第57話

「まず、私たちを助けてくれて食事まで振る舞ってくれたこと、感謝する。あそこでグリフォン殿とフェンリル殿に助けられなければ、そして魔女殿に回復してもらわなければ皆死んでいた」


 ありがとう、そう言って皇太子殿下は頭を下げる。


 皇族が頭を下げることなど本来あってはならない。

 思わず「頭を上げてください!」と言ってしまったが、皇太子殿下は本当に感謝しているんだ、と笑う。


「こちら側のメンバーの紹介をさせてくれ。

私はウィルフレッド・ラルージュ。先ほども言った通りラルージュ帝国の皇太子だ。

そして横にいるのがラルージュ帝国騎士団長のジルヴェスター・フォシュマンで、こっちにいるのが騎士団員。そして冒険者パーティーが3パーティー。

帝国1のSランクパーティーである金色の逆鱗、クレンセシアで活動するAランクパーティーのナイトクレッセント、そしてBランクパーティーである銀色の刃。銀色の刃は魔女殿と知り合いだと聞いているよ」


 ほわぁ〜、すごいメンバーだ!!

 平民から剣の腕1つで成り上がった騎士団長や竜人ゴルド率いる金色の逆鱗の噂は王国にももちろん届いていたし、どちらも物語や舞台にまでなっている。


 そして皇太子殿下。

 整った顔立ちにプラチナブロンドの美しい髪。瞳はブルーダイヤのように輝いており、身長も高く、程よく鍛えられ整った体躯をしている。

 だが何よりも素晴らしいのはその中身で、頭も良く学院を主席で卒業し、武術も得意で特に剣の腕が素晴らしく、皇太子として皇帝陛下の補佐も立派に務めている。皇太子として打ち出す政策はどれも素晴らしく、歴代1の皇帝になるだろうと言われているほどだ。


 まぁ噂だからどこまでが本当かわからないけれど、見た目の美しさは噂通りだ。


 実は私はこの皇太子殿下に子供の頃に何度かお会いしたことがある。

 王城でのパーティーでも何度かお見かけしたことがあるし、うちに来たこともあった。確かお兄様と歳が近くて仲が良かったのよね。

 お兄様に会いに来た時に私も何度か遊んでもらったが、皇太子になってからはお忙しいのか王国へは来ていない。


 まあ会ったことがあると言っても随分前だし、ローブも被ってるし気づかれないでしょ。

 私が国外追放になったことは噂が回っているだろうし正体は知られない方が良さそうだ。


「私の名前はリアでAランク冒険者です。リアとお呼びください。

こっちはグリフォンのノアとフェンリルのネージュです。

よろしくお願いします」


「あぁ、よろしく。

それで私がここに来た理由なのだが……、単刀直入に言おう。

私の母を助けてほしい」


 母? 母って……


「そう、わが国の皇妃だ。

母上は病を患っている。初めは熱が出たり身体がだるいと。風邪だと言われ薬を飲んでいたが治らず、次第に身体の痛みを訴えるようになった。

そこで痛みのある所へ回復魔法を使ったが、一時的に痛みが引くだけで完治はしなかった。

もう国内の医者や回復魔法使いではどうにもならず、セフィーロ神聖教国の教皇に手紙を送り神官を派遣してもらったがそれでもダメだった。

治癒に関しては世界一のセフィーロ神聖教国に頼って治せないと言うことは、もう治療法はないと言うこと。

それでも諦めきれず、今はもう自力で動けない

母上に回復魔法をかけ続けなんとか命を繋いでいる」


 皇妃様の容体はかなり悪いようだ。

 でもそこでなんで私に?


「そんな時にクレンセシアの領主であるエッカルト・クレンセシア辺境伯が父上に急ぎの面会を申し込んできたんだよ。

話を聞いたところ、クレンセシアにグリフォンとフェンリルを従魔にした冒険者が来たと。

グリフォンとフェンリルと言ったら物語に出てくるような伝説の魔物だ。従魔にしているなんて聞いたこともないし、1匹でも都市を落とせるほどの力を持つだろう?

だから辺境伯はその2匹を従魔にしている人間についても調べた」


 ひょぇ!?

 私いつのまに調べられてたの!?


「そうしたら、大森林の奥地で魔物に囲まれて暮らしているだとか、見た目は若く見えるが数百年を生きる魔女だとか、信じられないようなことばかりで。

でもグリフォンとフェンリルを従魔にしているなら大森林の奥地にも住めるかもしれない。

そしてグリフォンとフェンリルを従魔にするほどの力があるのは数百年を生きているからかもしれない」


 いやいやいや! 私は正真正銘の18歳です!!


「数百年を生きる魔女ならば命を長らえさせる方法を知っているはず。ならば母上を治す方法も知っているかもしれないと思ったんだ。

それでまずクレンセシアに向かったが、もうリア殿は家に帰った後だった。

そのまま延々といつ来るかわからないリア殿をクレンセシアで待っていては間に合わないかもしれない。

だから一か八か、リア殿が本当に大森林の奥地に住んでいるのに賭けてここまで探しに来たと言う訳だ」


 なんという覚悟なの! 大森林は生半可な気持ちでは来れない。

 それも奥地ともなると今まで歴史を辿っても来たことのある人は少なく、資料も残っていない。本当に命懸けなのだ。


「どうか力を貸してはいただけないだろうか。

報酬は用意できるものならなんでも用意する。この通りだ!」


「……お話はわかりました」


「ならばっ!」


「でも、私ではお力になれるかどうかはわかりません。

まず皇太子殿下が聞いたと言う噂通り、私は大森林の奥地に住んでいます。

そして見ての通りグリフォンとフェンリルを従魔にしている。

しかし、私は18歳。数百年を生きているというのは間違いです」


「そ、そんな……!」


  皇太子殿下は肘をついて額に手を当てガックリと肩を落とす。

 そんな様子に1ヶ月半共に命を懸けて戦ってきた他のメンバーもかける言葉が見つからないようだ。


 皇族として生まれ、王宮という最高の環境で大切にされて生きてきた人間が、大森林に入り1ヶ月半もかけて魔物と戦いながら命懸けでここまで来た。

 そして皇族でも貴族でもない私に頭を下げている。

できるなら助けになりたい。


「私、先ほどお見せした通り魔法はとっても得意なんです。

条件を呑んでいただけるのであれば、私にできることなら喜んで協力させていただきます」

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