第60話

「すごい! 帝都まであっという間だな!」


 そう言う皇太子殿下の指す先には帝都の影がうっすらと見えはじめている。


 皇妃様のためだからとノアとネージュに乗って爆速で駆けた私たちは馬で行く数倍の早さで帝都に到着しようとしている。

 クレンセシアから帝都までノアとネージュを見たかなりの人に悲鳴を上げられてしまった。中には倒れる人まで。まぁいきなりグリフォンとフェンリルがものすごいスピードで走ってきたらそうなるだろう。

 きっと騒ぎになるだろうが皇太子殿下がなんとかしてくれるはず。きっと。

 馬に乗り慣れた皇太子殿下と騎士団長も初めはノアとネージュの速さに戸惑っていたが、今ではこの乗り心地と速さが気持ちよくなっているようだ。


「見てください。これが帝都を囲む城壁と大正門です!」


 帝都は高く頑丈な壁で囲まれており、大きく立派な門が正面についている。

 その立派な門から兵士がたくさん出てきているのだけれど……。


「お前たち! 何の目的があって帝都にきた来た!」


 兵は剣や槍を構え門の前に門を守るように立つ。

 兵たちの視線はノアとネージュに集中しており皇太子殿下と騎士団長には気がついていない。


「この顔に見覚えはないか?」


「な、なにを……!? って、騎士団長!!?」


「騎士団長だと!?」

「本物か!?」

「兵長が言うんだから本物に決まってるだろ!!」


「こちらは皇太子殿下と皇太子殿下の客だ」


 騎士団長の顔を知っているらしい兵長に騎士団長が言う。


「皇太子殿下!!? ……し、失礼しました!!」


 兵達は皇太子殿下に武器を向けてしまったと青くなりながら武器を下ろす。


「いい。兵達はきっちり仕事をしただけだ。

これからもこの調子で頼む」


「「「「「ハッ!!」」」」」


 兵長はそのまま私たちを王侯貴族用の入り口へと案内する。


「馬車を用意いたしましょうか?」


「いや、結構。このまま王宮へ向かう」


 馬車を用意する時間がもったいないのでとノアとネージュに乗ったまま王宮へ向かったが、帝都内をそのまま走り騒ぎとなり、王宮の門でもまた大正門と同じやりとりをすることになったのだった。








「父上! ただいま戻りました!」


「おぉ! よく無事で帰った!」


部屋の中で待つ父上は、私を見ると思わず立ち上がり目を潤ませる。心労からか疲労からか、少し痩せたようにも見える。

 父上の後ろに立つ宰相も涙を堪えているような顔だ。


「騎士団長もよく息子を守ってくれた!」


 ひとしきり無事を喜び合うとソファに座りお茶とお菓子が運ばれてくる。

 2ヶ月前は毎日のように食べていた菓子とお茶が特別美味しく感じる。


「それで、魔女は……?」


「見つかりました! 今リア殿と従魔達は客室に案内しております」


「従魔を客室に!? 従魔というのはグリフォンとフェンリルではなかったか!?」


 父上はグリフォンとフェンリルを王宮内に入れたのか!? と驚く。


「はい。従魔達は人語を流暢に話し、理性的です。私も驚いたのですがどうやら従魔のグリフォンとフェンリルは身体を小さくする魔法を使えるようです。

リア殿を客室へ、従魔達を中庭に案内しようとした所、リア殿について行くと言って急に小さくなったのです」


「そんな魔法を……」


「従魔の強さも凄まじいですが、リア殿の実力は本物です。

しかし、リア殿を探すきっかけになった数百年を生きる魔女という話はただの噂でした」


「噂!? で、では……!」


 魔女は見つかったが母上を治療する方法は見つからなかったのではないかと青くなる。


「先ほどもお伝えした通り、リア殿の実力は本物です。

数百年を生きる術はわかりませんが、母上の病を治療できるかどうかは一度見てみないとわからないとのことでした。

それにもし治療方法がわからなくても、リア殿の回復魔法は今まで私が見た中で1番でした。なので母上のためになるのは確かです」


「ではすぐに皇妃の元へ向かおう!」


「お待ちください。

父上、リア殿は治療をするにあたって条件を出してきました」


「なんだ!? 報酬か? 皇妃が治った暁には報酬をたっぷりと出そう!!」


「いいえ。リア殿からの条件は、ローブを脱がないこと、正体を探らないことの2つです」


 それを聞いた父上と宰相は難しい顔をする。多額の報酬を要求された方がよっぽどよかっただろう。


「……流石に危険ではないですか?

グリフォンとフェンリルという強力な従魔を2匹も従えているんです。他国の手の者の可能性もあります」


 確かに宰相の言うことは最もだ。だが……、


「実は私達とリア殿の出会いは森の奥で私たちが全滅の危機に瀕している時でした。

もしもこの国を狙う者ならばそもそも私たちを助けていないと思うのです。

それに王宮に入って何かするにしても、グリフォンとフェンリルがいればこんな手を使わず入れるでしょう」


「うぅん……。確かに」


 父上はしばらく考え込んだあと、いきなりガバッと立ち上がる。


「考えても仕方ない。実際に会って判断しよう。その魔女のいる部屋へ案内してくれ」


「かしこまりました」

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