Case.1 探偵なのに盗むんだゆ ⑲

 白玉の海から脱出した俺の右隣みぎどなりに、大きく後方にジャンプしたやま田が着地する。

 巨大ヤドカリは距離をめることなく、台座の前で両腕を振り上げ、威嚇いかくするようにハサミを開閉している。

 与えられた役割はあくまで台座の守護なのだろう。

 よく見ると、やま田の刺突剣フルーレが腕に刺さったままだ。

 どうやら関節の奥まで入り込み、引っかかってしまったようだ。


「はっはっは、なかなか手強そうですな」

「ソ……、ヨーグルさん!」


 唐突とうとつにヨーグルも左隣ひだりどなりに現れていた。

 片眼鏡モノクルをしていないから、この方は俺達の大事な仲間であるヨーグルなのだ。


「全く、どこに行っていたゆ! ソトスを捕まえるチャンスだったのゆ」

「ふむ、かの不埒ふらちな怪盗はいずれ宇宙ポリスメンに突き出さねばなりませんからな」


 本当の意味で何一つ気づいていないやま田に、真顔でうなずいているソトス。

 そして、それをながめる俺。


「どうされましたか、良成よしなり様」

「いや、たまに思うんだよね。もしかして俺だけが異常なんじゃないかって」

「ようやく気付いたゆ」

「そこはフォローするところじゃないんですか! これ、やまの字!」

言い直すリテークゆ。……そんなことないゆ、きっとヨシナリは、ヨシナリの中ではちゃんと正しいのゆ! どうして、どうしてこんなことになったのゆ……!」

「ちょっと待て、そのフォローの仕方だとまるで本人だけ正常だと思い込んでる感が増すから! 1.5倍ほど大盛りになっちゃいますから!」

「難しいゆー」

「やま田様は、もう少し地球のイロハを勉強する必要がありますなあ」

「むあ、頑張るゆ!」


 両手でヨーグルにガッツポーズをするやま田を見ながら、改めて思うことがある。

 こんな状況でも、いや、こんな状況だからこそ、こういう普段のやり取りをしているのはありがたい。

 俺は平凡な人間だ。

 ヒーローじゃない。

 正直言って、さっきまで怖くてしょうがなかったのだ。

 でも、今は俺の横にやま田とヨーグルがいる。

 この二人と一緒に居ると、どんなことでも乗り切れるような強い気持ちがき上がってくるんだ。

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