NTRとしたら寝取られた件

ニュートランス

第1話

「彼女が出来た」

 昼休憩、彼がこの学校で放った言葉はつまりはそう言うことなのだろう。

彼とはもう10年の間柄であり、今の高校の至るまでずっと同じ学校を通ってきた。


 彼の名前は綾羽川盾鶴あばやかわたてつる。細身ではあるが悔しいことに私より幾分か格好が良い。そんな盾鶴と自分の間には血の盟約が交わされている。

それは“生涯独身で居ること”。

冒頭で彼が放った言葉はそれを大いに違反する行為だとお分かりであろう。


 そんな彼とは真逆の道を直走る人物こそ私、名前は負和敗戸ふわはいと。インテリの雰囲気を出したいが為に掛けている伊達メガネは今や私のチャームポイント。両親は何とも不名誉な家系でそれに見合った名前を付けたのだろうか。名前に負けという漢字と敗北という漢字が入っているのだ。それはそれは今直ぐにでも名前を変えろと抗議したい気持ちでいっぱいだ。


──彼女とは何なのか。到底許す気でない私は取り敢えず名前を聞いてみることにした。

佐々木桜ささきさくらさん」

「……⁉︎」

私は驚きのあまり椅子と一緒に後方へ倒れ込んでこんでしまった。

手を貸そうとした盾鶴の手を払い除け、自分の力で立つ。


「んで、何でお前のような奴が彼女と付き合えるんだよ」

彼は容姿こそいいがそれも中の高くらい。桜さんといえばこのクラスで1,2を争うような美人、マドンナ、高嶺の花である。

どんなに血迷っても盾鶴と彼女が結ばれることはあってはならないのだ。


 正直悔しい。悔しくて悔しくて堪らない。そんな時人間という生き物は悪知恵が恐ろしい程に働くのだ。私は良い事を思い付き、表面では盾鶴を応援する姿を見せてやった。

先に盟約を破ったのはそちらの方ではないかと自分自身の中にある善人を押さえ込み、完璧な悪魔の人格を形成する。


作戦はこうだ。

1.盾鶴の彼女だという桜に接触

2.わたしの華麗な話術で騙して信用を得る。

3.盾鶴の悪口と私に乗り換えないかと提案し、私の彼女にする。

4.盾鶴への仕返し成功

というもの。


 とにかく心は痛むがこうでもしないと私の怒りは治らなかった。

そうと決まれば私は直ぐに実行へ移す。


 桜はクラスのマドンナであるが故、いつ何処によく居るかとかはかなり割れていたのだ。

 私はその1つ、校舎3階にある自習室へと向かった。


 彼女は勉強の為よくここを利用するらしい。

ここは初めてきたが、近く中間テストが始まるので居るのは間違いない。自習室の中には確かに桜がいた。

中には彼女しかいない。私は周りに誰もいない事を確認開いた上で、忍足で自習室へと入った。


 軋む引き戸の音が私の存在を彼女に知らせる。

私は気付いていないような素振りを見せ向かいの席に座った。

怪しまれないよう持ってきた勉強道具をカモフラージュの為机に並べる。

暫く彼女との会話はなく自習室にはシャーペンと紙が擦れる音のみであったが私は本来の役目を思い出し遂に口を開いた。

「桜さん、は、よくここを利用するんですか」

まるでロボットのようにカタコトで機会的に喋る。この時、私は私自身のコミュ力を呪った。なに今更分かりきったことを聞いているのか。

「ここ人気が少なくて行きつけなんです。負和さん……よね? あなたもテスト勉強?」

流石はクラスのマドンナ。この状況を最善の言葉で切り返してきた。それに彼女はクラスの汚点である私の名前まで覚えてくれていた。今からすることを思うと心が苦しくなる。しかしもう引き下がれない所まで来ていた。汚点は汚点らしくするしかないのだ。

「ねえ桜さん、最近同じクラスの盾鶴と付き合ったんだってね」

「あー、うん。知ってたんだ」

「止めときなよ〜、この前彼が他の女と連んでたのを見てさ、あいつ見た目より性格悪いし、彼とは距離を取るのが良いと思うんだ」

これでどうだ。彼には持て余すほどの女は居ないし(そもそも女友達さえ見たことがない)勿論全てが嘘なのだが──いや、性格が悪いのは事実か。彼は彼女ができたと今日は1日中私を煽ってきた。それはもう性格が悪いに違いがないだろう。

