#36 親×子
天司から来た連絡はうまく返せず、前向きに検討するとだけ送った。
既読は付いたものの、返信はなかった。
学生は学業が本分という事もあり、当然ながらバイト三昧ではない。勉強、宿題をする日々を過ごしていると、遂にその日はやってきた。
「……粗茶ですが」
「あら、ありがとう」
置いたお茶に手を出す美恋の母。
「そういえば、自己紹介をしてませんでしたね。私は
アパートの自室、テーブルを挟んだ向かいに、歌恋さんは座っていた。
美恋と同じ白銀の髪は肩口で切り揃えられており、童顔ながらスタイルも良く、上品さが溢れている。
美恋はというと、俺の隣で正座していた。少し緊張しているみたいだ。
「我が子の様子を見る為に、もともと伺うつもりでしたが、公正くんの方から話したい事があるなんて、何事でしょうか?」
「……うちの親に説明をしようと思いまして。今の状況を……」
俺は両親が勉学のために、一人暮らしを認めてくれていると歌恋さんに話す。
「本当にごめんなさい。公正くんには、負担をかけていると思ってます。私で良ければ相談にのります」
申し訳なさそうに頭を下げる歌恋さん。その姿は落ち込んだ美恋に何処となく似ている気がした。
「それで、美恋のことをどう説明しましょう? 学校では、親戚で通してまして……。降幡先生には歌恋さんから説明があったって聞きました。いったい何て説明をしたんですか?」
「学校へは、美恋の今までの生活を鑑みて、成長してもらうために居候という身で公正くんのお家に居させてもらっていますとお話ししました」
具体的に続ける。
「今まで、海外の生活が長くて、基本的には外に出ていなかった……。家庭教師をつけて自宅で勉強をして生活をしてました。高校生になる歳を機に自立してもらおうと玉篠宮に入学させたのですが、一人暮らしが上手くいかなかったみたいで……」
生活がうまく行かなかったことは知っている。
「そこで、子供の頃に仲の良かった遠い"親戚"の公正くんを頼りにさせていただきました。……とお話ししましたね」
親戚、同じ言い訳を歌恋さんも使っていたわけだ。学校側も親戚同士の取り決めに、わざわざ介入しようとはせず、雛菊家への確認をしなかったのだろう。
両親から連絡がないのが何よりの証拠だ。
「その説明だと、うちの両親には通用しないですよね……」
「いえ、美恋が海外でその様な生活を送っていたのは本当です。なので、言い方を少し変えようと思います」
美恋のやつ、お嬢様はお嬢様でも、真の箱入りだったんだな。どうりで出来ない普通のことが多いわけだ……。
隣に座る美恋に視線を移す。
目が合った美恋は、なんでしょう?といった風に目をパチパチさせている。
「言い方を変えるというのは?」
「小さい頃の唯一の友達にしか、頼るところがなかったとお話しします。私も勢いで、この生活を認めてしまった節はありますので、ご挨拶に伺います。急な話なので謝罪も必要だと思いますので……」
俺の両親への説明内容を詰め、日取りを決める。歌恋さんは多忙のようであまり時間が取れなさそうだった。
俺は意を決し、母に電話を試みた。
電話のコール音が数秒鳴る。
「もしもし? どうしたの?」
母の声だ。
「もしもし、急なんだけどさ……。明日帰ろうかなと思って……」
「急ね。まあ、明日はあたしも休みだから、帰って来てもいいわよ」
「父さんは?」
「お父さんも休みだけど、午前中はどこかに行くみたい。お昼過ぎには帰ってくるはずよ」
「わかった。じゃあ帰る」
「了解。気をつけてね」
「…………」
「ん? どうしたの?」
「友達も連れて行くよ」
「友達? そう、わかったわ。何もないけどいいの?」
「うん。大丈夫……」
伝えたい事を伝え、電話が切れる。
嫌な冷や汗がすごい。心臓もバクバクしている。
一息ついた俺は歌恋さんと向き合う。
「お時間が限られているという事なので、申し訳ないですが明日でよろしいでしょうか?」
事後報告だが、勢いがないと色々恐かった。
「問題ありません。お手数おかけします。」
俺と歌恋さん二人で溜め息を吐く。
「わたしも行くの?」
真っ直ぐな美恋の問いに。
「当たり前だ!」
「当たり前でしょう!」
二人でつっこむ。
〜〜〜
翌日の昼過ぎ、実家、雛菊家の前に立っていた。夏の暑さと緊張で胃がキリキリする。
昼食は道中で済ませた。
俺の隣に美恋と歌恋さんがいる。
俺は実家の鍵を開け、家の中へと足を踏み入れた。
実家を離れてから三ヶ月程しか経っていないのに懐かしさを感じる。
帰ってきたんだなぁ
