婚約者が反撃してくれて、私のは礼儀作法の補講を無くしてくれました
「絶対にフランは守るから」
アドは言ってくれたけれど、本当だろうか?
何しろいつも王妃様の前では逃げていくのだ。
自分の母親なのに!
今回も当然信じられないんだけど……
「殿下、たかだか子爵家の夫人と令嬢に負けたらだめですよ」
メラニーがそう言って何か書類をアドに渡してくれたんだけど、何の書類だろう?
まあ、メラニーが変なもの渡すわけはないと思うけれど。
それに、我が国では子爵家だが、元々古代帝国の公爵家だ。
その威厳と領土は我がご先祖様に完膚なきまでに叩かれて、グレースのご先祖様に大半は取り上げられたけれど、一応今でも公国だ。
ま、領土は我が領地には足元も及ばない広さだけれど。
今回の件も、私が黙って怒られれば、他の者は被害を受けないはずだ。
しかし、今回の件は私達の学食をあの緑頭が馬鹿にしてくれた点だ。
それに対して、
「フランのご先祖様のお情けて生き残らせてもらったのに」
というバンジャマンの反撃は事実だし、バンジャマンらが怒るのも理解できる。
私としても今回は叱責を受けているだけではいけないのだ。
だって友人たちが反撃してくれたのだし。
そもそも、潰れかけの国に私のクラスメートを馬鹿にされるわけにはいかない。
でも、そうは言っても私が反撃して、ただで済むのかと言う問題がある。
何しろ相手は王妃様のお気に入りなのだ。私の怒られる時間が倍になるたけなら問題はない。いつものことだし。でも、バンジャマンらに被害が及ぶのは良くないだろう。
彼らが侮辱罪で停学とかになったら洒落にもならない。
まあ、いざとなったら私が全責任取って停学なり何なり受ければ良いだろう。
私はそう腹をくくったのだ。
そして、丁度王宮に馬車が着いた。
まあ、ここも来慣れているから、別に王宮だからって緊張はしないけれど。
アドがまず馬車を降りてくれて、私をエスコートして降ろしてくれる。
まだ今は喧嘩中だから本来ならば無視するんだけど、どうすればいいか考えていたから、うっかりとアドの手を取ってしまった。
手を借りて降りて、初めて気付いてすぐに離そうとしたが、アドが離してくれない。
「離してよ!」
私が言うが、アドは顎で前を指してくれた。
「げっ!」
そこにはこちらに向かって目を吊り上げて歩いてくる王妃様付きの女官長がいた。
「これは殿下。どうされたのですか?」
女官長がまず、アドに声をかけてきた。
「はあ? フランの付添で来たんだけれど、必要なかったのなら、このままフランと一緒に帰るが」
アドは不機嫌に言ってくれた。
「いえ、王妃様は殿下までお呼びになっていらっしゃらないかと」
「ほう、その方は私が母と会うのを邪魔すると言うのか?」
「いえ、決してそのような事はございません」
不機嫌なアドの声に女官長は慌てて首を振った。
「ならば、私とフランが一緒に行っても良かろう」
アドは戸惑う女官長を無視して私を連れて歩き出したんだけど。
「えっ、あの殿下」
女官長は慌てたが無視してズンズンアドは歩いて行った。
うーん、私は別に連れて行ってもらわなくても王妃様の所へ1人で行けるんだけど……
それでも、一緒に来てくれるというアドの態度に私の顔は少しほころんだ。
アドはズンズンと王妃様の部屋に歩いて行くと、女官長よりも先に王妃の間の扉をドンと開けて中に入ったのだ。
「誰です。ノックもせずに入って来るのは……アドルフ」
怒ろうとした王妃様はそれが息子のアドだと知って何も言えなくなった。
「お呼びと聞いてきたのですが、間違いでしたか」
アドは平然と言い切ってくれた。いつになく、頼もしい!
