Case.1 探偵なのに盗むんだゆ ⑭

 落下に追いついたやま田は、その両手を伸ばし俺の肋骨ろっこつの辺りをがっちり掴む。

 刹那せつな、あれだけ強く感じていた地球様の圧倒的な重力が、ふっと和らぐ。

 頭から落ちているという事実は変わらない。

 だが、このへんてこな宇宙人が近くにいると、こんな状況でも不思議と心は落ち着きを取り戻していく。

 何とかなるんじゃないかって思えてくるのだ。

 

「ヨシナリ、もうすぐ地面につくから持ち替えるゆ」

「おう。……ん? 持ち替え……、ぬわあ!?」


 やま田は身体を空中で反転させるその勢いのままに、一旦上に投げる。

 母なる地球生命体の一員である俺は、今度は足から自由落下の恩恵にあずかる。

 だが、それも一瞬のこと。

 再びやま田がキャッチすると、ゆるやかな抗重力こうじゅうりょくパワーを取り戻す。

 そしてすぐに、地面というものの偉大さを踏みしめた。


「どうやら着いたみたいだな」

「そうゆ」

「でも、暗いな」

「ちょっと待つゆ」


 少ししてヨーグルが上から開いたかさを片手に下りてくる。

 この方もその気になれば道具など何も無くともふんわり落下出来る御仁ごじんのはずだが、おそらく趣向なのだろう、必ずかさをさすのだ。


「はっはっは、見事な垂直落下でございましたな」

「死ぬかと思いましたよ……」

自業自得じごうじとく……ではありますが、まあ、そういうたまに出る天然さも良成様の魅力。さて、明かりをともしましょうか」


 ヨーグルは傘をたたみ、その切っ先を大地へトントンと2回軽く叩きつける。

 すると、世界が一気に明るくなり色味を帯びる。


「これは……」


 綺麗だ。

 そこにあるのは、素直にそう口に出てしまうほどの絶景だった。

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