第25話 責任取って辞めるという伯爵令嬢に思いっきりデコピンしてやりました

私たちは唖然として号泣するジャクリーヌを見ていた。


「ど、どうしたの? ジャクリーヌさん」

私は戸惑ってしまった。


「あの、ルブラン公爵令嬢、娘はちょっと情緒不安定になっておりまして」

慌てて伯爵が間に入ろうとした。

「良いの、お父さま」

ジャクリーヌは泣きながら、伯爵の行動を止めた。


そして、泣いている顔を上げて私を見ると

「フランソワーズ様。あなたが殿下から貰われた花束をバラバラにしたのは私なのです」

ジャクリーヌの告白は私にとって衝撃だった。


うっそーーー! ピンク頭がやったと思っていた私にとってその事実は驚き以外の何物でもなかった。せっかくのアドからの初めてのプレゼントだったのに。


それをメチャクチャにしたのがこいつか?


私は改めて泣いているジャクリーヌを見た。まあ、聖女となんやかんややっているのは知っていたけど、まさか、私の花束をぐちゃぐちゃにするなんて・・・・


でも、待て、落ち着くんだ。


私は落ち着くために周りを見た。そして、周りがあんまり驚いていないのに気付いた。えええ、皆知っていたの? 私はその事にも愕然とした。

後でメラニーに「何で判ってたのなら教えてくれなかったの?」と聞いたら、

「そんなの怪しいって普通判るわよ。てっきり怪しいと思って問い詰めに行くのだと思っていたのに。あんたにそう思った私が馬鹿だったわ。単純なあんたが思いつくわけなかったわよね」

とグサグサと胸に響くことを言われてしまったのだが・・・・そんなの私に判るわけないじゃない!!



「すいません。聖女様に教唆されて私がやりました。本当に申し訳ございませんでした」

そう言うとジャクリーヌはその場に手をついてまた、号泣しだしたのだ。


私は涙に弱かった。もともとジャクリーヌを許すためにここに来たのだし・・・・。


「ジャクリーヌ! お前なんということをしてくれたんだ」

伯爵が唖然として娘をみやって立ち上がった。


私は叱りつけようとしている伯爵に手を上げて制した。立上ってジャクリーヌの傍まで歩いて行った。

もう、こうなったら仕方がなかった。わざわざここまで来たのだ。今までの事を全て水に流すしか無い。でも、初めてのアドからの花束が・・・・


「ジャクリーヌさん。別に花束なんて良いのよ。グチャグチャにしても」

私はジャクリーヌの肩を抱いて言っていた。心の中は号泣していたが、言い切ったのだ。本当に偉かった!後でメラニーに言ったらため息を付かれたけど・・・・


「えっ、でも、フランソワーズ様。あの花束は殿下から初めて貰われた花束ではないのですか?」

ジャクリーヌが更に私の心にナイフでえぐるようなことを言ってくれる。

「ううん、私にとっては花束は所詮花束よ。それよりも友人の方が大切だから」

私は言いながら心のなかでは泣いていたのだ。本当ならばヒステリックにジャクリーヌに罵声を浴びせたかったのだが・・・・本当に良く言えた。自分を褒めてやりたい。


「そんな・・・・。私に対して、そんなふうに言って頂けるなんて・・・・本当にすいませんでした」

ジャクリーヌは号泣していた。


「聖女様があなたが悪役令嬢で聖女様を虐めるから、仕返しにグチャグチャにしてくれって。私、聖女様が言われることだからってやってしまったんです。でも、本来、人からの心のこもった贈り物をメチャクチャにするなんてしてはいけないことだったのです。

そんな子供でもわかっていることなのに。

あなた様が泣かれたのを見て、とんでもないことをしてしまったと、初めて気付いたんです。私、ずうーーっと後悔していたのです。なのに、今まで告白する勇気もなくて、今まで言えずにすみませんでした。本当に申し訳ありませんでした」

ジャクリーヌはどもりどもり、何とかそこまで言った。私はただただ聞いているしか出来なかった。その間に初めての花束の事は諦めたのだ。


そして、ジャクリーヌは涙を拭って泣きながら私を見ると

「こんな酷いことをしてしまって、私が責任取った所で、貴方様の気が済むとは思えませんが、私、責任を取って学園を辞めさせていただきます」

最後は下を向いて涙を流しながら、ジャクリーヌが決心したように言った。


私は愕然とした。やっぱりジャクリーヌは学園を辞めようとしている。


私は前世では、行きたくても学校に行けなかったのだ。学園モノに憧れて、どれだけ行きたかったことか。でも、叶わずに死んでしまった。友達もほとんどいなかった。

でも、今世では、夢に見た学園に通えたのだ。やっと青春できたのだ。友達もたくさん出来た。

これからクラス対抗戦。思いっきり楽しみたいのだ。その前に、クラスメートの一人が辞めるなんて私自身は嫌だった。何の因果か、一緒のクラスメートになったのだ。最後の学年はコースごとだが、2年間は同じクラスのクラスメートだった。これからなのだ。その幸先を悪くする訳にはいかない。

私は自分の恋心、初めて婚約者にもらった花束を諦めて、クラスの結束にかけることにしたのだ。


私は今世は体育会系だ。責任のとり方なんて一つしか知らなかった。

それが女の子に通用するのか? 判らない。絶対にまた、ヴァンとかジェドにグチグチ後で言われそうだ。まあ、でも、クラスメートに学園を辞められるよりはましだ。


「ジャクリーヌの決意のほどは良く判ったわ」

私は頷いた。


「えっ?」

外野からは意外そうな声が出た。無視だ。こいつら見たら絶対にやる気が失せる。


「でも、そんなことじゃ、私は許さない」

そう言うと両肩を掴んでジャクリーヌを立たせた。


「私の前から消えたいですって、そんなの私が許すわけ無いでしょ」

私はきっとしてジャクリーヌを睨みつけた。


「ジャクリーヌ。歯を食いしばって」

「えっ」

思わずジャクリーヌは泣き止んで私を見た。


私が手を振りかぶった。


思わずジャクリーヌが目をつぶる。


皆、呆然と私を見ていた。メラニーなんて口開けてみている。


私はその初めてしばかれるんだと思ってぎゅっと目をつぶったジャクリーヌのおでこに、思いっきりデコピンしてやったのだった。



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