第109話


 「ちょ、ちょっと! ネージュ!!?」


 半端じゃない振動に立っているのもやっとの状態だが、立てる立てないとか正直言ってそれどころじゃない。


 「あんた、なんてもの連れてきてるのよーーー!!!」


 ネージュの後を憤怒の表情で追いかけてきて木々の隙間から覗き見えたのは、ノアやネージュの大きさなんて比べ物にならないほどものすごく立派な風竜だった。


 「ねぇっ! 何したの!? 何したの!!? まさか岩壁の向こうに行ったわけじゃないわよねっ!?」


「行ってないぞ! こいつが自分で出てきてたんだ!」


 ネージュが言うには岩壁の向こうから出てきていた風竜と鉢合わせてなんかわからないけど追いかけられているらしい。


 普段竜種は岩壁の向こうに住んでいて、こっち側に出てくるのは好奇心旺盛な若い竜ばかり。ここまでの大きさの竜が出てくるなんて滅多にないことだ。


 まずい。私たちはまだ話せるだけの余裕があるが、他の人は腰を抜かしたり固まっていたり、逃げるという発想すらない。


 「皆さんっ! 逃げてください!」


 そう叫ぶと、さすが狩りに慣れているだけあってレオンハルト様がいち早く動きをおこす。腰は引けて脚は震えているけれど。

 ウィルフレッド様もハッとしたように剣を構え直した。ウィルフレッド様は私の強さを知っているからか、冷静さを取り戻したようだ。


 「アールグレーン嬢。君は逃げるんだ! 従魔に乗ればなんとかなるはずだ!」


 レオンハルト様は私を逃がそうと考えたのか、なんとかしようとこちらに向かってくる。


 いや、逃げて!? レオンハルト様が近くに来たら余計に動きづらくなってしまう。


 「いや、逃げてください!!」


 「従魔に乗ってこっちに逃げてくるんだ!!」


  いや、だからっ!!


 そんなことをしているうちに木々をすり抜けて逃げてきたネージュを追って、その木々を薙ぎ倒しながら進んできた風竜が姿を表す。


 グァァアアァアアアァァァ!!!


 このままではみんな巻き込まれてしまう。


 レオンハルト様はこっちに走ってきてるし! ネージュもこっちにくるし!! それを追って風竜もこっちにくるしっ!!!

 

 巻き込まないためにはっ!!? そうだっ! とりあえず風竜を遠ざけなくてはっ!


 まずはあの巨大を遠ざけなくては、みんな一緒に押し潰されてしまう。

 なんとかこの状況の中絞り出して思いついたのは、風竜を吹き飛ばすことだった。

 

 「【ブラストッ】!」


「ッオェァ!? アールグレーン嬢っ!?」


 えいっと風竜を魔法で吹き飛ばし転がすと、レオンハルト様から聞いたことのないような声が出た。


 風竜は自分を吹き飛ばすような存在が岩壁の外にいるなんて考えてもいなかったのか一瞬唖然としたような表情をしたが、またすぐに暴れ始める。


 怒りすぎて何を言っているのかハッキリはわからないが、どうやら気配の感じられなくなった息子の敵討ちらしい。


 超身に覚えがある。

 前回大森林に来た時、ノアとネージュが小さめの風竜を狩ってきて王宮に手土産として持って行った覚えが超ある。


 このまま岩壁の向こうに帰ってもらえないかと思うが、この怒りようではそれも難しそうだ。


 「はぁ……、やるしかないか。【エアカッター】」


 いつもよりも多めに魔力を練り、風の刃を作ると風竜の首をズパンッと跳ね飛ばした。

 ドサっと首の落ちる音から数秒遅れて、風竜の巨体が地面に倒れ地響きが鳴る。


 「さ。狩りの続きをしましょうか」

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