デートの最後は二人で夕日を見ました。

散々恥ずかしい思いをした後、私たちはハッピ堂を後にした。


「殿下」

「期待してます」

「頑張って下さい!」

アドに何を期待してるんだろう?

アドに聞いても、答えてはくれなかったんだけど。


その後は街を散策した。


「ねえねえ、アド、あそこに可愛い文房具屋さんがあるわ」

私はそう言うとそちらに向かってさっさと歩き出す。子供の時なら走っていたが、今は大人だ。


でも、その店の前で私は固まってしまった。

そこには大画面にアップで映っている小さい時の私がいたのだ!


な、何よこれ?


それはまた、違う映像だった。

「あなた王子様よね。ちょっと来て!」

これは、おそらくアドの婚約者選定お茶会の時に、よく判っていなかった私が女の子たちに囲まれていたアドを強引に連れ出すところだった!

『こんなフランの強引な所にも惹かれました』

テロップが流れるんだけど……


「ちょっと、アド、これはなんなのよ!」

私がムッとして言うと


「あっ、殿下だ」

「本当だ」

「あの横の気の強そうな人は?」

「そんなのフラン妃殿下に決まっているじゃない」

ちょっと待った。私達はまだ結婚してないわよ!

私の心の声が聞こえる訳はなく、

「だよね。殿下はしょっちゅう、フラン様に怒られているそうよ」

「いつも殿下は頭下げているって学園に言ってる友達に聞いたわ」

「もう尻に敷かれているんだ」

誰よ、余計なことを言ったのは……

絶対にノエルとかアルマンらだ。



「でも、この画面のフラン様は可愛いらしいぞ」

「それは映像だからでしょ」

そんなことは無い!

って私は皆に叫びたかった。

私は可愛い……とは言えないかもしれないけど。


私が恥辱に震えている時だ。


チュッて音がして、頬に何かが当たった。


「えっ」

私が固まる。


「きゃー」

「見た! 見た? 殿下がキスしたわ」

「凄い」

周りから黄色い大歓声が湧いたんだけど。


「ちょっと、アド、何してくれるのよ!」

私は真っ赤になって私がアドを睨み付けると、


「真っ赤なフランも可愛い!」

アドがトンチンカンな事言ってくれるんだけど。


私はいたたまれなくなって、アドの手を引いてそそくさとその場を離れた。


「殿下、頑張って下さい!」

「フラン様!」

周りにアドは手を振っているんだけど……私はそんな余裕はなかった。


本当にアドの奴、どれだけ映像設置して流しているのよ!

私が切れた時だ。


とある高級レストランの前に馬車が止まって、中から、見覚えのある顔が降り立った。

確か、あれは昨年まで隣国に留学していた王弟殿下の所のカミーユだ。

そして、その後ろから、カミーユにエスコートされてなんとクラリスが降りてきたのだ。


「えっ」

私は思わず声を上げそうになっていた。

「ねえ、アド、カミーユとクラリスって付き合っていたっけ?」

「いや、そんなのは聞いていないが」


しかし、二人は連れ立ってその高級レストランの中に入っていったのだ。


「気になるのならば、一緒のレストランに入ってみるか?」

「いや、お邪魔するのも悪いし、あんまり高級なところは遠慮しておくわ」

そう、わが家は財政が厳しいのだ。


「いや、フランの分くらい出すが」

アドが申し出てくれたが、それに便乗するのも悪いし、私自身、高級なレストランは礼儀作法を気にしてもう一つ楽しめないし。


「それよりも丘の上のレストランに行こうよ」

「ああ、あそこか。しばらく行っていないよな」

私達は20分くらい歩いて小高い丘の上にある、レビンの店に行った。


こちらは大衆レストランだ。

昼どきを少し過ぎたにもかかわらず、結構混んでいた。

「いらっしゃい。久しぶりじゃない」

女将さんが歓迎してくれた。


「ごめん、おばちゃん。しばらく忙しくて、なかなか寄れなくて」

私が謝ると

「いやあ、またきてくれて嬉しいよ。何にする?」

「今日の定食は何なの」

「ハンバーグさ」

「じゃあ、私はそれで」

「男前に拍車のかかったお兄ちゃんはどうする?」

「煮魚魚定食で」

おばちゃんの褒め言葉も流してアドが注文した。


「はい、毎度、お姉ちゃんも彼氏が色男になって大変だろう」

「おばさん。余計なこと言わないでよ。俺はフラン一筋なんだから」

「はいはい、そうだったね」

おばちゃんはそう言うと奥に引っ込んでいった。


出てきたハンバーグ定食は鉄板がジュージュー音を立てていてとても美味しそうだった。

「美味しい!」

一口頬張ると肉汁が口の中に広がる。


「美味そうだな」

「えっ、食べる?」

私はナイフとフォークで一口分切り分けるとアドの口の中に放り込んだ。

その後で気付いた。


まずい、また、やってしまった。


「美味い」

アドが嬉しそうに言う。


「あんたら相変わらず、仲が良いね」

おばちゃんがアドの煮魚定食を持ってきてからかってくれた。


「まあ、相思相愛だから」

「ご馳走様」

アドの言葉におばちゃんは苦笑いすると奥に引っ込んでいった。

ここではそれ以上何も言われなかった。

おじちゃんおばちゃんの生暖かい視線を感じただけだ。

ここでは私達は王太子とその婚約者ではなくて、若いカップルそのままだったのだ。


私は久しぶりの丘の上のレストランの定食を堪能した。



それから定食でお腹が一杯になったので、腹ごなしに街を歩く。


街の小間物屋とか服屋さんや本屋を冷やかして歩くと結構な時間が立った。


王都は今日も平和だった。


「どうする。そろそろ夕方だけど」

「久しぶりに城壁に登ろうよ」

「そうだな」

私達は近くの城壁に向かった。


「ご苦労さま」

「これはフラン様と殿下」

私達に入り口にいた騎士が敬礼してくる。


私達は階段を登って城壁の上に出た。


王都の周りをぐるっと城壁が囲っていてその向こうは森だった。

太陽が森の地平線に沈もうとしていた。


「きれいね」

私はその茜色に染まる景色を感激して見ていた。

そう、いつも城壁から見る夕日はきれいなのだ。


「本当だよな」

アドが私に寄り添ってくる。


流石に兵士たちが巡回する中ではそれ以上はしないみたいだった。


私達は沈み行く夕日が完全に隠れるまで、二人で夕日を堪能したのだった。

***************************************************************


ここまで読んで頂いて有難うございます。

デートで久しぶりにいい雰囲気になった二人ですが、

仲の良さそうな二人の前に暗雲が……


詳しくは次話で



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