Case.1 探偵なのに盗むんだゆ ⑫

「……やま田、何やってるんだ」

「見ての通りだゆ」


 二日前のことだ。

 灼熱地獄しゃくねつじごくと化した外から逃げるようにして事務所へ転がり込んだ俺を待ち受けていたのは、巨大な氷のキューブと、手袋をつけた両手でそれを延々とこすっているやま田だった。


「いや、なんだ。俺って顔が意外と広くてさ、いい医者を知っているんだ。きっと宇宙人でもてくれるだろうし、例えば心の病とかもさ、色々と力になってくれると思うんだ」

だまるゆ」


 即座に俺の申し出を却下きゃっかすると、シュッシュッし続けるやま田。

 エアコンから押し出される冷却風と、氷から放射される自然な冷気が事務所を快適な温度へと押し下げている。

 とりあえず、邪魔にならないようにと入って右側にあるソファーへと移動しようとする。

 と。


「ヨシナリもやるゆ」

「は?」

「キミの力が必要なんだゆ」


 そう言うと、厨房エリアから出てきたヨーグルが、やま田が装着しているのよりワンサイズ大きめの手袋をもって現れる。


「良成様、どうぞ」

「……はあ」


 有無を言わさない雰囲気に飲まれた俺は、結局、やま田と二人でその巨大な氷の塊をこすってコスってこすり続けた。

 手袋は完全な耐冷仕様となっており、中は程よく温かいままだった。

 氷の減り方もなかなかのものであったし、メイドイン地球ではないのだろう。

 おそるべし宇宙人技術。すごいぞ宇宙人技術。



 ――ということがあったな。


「あれかあああああああ、あれ伏線なのですかああああああ?!」

「ふ。さあ、一緒にやるゆ」


 例によってヨーグルさんが用意した例の手袋を俺とやま田は装着する。

 実際に氷の目の前まで来ると、純氷じゅんひょうなのか、美しくけており、その奥には底の見えない縦穴がぽっかりと開いているのだった。


「なるほど、これを溶かして、この穴から次の場所に行くというわけか」

「おそらくそうだゆ」

「おっけー、……やりますか」


 どうせこのミッションが終わるまで、解放されることは無い。

 ならばさっさと進めた方が楽になる。

 明けない夜は無いのだ。

 諦めにも似た後ろ向きなやる気がふつふつと燃え上がり、俺は大きく深呼吸すると、ことにかかり始める。

 こうなったら1秒間に16めいじんこすりしてくれる!

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