第62話

「まず、皇妃の容体は聞いているな?」


「はい、聞いています」


「皇妃の容体は日に日に悪くなっている。セフィーロ神聖教国に頼ってもダメで、今は回復魔法をかけ続けなんとか生きているような状態だ。正直可能性があるならば直ぐにでも見てもらいたい。が、皇帝としては身元のわからぬ者を皇妃に合わせるわけにはいかない。

まぁ既に王宮内には入れているのだがな。

グリフォンとフェンリルがいれば自力で王宮に入ろうと思えば入れるだろうし。そうだろう?」


「そうですね。入ろうと思えば入れます」


「だからあれだ。身元のわからぬ者を王宮に入れたと我が国の貴族に知られるわけにはいかないのだ。だが皇妃の治療はしてほしい。

こちらの都合であれこれ言って申し訳ないのだが……。

そちらも身元を明かしたくないと聞いた。

なので一切そちらについて詮索しないと約束しよう。その代わりに皇妃が治ったとしても身元がハッキリしない限り治療者として発表はできない。それで手を打ってもらえないだろうか?」


 なんだか随分私に都合が良い条件だ。

 もともと私が治療したと発表してほしいなんて思っていなかったし、ちょうどいい。


「そちらの条件で構いません」


「発表しないということは報酬に爵位などは望めなくなるぞ?

セフィーロ神聖教国ですら治せなかった病を治した者だと発表すれば高額の治療費を払っても治してもらいたいという者が集まってくる。世界一の治癒師という称号もない。よいのか?」


 いやいやいや!

 むしろそんなことになってしまったら逆に困る!!


「そういったものを望んでいるならば大森林に住んでいませんよ。そちらの条件でよろしくお願いします」


 無事話が纏まり皇帝陛下の雰囲気も和らぐ。


「ではさっそく皇妃のもとへ向かおう。

まずはリア殿に治療ができるかどうかを確認しよう」









 皇妃様の寝室に入ると独特の香りが漂う。

 どうやら鎮痛成分のある薬草を焚いているようだ。


「ティナ、来たよ」


 皇妃様は頬がこけるほど痩せて、青白い顔でベッドに横たわっている。


「彼女がこの国の皇妃のクリスティナ・ラルージュだ」


 皇妃様はゆっくりと目を開けると、ひび割れた唇で「へ、いか……」と呟く。


 薄いラベンダー色の髪にアメジストのような瞳。今は病に臥せっているが、その顔立ちから元はとても美しい人だとわかる。


「この女性は物凄い魔法使いなんだ。ティナの病もきっと治るよ!」


「あり……が、とう、ご……ざ、ます」


 皇妃様はそう微笑む。治るとは思っていないが陛下が自分病を治そうとしてくれている姿が嬉しいのだろう。


「皇帝陛下。私にも紹介していただけますか?」


「おぉ、セサル殿! こちらはリア殿だ。回復魔法が得意で病の治療にも詳しいと聞き連れてきた。

リア殿、こちらはセサル殿。セフィーロ神聖教国から皇妃の治療に来てくれた神官だ」


「はじめまして。よろしくお願いいたします」


「はじめまして。

では今回復魔法をかけている者がもうすぐ魔力切れになりますから、そうしたら交代してもらいましょうか」

 

 皇妃様の横には汗を流し辛そうな表情をしながら回復魔法を使っている者が。

 

 回復魔法をかけ続けてなんとかもたせていると言っていたものね。


「いや、彼女は先ほども言った通り病の治療に詳しい。だからまずは皇妃の診察をしてもらうよ」


「そう、ですか」


 セサルさんは不服そうだ。セフィーロ神聖教国は医療や回復魔法については1番。そして教皇様が皇妃様の治療に寄越した神官ということはセフィーロ神聖教国の中でも特に優秀な方なのだろう。そんな自分が治療は不可と診断し回復魔法での延命をしているというのに、ポッといきなり現れた私がもう一度診察するというのだから気分は良くないだろう。


「皇妃様、失礼しますね」


 まず回復魔法を全身にかけてみると、全身から反発を感じる。


 どこか特定の部位が悪いわけではなさそうね。ロルフとミルルの母親のラウラさんに回復をかけた時に似ているかも。

 でも皇妃様はラウラさんと違って、全身は全身でも血管?血液?が悪いって感じかな。

 これは皇妃様が痛いと言うところに回復魔法をかけても治らないはずだ。


「ほら、もうわかったでしょう?

いくら回復魔法をかけても完治には至りません。回復魔法をかけ続けて出来るだけ進行を遅らせる、それが最善です」


「たしかにここまで酷いと全身に回復魔法をかけるにしても普通の人なら治る前に魔力が切れてしまいますね」


 普通の人なら。 


「そうでしょう。では……」


「でも、私にならできます」


 膨大な魔力があり、伝説の魔法使いアデライト・アールグレーンの魔法知識がある私なら。

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