第106話

風竜を持って急いで王宮へ戻ると、そんなふうに狩ってくるような魔物ではないとみんなに怒られた。

 狩ってきたのはノアとネージュなのに、主人である私の責任になるらしい。

 ただ、一部の素材と交換で王宮で解体をしてくれるというのでまぁそれは良かったけど。こんな大きさの魔物を自分で解体するとなるとひと苦労だからね。


 「さて、明日には獣国から王子が到着するぞ」


 まあだからと言って特にやることはないんだが。と皇帝陛下が笑う。


 今回のは公式行事などではない。ただ王子が狩りにくるだけ。といっても放っておくわけにはいかないので護衛やら最後にパーティーやらはあるけれど、私たちが何か準備をする必要はない。

 そうは言っても緊張はする。前世では色々世界を見て回ったけれど、✧◝(*°꒳°*)◜✧˖°何せ今世の私は海と大森林に囲まれた王国出身だ。他国へ行くには、冒険者か私のように特殊な理由がない限り船になるため、他国との交流が少ない。この間の神聖教国の時も緊張したけれど相手は人だったし、あの時は先にセサルさんに会っていた。


 でも今回は今世初の獣人。

 もしかしたら王国でも下町を探せばいたのかもしれないけれど、貴族に獣人はいなかった。

 資料では獣国や獣人について読んだことがあるけれど……。


 「そんな不安そうな顔をしなくても大丈夫だよ。獣人は……、特に王子は獅子の獣人だから体格が良くて怖そうに見えるかもしれないけれど、国民柄素直で実直。わかりやすい素直な性格だよ。ちょっと大雑把で王子にしてはガサツだけど」


 毎年来てるというだけあって、そう説明するウィルフレッド様は嬉しそうだ。きっと仲が良いのだろう。


 「まぁ、そう緊張するような相手じゃないってこと」


 獣国の王子って考えないで、俺の友達って考えればいいよ。


 ウィルフレッド様が気を使ってそう言ってくれたが、婚約者の初のお友達紹介だということに気がつき、緊張で眠れぬ夜を過ごすことになった。





「あ、見えたぞ!」


 そう言ってウィルフレッド様が指差す先を見ると、何台もの馬車がこちらに向かってくるのが見える。

 実は私は魔法を使って少し前から馬車が来るのを確認していたからウィルフレッド様より先に気づいていたんだけれど。


 王宮の正面にズラリと馬車が並び、先頭の1番立派な馬車から大きな獣人が降りてくる。


 「レオンッ!」


 ウィルフレッド様が近づきなにやら楽しそうに話している。あの人が獣国の王子のレオンハルト様か。


 長身のウィルフレッド様よりもさらに大きくて礼服の上からでもわかるものすごい筋肉。

 なんというか、全体的に大きい。

 髪は金髪? オレンジ? に黒が混ざっている感じで襟足が長くてぴょんぴょんしてる。そしてその頭には耳!! 獅子の獣人だから大きな耳ではないが、確かに耳が生えている!! すごいっ!! 顔は獅子らしくワイルドめだ。 眼光が鋭い。瞳の色は神と同じオレンジ? か

な?


 そんなふうに考えていると、眺めていたレオンハルト様がだんだん大きくなっているのに気がつく。


 あれ? もしかしてこっちに向かってきてます……?

 じっと見すぎたっ!? と焦っているうちに、あっという間に目の前まで来てしまった。


 「大きい……」


 馬車から降りてきた時から大きいとは思っていたけれど、目の前にすると迫力が違う。自然と見上げる形になる。


 「お前がウィルフレッドの婚約者か! いやー、皇太子なのにずっと婚約者がいないことを心配してたんだ。 俺は獣国スインガの王子でウィルフレッドの幼馴染のレオンハルトだ! よろしく頼む!」


 そう言ってレオンハルト様は私の手をガシリと握りブンブン振った。


 「わっ、とっ……!」


 いきなりのことに体制を崩すと、慌ててきたウィルフレッド様が肩を支えてくれる。


 「レオンッ! オレリアはか弱いんだ。気をつけてくれ」


 「っ……、ワりぃっ!」


 ハッとしてこちらを心配するレオンハルト様は、確かにウィルフレッド様が言ったように素直で、良い意味で王子らしくない方のようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る