玄関に美恋と歌恋さんを待たせ、母がいるであろうリビングに向かう。
「ただいまー」
リビングのソファでくつろぐ母がいた。
「おかえりー。あれ? 友達は?」
「今は玄関にいる」
「上がってもらいなさい。暑いでしょ!」
そう言って玄関へ向かう母。その後ろを俺はついて行った。
「えぇ!! 女の子!?」
美恋と歌恋さんを見た母が驚愕する。
「友達って……。てっきり男の子だと思ってたわ。はぁー……」
空いた口が塞がらない母に歌恋さんが声をかける。
「はじめまして。最上歌恋と申します」
美恋が続く。
「わ、わたしは最上美恋です! よ、よろしくお願いしましゅ!」
美恋は緊張で噛んでいた。
「友達、よね。とりあえず上がって」
四人はリビングへ向かう。
不在の父を除き、俺、母と並び。
向かいの椅子に、美恋、歌恋さんと並ぶ。
「ちょっと公正、どういうことよこれ?」
「どうことって、ちゃんと話すから待ってくれ」
冷たいお茶を用意しながら会話する。
飲み物が全員の手に渡り、母から口をひらく。
「お二人は、姉妹なの? ほら、苗字が一緒だし。似ているじゃない? それに、その綺麗な髪も同じだしねぇ」
姉妹、そう言われてもわからないくらい歌恋さんは若々しかった。
「恐れ入ります。私は美恋の母です。本日は公正くんのお母様とお父様にお話があって参りました」
歌恋さんは俺に目配せをする。
「実は、娘の美恋なんですが、公正くんのアパートに居候させていただいているんです」
「居候? ……居候!?」
母が俺を見る。
「えっと……、そうなんだ。話せば長くなるけど、そういう事なんだ」
状況が飲み込めていない母を待ちつつ、歌恋さんが用意した説明は始めた。
訝しみながら、話を聞く母の眼は物凄い緊張感を生み出していた。
一通りの説明と会話が終わり、母は頭を抱えた。
「公正……。連絡するでしょ、普通。今の状態が世間から見て普通だと思うの?」
「思わない……です」
「いくら美恋ちゃんに事情があるとはいえ、早く教えなさい!」
母の怒りはごもっともだった。
「貴方も貴方です、最上さ……歌恋さん! 娘さん一人を男の子の家に居候させるなんて何を考えているんですか!」
「はい……。申し訳ないと思ってます」
深々と頭を下げる歌恋さん。
隣の美恋はどうしたらいいかわからず、今にも泣きそうな顔をしていた。
すごい剣幕で怒る母に俺は何も言えずいた。
「公正……。学校の方は大丈夫なの? ついていけてるの?」
「それは、大丈夫。しっかりやってるし、楽しいよ」
「そう……」
俺の返しに複雑な表情を見せる母。
そんなとき、外出していた父が帰って来た。
「お! 帰って来たか公正!」
「父さん……」
「はぁぁ。母さんから連絡があって直ぐに帰って来たけど凄いなー。どっちの子もすごい可愛いじゃないか!」
状況を理解していない父が脳天気に言う。
「お父さん。……公正、こちらの美恋ちゃんと同棲してるみたいなの……」
「へぇ、同棲……。ん? 同棲!」
驚く父に、母が経緯を話した。
「なるほどねぇ。つまりそれは、公正しか頼れる人がいなかったって話だろ? だったら良いじゃないか!」
父の反応は、母とは対照的だった。
「俺たちには、最上さんたちの住む世界がわからないけどさ、美恋ちゃんの幼少期が俺たちの知る普通じゃなかったってことだろ?」
「そういう話だけど、それとこれとは別でしょ!」
「息子のことが心配なのは俺だってそうさ。けど、公正は今必要とされてるんだ。俺たちが育てた子がしっかり頼りにされてるんだよ。誇らしいだろ?」
父の言葉に、俺は泣きそうになる。
そんな中、鼻を啜る音が聞こえて来た。
美恋だった。
「ごめんなさい……。わたしのせいで、公正に迷惑かけて、公正のお母さんとお父さんにも迷惑かけて……ごめんなさい」
泣いて謝る美恋に心が痛む。
「美恋ちゃん。泣く事ないよ。おじさんはね、別に公正と一緒にいることは否定しないよ。母さんだって当たり前のことを言ってるだけさ、美恋ちゃんが女の子で可愛いから心配なんだよ。公正が何か変な事をしてないか」
思春期の男女が同じ屋根の下で生活しているのだ、親として心配するのは当然だった。
「公正、ちょっと美恋ちゃんを連れて、街にでも行って来なさい。父さんと母さんは、最上さんと話してるから」
父に促されるまま、ボロボロ泣いている美恋と一緒に外に出る。
何も出来ないな、無力だな、と空を仰ぐ。
蝉の鳴き声と湿った暑さが嫌に纏わりついた。
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