第24話 私を嵌めたクラスメートの伯爵令嬢の家に押しかけたら、号泣されました

翌朝、私とメラニーとノエルは制服のまま、学園の入口に向かった。ノエルはその後、家に送リ届ける条件であっさりと了解してくれたのだ。王宮に呼ばれた顛末について根掘り葉掘り聞かれたけど・・・・


『姉上!』

そうして、入り口に着くとジェドとヴァンの二人から呼びかけられて驚いた。


何故、二人がいる? 私の後ろでノエルが固まっているし。


公爵家の馬車を1台回してもらうように頼んだのに、2台も止まっているし、1台は王宮のお忍び用の馬車だ。


「あのう、私は公爵家の馬車を1台回すようにお願いしたのだけど、何故二人がいるの?」

「姉上、酷いじゃないですか。昨日、助けたから、その御礼に付き合ってくれるって言ってましたよね」

ヴァンが言い切った。

「何を言っている? そもそも、姉上は俺の姉上だ。ヴァンは昨日出しゃばったんだから、今日は俺に任せろ」

早速二人して言い合っているし、この二人は学園の中等部で同学年同クラスにいる。何かと張り合っている二人なのだ。今年からは生徒会長と副会長をやっていると聞いている。


「ヴァン、昨日のはあんたが言っただけで私は頷いていないわよ。何かアドの機嫌が悪かったし、それにジェドは自分の用事は良いの? 休みの日にやらなければいけない仕事が山積みだと思ったけれど」

「酷い!、あれだけ頑張ったのに。授業そっちのけでピンク頭のこと見張っていたのに」

ヴァンが頭の痛いことを言ってくれる。

「はんっ? 何言ってんだよ。ピンク頭がジャクリーヌ・シャモニに言うのを聞いたのは俺だぞ」

ヴァンを押しのけてジェドが言う。


「あんたら、ちゃんと授業受けなさいよ」

私は思わず注意した。


「だって、あのピンク頭、見るからに悪いこと考えてそうだし」

「そうだよ。姉上は単細胞だからすぐ騙されるよ」

「誰が単細胞なのよ」

私はジェドの頭をしばいた。

「痛い」

思わずジェドが頭を押さえる。


「姉上は力加減考えてよ。馬鹿力なんだから。その力で友達しばいたらダメだよ」

ジェドが涙目で言う。メラニーの視線が何故か怖い。


「そんなことより、ちゃんと授業受けなさいよね」

「授業なんて、受けなくても問題ないよ」

「そうさ、どの道、一番は俺だし」

「はんっ! 何を言っているんだ。一番は俺に決まっているだろう」

二人はまた喧嘩を始めた。


「判ったわよ。次の期末で一番取れたら、私がドットケーキでケーキバイキングおごってあげるわ」

「それは単に姉上が食べたいだけじゃあ」

ジェドが図星をつく。何故わかったかな? まあそんな事認めないけど。ドットケーキは王都の有名ケーキ店で、午前中はケーキの食べ放題のバイキングをやっているのだ。


「じゃあ、ジェドはいらないのね」

「それじゃあ姉上、俺と二人だけで行きましょう」

「なに言う、貴様と姉上を二人きりにさせるか」

「ふんっ、お前には負けないけどな」

「後で吠え面かくなよ」

二人は睨み合った。


それを見て後ろの二人は固まって、いや半分は呆れていた。


「ああ、紹介するわ」

私が二人に言うと、


「姉上がいつもお世話になっています。姉上の弟のヴァンです」

ヴァンが前に出てきて自己紹介をした。

「嘘つけ。お前は弟でも何でも無いだろう」

ジェドが文句を言う。


「彼はアドの弟なのよ」

「え、弟って言うと王子殿下」

私の言葉にノエルが固まった。

「まあ、ヴァンだから」

私の言葉にも反応しない。


「俺が正真正銘の弟のジェドです」

横からジェドが挨拶する。


「シルヴァン殿下とジェラルド・ルブラン公爵令息様にご挨拶いたします。メラニー・バローと申します」

メラニーが頭を下げた。流石にメラニー、二人のフルネームを覚えているなんて。私なんか愛称でしか呼んでいないから、半分忘れていた、と後でメラニーに言ったら、「王子と自分の弟の名前くらい普通覚えてるわよ」と白い目で見られてしまった・・・・


