【後日談】聖女視点3 叛逆に手を貸して、悪役令嬢を鞭打とうとしたら、逆に殴られてしまいました

私はサマーパーティーにて、断罪に失敗してしまった。


まさかヒロインの私が、サマーパーティーの断罪に失敗するとは思ってもいなかった。

何しろ私はゲームのヒロインなのだ。ヒロインはゲームでは絶対的存在。トランプで言うところのジョーカーみたいなものだ。


そう、最初はうまくいっていたのだ。

サマーパーティの前に、部屋で着付けをしようとしてせっかく教皇からもらった衣装がビリビリに引き裂かれているのを発見して、泣き叫んだのだ。当初の予定通りにボドワンがやって来てそのまま、会場に乗り込み、殿下相手に泣き叫んでみたのだ。

そして、やって来た悪役令嬢にオリーブが「悪役令嬢に命じられてやった」と言わしめたのだ。


オリーブは悪役令嬢のクラスメートで、その裏切りは悪役令嬢にはとても堪えたはずだ。私はそのまま一気に悪役令嬢を断罪しようとしたのだ。


しかし、何をとち狂ったのか、オリーブが第二王子の自白剤を飲んでしまい、全部吐いてしまったのだ。こんな事があり得るのか。オリーブは絶対に悪役令嬢の情に負けてしまったのだ。そして、それは私への裏切りだった。


更に白状しようとしたオリーブを刺客が弓矢で射たのだ。裏切り者は殺されるのは当然の事だ。


たが、その瞬間に、刺客は悪役令嬢に燃やされて死んでいた。こ、この悪役令嬢がここまで魔力があるなんて聞いていない。ゲームでもそんな設定では無かったはずだ。こんなのに勝てるわけ無いではないか。


その悪役令嬢が魔術を使った瞬間、一発で情勢は決まってしまった。


私は脅されて裏切り者のオリーブの治療までさせられたのだ。それは屈辱以外の何物でもなかった。




私はその後、北の修道院送りにされようとした。


私の頼みの綱のボドワンも捕まってしまった。


もう最後の手段しか残っていなかった。これだけは使いたくなかった。出来たら私は憧れの第一王子を夫にしたかった。しかし、アドルフは私を全く相手にしてくれなかった。これも、全てはあの悪役令嬢のせいだ。可愛げも何もない悪役令嬢のどこが良いのだ? あいつは魅了か何かを使っているに違いない。もう私は許せなかった。悪役令嬢も度重なる私のアプローチを虚仮にしてくれたアドルフをも。


40を超えた侯爵を夫にするのはさすがにためらわれたが、グロヴレは見た目はシックなオジサマだ。もう、最後の手段だ。好みはあんまり言っていられなかった。グロブレが近衛騎士団を使って蜂起、聖女である私がその妻として王妃になるのだ。


王家の血を引くグロヴレは、帝国の皇帝の私生児でもあったのだ。王家の血を引く彼の母と帝国皇帝の不倫の末の子供だった。帝国からは昔からよくいろんな誘いがあったそうだ。そして、彼は最近の王家のやり方に不満も見せていた。


叛逆の計画は、少なくとも10以上の貴族を巻き込み、着々と進んでいた。最後の瞬間にラクロワ公爵は怖気づいたみたいだが、その他は着々と計画は進んでいたのだ。


私と第一王子が結ばれれば、保守派が権力を握り支配する。グロヴレもその一環を握って力をもつはずだった。そうなればわざわざ危険な橋を渡る必要はない。しかし、我々の計画が頓挫したのを受けて、私が修道院送りになるのが決まり、グロブレは一線を超える決意をしたらしい。何しろ彼は近衛騎士団長で、王族の護衛部隊の長だ。更に帝国より多くの魔術師が派遣されていたのだ。負けるわけはなかった。




近衛の大半を掌握しているグロヴレが立ち上がり、煩い国王を殺し、政権を掌握すれば後はこちらのものだ。私はそのグロヴレと婚姻し王妃になるのだ。そして、憎たらしい王子と悪役令嬢を処刑台に送ってやるのだ。私は私に恥をかかせ続けたアイツラを許すつもりはなかった。



北の厳しい戒律のある修道院送りになりそうだった所を救出された私の前に、悪役令嬢の子分のノエルとかいう、生意気女が連れてこられた。


今までの恨みとばかりに私は徹底的に鞭打ったのだ。こいつは断罪の時も私に逆らったのだ。

女は私が謝れと言っても決して謝らなかった。

私は力の限り今までの恨みを込めて鞭打った。

しかし、女は途中から反応しなくなった。

なんか面白くない。


しかし、がっかりした私の前に、待ちに待った悪役令嬢が連れてこられたのだ。手には魔力封じの手錠がかけられている。このバカ令嬢は何回手錠をかけられれば学習するのだ。

本当に馬鹿だ。


こいつはただでは殺さない。徹底的に痛めつけて許しを乞わしてやるのだ。そして、その中で惨めに殺してやる。ゲームのヒロインの前にはいくら馬鹿げた魔力があっても、魔力封じの手錠をかけられていれば抵抗は出来まい。あの生意気な顔が涙に暮れて許しを乞わしてやるのだ。


ふふふふ、苦しめば良い。


「ノエル、ノエル、しっかりして」

泣き叫んでいる悪役令嬢を見て私はほくそ笑んだ。


そうだ。もっと苦しめ。


「やっと悪役令嬢が来たのね。遅かったわね」


私はその背中に向けて、鞭を振りあげた。今こそ私の恨み辛みを受けろ!


私は鞭を思いっきり振り下ろす。凄まじい音がして悪役令嬢の悲鳴が聞こえ・・・・無かった。


「えっ」

私はぎょっとした。

憤怒の顔をした悪役令嬢が私の振り下ろした鞭を掴んでいたのだ。


こいつは化け物か? 私は強化魔術を自分にかけていた。いつもの何十倍もの力が出せているはずだ。対して、悪役令嬢は魔力を封じられているのだ。なのに、私の鞭を片手で受け止めたのだ。


嘘だろう? 私は青くなった。これで魔力封じの手錠がはずれればどうなるのだ?


私は鞭を引いて取り戻そうとした。


しかし、引こうとした時に、逆に悪役令嬢に引かれたのだ。そのまま私は悪役令嬢の方に倒れ込んだ。


そして、その私の目の前に悪役令嬢の握りこぶしが見えた。


次の瞬間、私は悪役令嬢に殴り倒されていたのだった。

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