衛と中央騎士団で、この近辺には100名くらいを配置しているみたいだが、こちらは千名近くの騎士と兵士を空き教室に入れたのだ。


俺達が合図すると同時に突入してくるはずだ。


叔父の国王とアドルフ、それにシルヴァンの位置を確認する。それぞれ刺殺する担当の者が配置に着いた。


後は父が合図するだけになった。


やっと事がなるのだ。


そう思ったときだ。



ジリリリリリリ


いきなり、反省房の方から非常ベルが鳴り出したのだ。


「えっ?」

ひょっとして毒殺に失敗したのか?


俺は不吉な予感がした。


そもそも、俺達は暴虐女があまりにも食い意地が張りすぎていて、毒をも栄養源として吸収する鋼鉄の胃を持っているなど知りもしなかったのだ。


俺達は顔を見合わせた。


父の方を見るがまだ首を振っている。


でも、俺は今こそやるべきだと思ったのだが。


躊躇は作戦の失敗を意味するのだ。


そして、慌てて、近衛騎士たちの一部が様子を見に行こうとした時だ。


ピーピーピーピー


今度は別の警報まで鳴り出したのだ。


城門の方からも慌てた騎士たちが駆けてきた。


でも、それを合わせても200名くらいだ。


俺は父に合図を送ったのだ。


しかし、父はすぐには決断しなかった。


大公も何度か合図を送るが父は無視した。



ドカーーーン

反省塔の一部が爆発して壁が吹っ飛んでいた。


「キャーーーー」

爆発に女どもが悲鳴を上げた。


近衛騎士たちが慌てて陛下を取り囲む。


くそう、これではすぐに手を出せないではないか。

俺は思わず舌打ちしそうになった。


どうしようと考えようとした時だ。


「わっはっはっはっは」

突如、反省塔の上に腰に手を当てて大声を上げて笑う暴虐女がさっそうと現れたのだった。

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