「ノエル・ハーベイと申します」

こちらはカチコチのノエルが挨拶した。


「バロー商会の令嬢とハーベイって言ったら内務に勤務しているハーベイだろう」

「えっ、父をご存知なんですか」

ノエルは驚いて聞いた。

「まあね。王子としての仕事も少ししているから」

謙遜してヴァンが言うけど、こいつもアドに似て記憶おばけだったような気がする。おそらく職員の大半は把握しているだろう。


「まあ、今日はお忍びだから、それに同じ学園の生徒だし、この二人はヴァン、ジェドと呼び捨てでいいわよ」

私は言い切った。


「そ、そんな、滅相もない」

ノエルなんて恐縮している。


「姉上、いきなりそれは厳しいのでは。じゃあ、僕らはメラニー先輩とノエル先輩って呼ぶので、僕らのことはヴァン君、ジェド君で良いんじゃないですか」

「えええ、そんな」

「まあ、それでいいわ」

ノエルが恐縮しているが私はそれ以上に気になることがあった。


「あんたら、これからさっき話題に出たジャクリーヌのところに行くんだけど、本当についてくるの?」

「えっ、姉上、更に断罪に行くのですか」

そう言うジェドの頭を私は思いっきりしばいていた。


「そんな、訳ないでしょ! 私はクラスの皆と仲良くしたいの。一部貴族を除け者にしたような気もしたから、仲直りに行くのよ。嫌なら置いていくから」

私が言い切ると


「もう、痛いな。姉上は脳筋なんだから思いっきり叩くと痛すぎるんです」

涙目でジェドが言う。


「余計なことを言うからでしょ。で、どうするのよ」

「行くに決まっているでしょ」


結局、私たちは王家の1台の馬車で行くことにした。ヴァンがこちらを使えと言って譲らなかったのだ。まあ、こちらのほうがお忍び用だけどクッションとかとても良いのだ。



「本当に良いの?」

ノエルとか恐縮しまくっていた。

何しろ5人は乗れないので、中にどちらが乗るかで喧嘩になったので、二人を御者台に追いやったのだ。御者は当然おろしてしまった。


まあ、二人なら、御者くらいきちんとやるだろう。伯爵の屋敷がどこにあるかも判っているみたいだし。



伯爵家に着くとヴァンが扉を開けてくれた。そのまま手を差し出してくれる。


「いきなり訪ねていらっしゃいましても困ります。たとえ公爵家のご令嬢と言えども礼儀知らずではありませんか」

建物の入口でジェドと執事と思しき男が揉めていた。まあ、そらあそうなるよね。元々、ここは想定内だ。


「ごめんなさいね。いきなり訪ねてきて」

私が執事に謝った。

「でも、どうしてもお話したいことがあって」

「お嬢様は1週間の謹慎処分を申し渡されて、とても消沈なさっていらっしゃいます。これ以上何をなさりたいのですが」

執事が怒っていう。良い執事だと私は思った。


「貴様、姉上になんてことを言うんだ」

そう横から怒るヴァンの頭をしばいた。


「ごめんなさいね。昨日の今日で警戒するのは当然よね。あなたは主人思いの良い執事ね」

「いえ、そのような。こちらこそ、申し訳ありません。公爵様のご令息とご令嬢が揃ってお訪ねいただいたのに」

「あなたが心配するのは当然だわ。実は私、王妃様に怒られたのよ」

「えっ」

という顔でヴァンがこちらを向くが無視する。


「『今回の件は伯爵令嬢を無視したあなたにも責任があるんじゃないの』と。それで仲直りできないかなとお邪魔した次第なのだけど、ダメかな」

私は上目遣いに執事を見た。


「王妃様のご命令ですか。そう言うことでしたらどうぞ、こちらに」

あっさりと執事は応接に案内してくれた。


「姉上、妃殿下がそんな事言っていないよね」

こっそりヴァンが言ってきた。

「まあ、嘘も方便よ」

私は笑って言った。まあ、これくらい良いだろう。王妃様がこういう事を言っていたことにしても文句は言われないはずだ。私はそう言った事を後で後悔するのだが・・・・。



応接は私を中心に両横にメラニーとノエルが座り、向い合せの席には、ヴァンとジェドが座った。


「お待たせしました」

そこへ、ジャクリーヌを連れてシャモニ伯爵が入ってきた。

入ってきたジャクリーヌは下を向いていた。私に顔向けできないみたいだ。


「なんか娘に御用のようですが、娘は一週間の謹慎処分がショックだったみたいで、よろしければ手短にお願いできますか」

伯爵が私を警戒したように言った。




そうよね。娘が罰せられる原因になった娘がいきなり訪ねてくれば、心配になるよね。


「ジャクリーヌさん。ごめんなさい」

私はいきなり頭を下げた。


周りのみんなは驚いて私を見ていた。


私はメラニーみたいに頭はよく回らないし、下手に飾った言動してもぎこちなくて様になんかならない。それならいっそ、私から謝った方がいいだろうと思ったのだ。


「えっ、フランソワーズ様。止めて下さい。謝るのは私の方です」

慌ててジャクリーヌが私に頭を下げた。


「あなた、本当はAクラスに配属されたかったんでしょ。それをアド・・・・というか、とある奴がEクラスに配属させちゃって、知り合いほとんどいないのに大変だったでしょ。唯一の知り合いの私は全くあなたの方を向いていなかったし。本来は私がもっと気を使ってあげないといけないのに、つらい思いをさせて本当にごめんなさい」

「いえ、そんな、本当に頭を上げて下さい。私こそ、本当にとんでもないことをしてしまったんです。本当にごめんなさい」

「ううん、ジャクリーヌさんだけが悪いんじゃないわ。全くあなたを構わなかった私も悪いのよ。私を許してくれる?」

私はジャクリーヌの手を取った。


「いえ、そんな」

ジャクリーヌは頭を下げたまま、私に手を掴まれて固まってしまった。

「ね、ジャクリーヌさん」

私は下から頭を下げているジャクリーヌの顔を覗き込んだ。


「も、申し訳ありません」

そう叫ぶとジャクリーヌはいきなり号泣しだしたのだった。

そんなに泣くことだろうか? しかし、次のジャクリーヌの告白に私は驚愕するのだった。

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