第56話

家に入ると皆ぽかんと口を開けて立ち尽くす。


「こっちです。ここに寝かせてください」


 まとめて全員寝かせられるように家の中で1番広いリビングの床に毛布を敷き意識のない人を寝かせていく。

 ここ最近家の改造して広くしておいてよかったよ。前のままなら全員入らないこともないけどちょっと狭かった。


「すごい……この棚もこのテーブルも継ぎ目がないよ!

1本の木から削り出してるんだ!」


「凄まじいな。王宮でもあるかどうかというレベルの素晴らしい家具ばかりだ」


 自分が作ったものを褒められるのは嬉しいなぁ。


「えへへ、ありがとうございます。大森林は素材の宝庫なのでついどんどん作っちゃうんです」


「つ、作った!? この家具達を!?」


「はいっ! 魔法を使えばそこまで手間でもないんですよ。」


「そ、そうか……。一流の家具職人のような仕上がりだな。少し驚いてしまった」


 皇太子殿下はハハハと乾いた笑いを浮かべる。


「さて、動ける方達はこちらに座ってください。今お茶を淹れますね」


 とは言ったものの、皇太子殿下にお出しできるレベルのお茶がないっ!!

でも何も出さない訳にはいかないのでとりあえず手持ちの中で1番良さそうなものを淹れる。

 皇太子殿下も王宮レベルのお茶が出てくるとは思っていないだろうし、まぁ大丈夫でしょ。せめてもの気持ちでクッキーと焼き菓子もつけておこう。


「お待たせしました! お口に合えばいいのですが。」


「こ、これ食っていいのか!?」


「甘いものなんていつぶりかしらん!!」


 紅茶と一緒にお皿に盛ったクッキーと焼き菓子も一緒に置いていくと皆一様に瞳を輝かせる。

 皇太子殿下も嬉しそうにしているのでとりあえず一安心だ。


「殿下、まずは私が……」


 はっ、そうよね! 皇太子殿下ともなったら毒味が必要だわ!

 貴族社会から離れたといってもそんな常識的なことを忘れてしまうなんて。


「いや、いい」


「でもっ!」


「魔女殿が本気を出せばここにいる者などすぐにでも殺せるだろう。毒を使う必要などない。そもそも私たちは魔女殿に助けられたのだぞ?」


 皇太子殿下はクッキーを1枚手に取るとサクッと口に入れる。


「うん、美味しい」


 皇太子殿下が食べはじめたのを見ると他の人も次々に食べはじめる。


「リア! 俺たちの飯も出してくれっ! 夕飯の途中だっただろう!?」


「おお、そうだった! また腹が空いてきてしまったぞ。」


「今はダメだよ。もうちょっと我慢して」


「「ええー!!」」


 流石に皇太子殿下の前で夕飯をガツガツ食べるわけにはいかないでしょ!


「こちらは気にしないでくれ。

私たちが助かったのは2匹のおかげだし、そもそも夕飯の時間に来てしまったのは私たちなのだから。」


「おお! お前いいやつだな!!

リア、ほらっ、こいつもこう言ってるし飯を出してくれ!」


 ヒィ!!


「ネージュ!! 皇太子殿下に向かってそんな言葉を使っちゃダメよっ!」


「そんなこと言われても他に呼びようがない。名前も長くてよくわからん!」


 早くネージュのこの口を閉じさせなければっ!!


「アハハハハハハッ! そんなふうに言われたのは初めてだ!

私はウィルフレッド・ラルージュ。ウィルと呼んでくれ。」


「ふん、ウィルだな!」


「うちの子が申し訳ありません!!」


 皇太子殿下が気さくな方だからよかったけど、本来だったら不敬罪になってしまう。


「さ、では気にせず夕食をとってくれ。

むしろ命の恩人達に我慢させる方が嫌なんだ。」


 皇太子殿下にこれだけ言っていただいてるのに断るのもよくないはず。

 ずっと殿下についている騎士らしき方も止めようとしないし、本当にノアとネージュにご飯を出しても大丈夫そう。


「それではお言葉に甘えて失礼します」


 アイテムボックスからノアとネージュのお皿を取り出し2匹の前に置く。

 温かいままアイテムボックスにしまっておいたから出した瞬間に良い匂いがぽわ〜んと香る。


 ぐぅきゅるるるるるる〜


「ちょっと、ゴルド!」


「……いやぁ〜、すまん! 大森林に入ってからここ1ヶ月半まともな飯を食っていないからな。ガッハッハッ」


 1ヶ月半も!?

 でもそうよね。私はノアに乗って移動できるけど歩きで魔物を倒しながらだとそのくらいかかるかも。場所だって知らなかっただろうし。むしろこのメンバーだからこそ1ヶ月半という期間でここまで来れたのだと思う。

 言われてみれば皆痩せているような気がする。


「あの、もしよかったら召し上がりますか?」


「いいのか!?」


「もちろんです! 皆さんもどうですか?」


「いや、だがこの人数の分を用意するのは大変では?」


 皇太子殿下はこの中で1番身分が高いのに空腹の中こちらを気遣ってくれる。


「大丈夫ですよ。ほらこの通り! 私にはアイテムボックスがありますから」


 そう言って作り置きしておいた料理を次々と取り出してみせる。


「アイテムボックス!!……いや、魔女殿ほどの方ならば使えてもおかしくはないか。

正直言うととてもお腹が空いていたんだ。ありがとう」


 このくらいあれば足りるかな? と思って出した料理はあっという間になくなった。

 相当お腹が空いてたらしく、冒険者メンバーはガツガツと。皇太子殿下や騎士団の方も食べ方は上品だか料理を口へ運ぶスピードはとても速い。

 そして食べ物の匂いに釣られてか怪我が酷く眠っていたメンバーも次々と起きだし、さらに追加で料理を出すこととなった。


「ふぅ〜、食った食った! ご馳走様!」


 ゴルドさんはパンパンになった腹を満足そうにさする。


「リアちゃん、ご馳走様でした!」


「ご馳走様でした!」


 そう言うリーゼロッテさんもシメオンさんも食べる前よりも顔色がずっと良い。銀色の刃はBランクパーティーでこの中では実力が低いからか全員怪我で気を失っていたし、起きてからも出血が多かったからか皆顔色が悪かったのだ。 


「ノアちゃ〜ん! ネージュちゃ〜ん!」


 リーゼロッテさんはいつもの調子を取り戻しノアとネージュに埋まりモフモフと楽しんでいる。

 そして他のメンバーはそれをあんぐりと口を開け信じられないものを見るよう目で見ている。


「いえいえ! ご飯くらいいいですよ。

それにしても皆さんどうしてこんな森の奥まで?」


 そう何気なく聞くと、ご飯を食べて緩くなっていた空気が一瞬でピリッとする。


「それは私から話そう」


 そう言って皇太子殿下はこちらへ向き直ると、真剣な眼差しで口を開いた。

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