13. 手紙の依頼受けます

13. 手紙の依頼受けます




 私たちは夕食を食べて今『なんでも屋』全員がリビングに集まっている。みんなは真剣な表情をしている。そう、あのエイミーやミリーナですら。


 そしてテーブルには一枚の封がきられていない手紙。差出人は……?手紙の中身を確認すると私はその内容に目を通す。そこには短くこう書かれていた。


【ゴブリンソルジャーの討伐】


 ん?ちょっと待って。えーっとこれはつまり……。私が困惑していると隣にいたルーシーが私の持つ手紙を覗き込んで内容を確認する。ちなみに手紙の内容はこんな感じだった。



【依頼主】ルガーノ商会

【依頼内容】ゴブリンソルジャーを討伐してほしい

【報酬額】金貨50枚(前金で20枚)

【期限】炎の月 白の刻まで

【場所】王都より北東にある森

【詳細】詳細はこちらの手紙を持ってルガーノ商会へ


 ルガーノ商会?あぁ王都にも武器をおろしていた有名な商会ね。確か港町ミッセルに商会があったわね。それでなんでこのタイミングで私たちに依頼が来たんだろう。とりあえず詳しく話を聞かないとわからないわね。


「魔物討伐か腕がなるな!久しぶりにきた手紙の依頼だもんな!」


「なぁんだ。私はパス。寝てた方がマシだわ。」


「いやルーシー。あなたどんだけ寝るのよ?」


 私がルーシーにそうツッコミを入れると、それに反応したのかソファーに座っていたエイミーが会話に参加する。


「それじゃこの依頼やりたい人!手を上げて!はーい!」


 手を上げたのはエイミーとレイダーさんだけだった。確かやりたいこと以外はやらなくていいというのがこの『なんでも屋』のルールだったわね。まぁ今回に限っていえば魔物討伐だし、私も特に参加したいとは思わないから別に構わないんだけどね。


「もう!みんなつれないなぁ!そんなパンプキンみたいな態度しちゃってさ!魔物討伐くらい楽勝だよ!」


 パンプキンみたいな態度?どういう意味だろう。私はその言葉の意味がわからず首を傾げる。


「じゃあこの依頼は私とレイダーとアイリーンでやるしかないか。」


「待て待て!いつ私がやるって言ったのよ!」


「そんな焼かれたラディッシュみたいに怒らないでよアイリーン?」


 焼かれたラディッシュみたいってどんな例え方してるのよ……。でもなんかイラつく言い方よね。


「ほらアイリーンはここに来てから一度も手紙の依頼したことないでしょ?だから経験しないと!」


「それ強制参加って言うのよ?」


「そんなキャベツの芯みたいなこと言わないの!いいから参加ね!」


 はぁ……これじゃ何を言っても無駄そうね。仕方がない。今回は諦めようかしら。


 その後、私にレイダーさんとルーシーが手紙で来る依頼について教えてくれた。手紙で来る依頼は内密なものや危険度の高いものが大半らしい。なので基本的に冒険者ギルドには行かずに直接この『なんでも屋』に依頼がくるそうだ。


 そして翌日。私たちは準備をして山を下り港町ミッセルに向かうことにする。そしてここで一つ疑問が出てくる。


「あのさ。レイダーさんはわかるんだけど、エイミーは大丈夫なの」


「何が?」


「いやあなた魔物討伐とかできるの?昨日あんなこと言ってたけど……」


「あーあれね。確かにちょっと調子に乗りすぎたかも。ごめんね?」


 そう言って彼女は舌を出して謝ってくる。素直なのはいいことなんだけど、本当に反省しているのかしらこの野菜娘は。


「でも安心して!私は戦えないから!期待しないで!」


 それを自信満々に言われてもねぇ。不安しか残らないわ。


 それから途中で馬車を拾い、走らせること数時間。私たちはようやくミッセルの町に到着した。この町は港があり、海産物が有名だと聞いたことがある。町に入ると潮の匂いがしてくる。


 そしてしばらく歩くとルガーノ商会に到着する。私は早速中に入り受付の女性に用件を伝える。すると奥の部屋へと案内される。そこにはルガーノ商会の会長がいた。


 ルガーノ会長は50代くらいの男性だ。少しふくよかで優しそうな印象を受ける。しかし目つきが鋭くどこか威圧感を感じる。おそらく元軍人か何かだろう。


 私は席に着くと自己紹介をする。ルガーノ商会会長のルガーノは軽く会釈するだけで返事はなかった。どうも愛想の悪い人のようね。そしてなぜか知らないが私が話をすることになった。


「えっと依頼内容はゴブリンソルジャーの討伐ということでしたが間違いありませんか?」


「あぁ間違いない。ここから東、王都から北東の森の中に住み着いており、人々を襲っているんだ。北のアルスナ帝国に行く唯一の橋が渡れん。我がルガーノ商会は、アルスナ帝国の鉄鋼がないと武器が作れん。」


「なるほど。それで私たちに依頼したいとそういうことでよろしいでしょうか?」


「そうだ。お前たちは『なんでも屋』と聞いている。頼むぞ。報酬額は前金で20枚だ。成功すればさらに50枚の追加だ。それとこれは前払いだ。受け取れ。」


 ルガーノは封筒に入った金貨20枚をテーブルに置く。この国では金貨10枚あれば1ヶ月は生活ができると言われている。まぁ金額に関しては別に驚きはないんだけど、問題はそこじゃないのよね。


 私が問題視したのはこのタイミングだ。普通ならこのタイミングで依頼を出すというのはおかしいのだ。しかも私たちにわざわざ指名で依頼を出してくるなんて怪しさしかない。そんな私の考えなどよそにその金貨を握り締めてエイミーが話す。


「わかりました!私たち『なんでも屋』におまかせを!」


「ちょっとエイミー!」


「行くぞアイリーン。では失礼するルガーノ殿。」


 エイミーとレイダーさんは私の言葉を聞かずにそのまま部屋を出ていく。私も慌てて後を追うように外に出た。その後ろ姿をルガーノはじっと見つめていた。そしてルガーノ商会を出て広場まで歩いてくる。


「ちょっと2人とも!なんであんな怪しい依頼もっと慎重に確認しないの!?」


「確認も何もゴブリンソルジャーを倒せばいいんじゃないの?」


「それはそうだけど…」


「なぁエイミー、アイリーンあの男の目を見たか?まるで人を信用していないような目をしていた。明らかに裏がある依頼だ。」


 だから確認したかったのに!この二人は何なの!?少しは疑うことを覚えなさいよ!! 私は頭を抱えながら考える。正直今回の依頼は危険すぎる。


 相手はゴブリンとはいえ上位種になれば人間を遥かに凌駕する力を持っている個体もいる。もし上位種がいて群れで襲われたら危険だし、最悪死に至る可能性だって。それに他の魔物が住み着いている可能性もある。とは言え……この二人には何を言っても無駄そうだしなぁ……。


 私は深くため息をつく。


「はぁ……わかったわよ。依頼を受けましょう。ただし危険ならすぐに引き返すからね。いい?」


「もちろん!私は戦えないからよろしく!」


「魔物はオレが倒してやるさ!安心しな!」


 まぁ何かあっても、レイダーさんの実力は知ってるし、エイミーにはどっかに隠れててもらえばいいわね。こうして私は危険と分かっていて、この港町ミッセルの東にある森の中にいるゴブリンソルジャーを討伐することになったのだった。

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