「私はフランソワーズを呼んだだけで、あなたは呼んでいません」
「何を言っているのですか? 母上。フランは私の婚約者なのです。フランを呼ぶ時は私の許可を取ってもらいましょうか」
アドの剣幕に王妃様は驚いた顔をした。
「そもそも、今は学園の授業中です。
最優先は授業なのです。昨日母上が無理言ってフランを残したせいで、フランはフェリシー先生の補講が決まったということですが、どういうことですか、それは? そもそもフェリシー先生には母上から話しておくという事でしたが」
私は珍しく、はっきり話すアドを見直した。
「いや、補講するとは私は聞いていません」
「では、フェリシー先生にはフランの補講は無用だと、母上がおっしゃられたということにして宜しいですね」
「まあ、そうね」
アドの言葉に王妃様が頷いて私は思わず喜びで飛び上がりそうになった。
フェリシー先生の補講が無くなったのだ。
もう後はどうなってもいいや、という気になった。
私はフェリシー先生の補講を無くしてくれたアドをあっさりと許す気になったのだ。
「それよりも、モラン子爵令嬢、今は授業中だと思うが、何故ここにいる?」
アドは王妃様に泣きついていたと思われる緑頭を見ると注意していた。
「殿下。娘は平民共に我が国を誹謗中傷されて傷ついているのです」
緑頭の母親が思わず反発するが、
「子爵夫人、何度も言うように、学園にいる限りは親の身分にかかわらず、皆平等なのです。お間違え無きように」
でも、アドはきっちりと言い返してくれたのだ。
「アドルフ、なんと言うことを言うのです。そもそもここは王宮です」
「それかどうしたのです。子爵令嬢は今は学園生ですよ。
学園生の基本は勉学です。それをサボってこのようなところにいるなど、我が国の王立学園を舐めていると言われても仕方がありません。そもそも我が王立学園は近隣諸国の中でもレベルが高いので有名なのです。子爵令嬢はついていけるのですか?」
「な、何を仰るのです。わが公国の教育レベルも高いのです。殿下まで我が国を馬鹿にされるのか」
夫人がきっとして反論した。
「子爵夫人。子爵令嬢の試験の成績を私が知らないとでも。令嬢の点数は最低点に近かったのですよ。本来は合格最低点にも届いていないのです。外務卿が泣いて頼むからやむを得ず合格させただけで、本来ならば、このようなところで時間を潰す暇はないはずです。退学させられないように、必死に勉強した方が良いのではないですか?」
アドが冷笑して言った。
「な、何ですって」
婦人がハンカチを噛んで悔しがっている。
「アドルフ、それは流石に言い過ぎではなくて」
王妃様が思わず口を出されるが
「これでも、まだ、オブラートに包んでいるつもりですが」
「でも、私、そちらの公爵家のお情けで生き残らされているなんて侮辱を受けて悔しくて」
緑頭がきっとして言うが、
「それは最初にあなたが、こんな一般食堂なんてと我が学園の食堂をバカにされたからでは」
「でも、それくらいで、古からある公国を馬鹿にするのはあんまりでないの」
王妃様がやっと反撃する糸口を見つけたかのように言われた。
「母上。二年E組は1年の時に総合得点において初めて一年でトップに立ったのです。彼らは試験の平均点も一学期はトップに立ちました。それも多くはあの学食で勉強したのです。その場を馬鹿にするのは、学園を侮辱するのと同じです。そんなに嫌ならば本国に帰られたらどうですか?」
「殿下。それはあんまりなお言葉では」
「そうよ。アドルフ。セシール様にはわざわざ私が頼み込んで来ていただいたのよ」
夫人と王妃様が言うんだけど。
「しかし、成績は張り出されるのですよ。子爵令嬢が最下位でもいいというのならば良いですが」
「いくらなんでも最下位なわけないでしょう」
「そうよ。我が娘を馬鹿にしていらっしゃるわ」
「私も公国ではよく出来ると先生に褒められていたんです」
三人がアドに反論した。
「わかりました。そこまで言われるならば、はっきり言います。令嬢の入試の点数は最下位でした」
「えっ」
「そうなの」
「そんな」
夫人と王妃に見つめられて緑頭は唖然とした。
「そんな訳ないでしょう」
夫人がアドを睨みつける。
「入試課に問い合わせれば教えてくれますよ」
「そんなバカな。平民たちもに負けているというの」
夫人が言うが、
「夫人。平民平民と言われるが彼らはこの国を支えていく優秀な人材なのです。入試は貴族と違って熾烈なのです。少なくとも子爵令嬢の点数よりも200点以上上ですよ」
そう言うと、アドは点数一覧表を親子に見せたのだ。
トップはヴァンだった。満点に近い。
そのすぐ下にジェドとクラリスがいて……
一番下にマドレーヌの名前が載っていたのだ。
「では、私達は勉強がありますので」
アドはそう言うと、私を連れてさっさと出て行ったのだ。
「そ、そんな」
緑頭はその紙を唖然として見ていた。
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