Case.1 探偵なのに盗むんだゆ ⑪

「パワーが回復したゆ!」


 白玉おしるこを完食したやま田は、いつも以上に肌がつやつやな気がする。

 一方の俺は、げっそりだ。

 モリブデン多め濃いめ硬めは、普通の白玉生成に比べ、より体力を持っていかれるのだ。


「良成様、どうぞ」

「ヨーグルさん……、ありがとうございます」


 再び手渡された紙コップから、ふわりと芳醇なアロマが立ち上がる。

 真っ黒の水面が広がるこれは、まごうことなきブラックコーヒーである。

 どういうわけか、白玉生成による消耗しょうもうを回復させるには、コーヒーが一番なのだ。


「ああー……生き返る」


 目を閉じ、のどから胃に流れ落ちていく香りと苦みと温かさにひたる。

 今が夜遅くのせいか、眠気もふわりとまぶたに落ちてくる。


 このまま寝てしまったら、どうなるだろう。


 きっと、実は全て夢でしたオチで、鳥たちのさえずりが耳元に響くいい感じの朝を迎え、家族四人がそろっていて、食卓を囲んでテレビを見ながら談笑だんしょうして、それからアイドル並みに可愛い彼女とデートに出かけるという平和で満たされた高二のリアじゅう夏休みライフが――。


「さっさと行くゆ」

「ちょ、力強いな?! 白玉食ったせいか! 痛い離せ自分で歩けるわい!」


 人の夢と書いてはかない。

 願いは即座に立ち消え、俺はワイシャツのえりをずるずると引きずられ次の部屋へと強制移動させられた。


「……なんだ、これ」


 次の部屋は先程の細長い部屋とは違い、正方形のそれなりに大きな空間だ。

 だが、その空間はあまりに無駄であった。

 なぜなら、中央に立方体の氷のキューブがどん、と置かれているだけなのだから。


 ……いや、待てよ。


 俺は記憶をさかのぼる。

 この縦横高さ1メートルはある氷の塊、知っている。

 アレはそうだ、さっきもヨーグルとの会話で出てきた、昨日の――。

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