Case.1 探偵なのに盗むんだゆ ⑮

 のどかなみどり連綿れんめんと続く野原、そして奥にはいかにも西欧せいおうにありそうな風車小屋、その手前に流れる小川のせせらぎ。

 太陽は柔らかい日差しを豊かな自然へと注いでいる……。


 って。


「太陽?!」

「太陽ゆ」

「いや、さっきまで暗かったでしょここ! 太陽あるのに暗かった?! どういうこと? 何、太陽isオンオフ機能あるタイプの照明でございますか?!」

「落ち着いてください、良成様。驚きのあまり、お顔が初めて10円ハゲの発生を目視した独身アラサー女性みたいになっておりますぞ」


 例えが具体的過ぎるからやめれ。


「ヨシナリ、これは映像ゆ」

「映像……だと……」

「全方位完全映像投影は地球にはまだ存在しないシステムですからな、驚くのも無理はないでしょう」


 にわかには信じられないけれど、言われてみれば。

 足元はこれだけ瑞々みずみずしい若草が生えているというのに、草を踏み倒している感覚は一切ない。

 というより、先程と同じ固い床の感触のままだ。


「……そういうことか。つまり、あの小屋もあくまで映像なわけだな」


 俺は納得すると、小屋まで歩いていき、入り口のドアノブを引く。

 ギギ、という重たい感触と共にゆっくりとドアは開き、ぱらぱらとほこりが落ちてくる。


「……いや、実在性だし!」

「その小屋は実際にあるものゆ」

まぎらわしいですね?!」


 ため息をつきながら扉を閉じ、ふと右を見る。

 と、少し離れたところにこの景色とは明らかに異質な雰囲気の台座が置かれている。

 その上には、透明なショーケースにおおわれた美しい赤い宝石が鎮座ちんざしていた。


「あれか!」

「あれゆ」

「あれですな」

「こう、設置が雑過ぎると思うんですよ。せっかくこうやって危険をくぐり抜けてここまで来たんだから、もうちょっと景色に馴染なじませて分かりにくくするとかさあ、あるでしょうに」

「はっはっは、注文の多い良成様でございますな」

「最後はモリブデンを全身にみこんでとかいうゆ、目つきがやらしいゆ」

「俺にはお前たちの言ってることが何一つ分からないよ」


 それはさておき、ついにお目当ての物へと辿り着いた。

 さっさと拝借して、この長いようで短かった夜を終わらせよう。

 と俺が一歩踏み出した、


 その瞬間。


 地面が、大気が、小刻みにれ始めた。

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