「うんうん、それでも良いんだ。元から私と彼じゃあ釣り合わないってことは分かってる。それでも彼の方から告白してくれたのが嬉しかったの。それが片手間であっても、2番目でも」

「おいちょっと待て、釣り合わないってのはどういうことだ?」

「それは彼イケメンだし……」

驚いた。どうやら彼女は自分がどれほどに顔が整っているのか分かっていないらしい。不釣り合いなのは完全に盾鶴の方である。

「桜さんはどう思っているの? 本当に2番でもいいの?」

彼女の気持ちは変わりそうにないと思った私は少し揺りをかけることにした。

「それは……1番が良いですけども」

「それじゃあさ、俺と付き合おうよ。俺となら直ぐ1番になれるし他の女性に目移りしないことも誓う」

「ごめんなさい」

「ですよねー」

そんな私の告白は食い気味に否定された。少しつらいが、まあここまでは予想範囲内。織り込み済みである。

私は持ってきたカバンの中からペットボトルの水を取り出して彼女に差し出す。混乱し怪しまれているようであったが、桜は断れない性格であるが故に飲む他なかった。

「普通の水ですね……」

睡眠薬入りの水。手荒い手段ではあるが、これが1番効率的に盾鶴を懲らしめることができる。これは倫理的にどうなのか。バレたら犯罪になるのではないかと思考を巡らせたが、今の私はもう止まらない。感覚が麻痺していたのだ。

「あれえ……何だかあ……眠くなってえ……」

「おやすみ桜さん」

ふらふらと揺れる彼女に手を振りながら、彼女は机に突っ伏せた。


 やっと深い眠りについた彼女を椅子にロープで縛り付ける。流石に告白が成功するなんて微塵も思っていなかったので、私は眠った彼女と動画を撮り寝取った風を装うつもりであった。

録画するのはいいが何を撮ればいいのだろう。こんなことしてまであれだが犯罪に触れることはしたくない。ちょっと懲らしめるだけだから表面だけでいいのだ。

私は少しだけ彼女の服をはだけさせ、カバンからスマホを取り出し録画ボタンを押す。

──REC

(桜にいやらしく触れながら)

「盾鶴、すまんが君の彼女は私の物になった。取り戻したきゃ、俺ん家に来いや」


──録画終了

いいものが取れた。私は動画を確認してから彼女の縄を解き、あたかも勉強中に寝落ちをしたと思わせるように細工しておいた。実に完璧な作戦である。


 午後4時。誰も居ない自習室で、やることをやった私は彼女を起こすことにした。暫く横に揺すると微かに反応を示した。

「おはよ。桜さん」

「あ───おはようございます……」

彼女は目を擦りながら自習室の時計を見て飛び上がった。

「私、何時間寝てました?」

「2時間くらい? あまりにも気持ちよさそうに寝てたからさ、そのまま寝かしておいたの」

「迷惑を掛けました……」

桜は申し訳なさそうに深々とお辞儀をした。

「全然。それじゃあ、時間もあれだし帰ろっか」

「そうですね」

そう言って私は自習室の鍵を閉め、鍵は返しておくからと先に帰らせる。彼女はななにも気付いていなさそうだ。


 帰り道、私は私に対し作戦成功の健闘を讃えた。

結果として作戦は大成功。桜さんにはバレていないみたいだし、今日入手したデータは直ぐにメールで盾鶴に送信しておいた。そして家に来た盾鶴にネタバラシして終了。我ながら最高のシナリオだ。

あいつが泣き叫ぶ顔が脳に浮かんでくる。私は悪魔のようにケタケタと笑いながら家へと帰った。



 30分後、彼は意外にも早く訪問してきた。私は笑顔で彼を向かい入れる。

しかし何かがおかしい。彼はの表情には憎しみはなく、私と同じよう笑顔であった。不思議に思いながらも私は自分の部屋に招待する。

「さあ、今日はどんな御用件かな? 盾鶴くん」

盾鶴が来たら直ぐにでもネタバラシをするつもりであったが、今はもう少し泳がせてみることにした。

「あ〜、あの動画のことか。見たよ。敗戸は凄いことしたね」

彼のあまりに危機感のない話し方に私は焦りを感じる。このままでは今までの努力が無駄になってしまうと。

「盾鶴、君は彼女が友達に寝取られたんだぞ? なんでそんな流暢にして居られるんだ」

「そりゃあまあ、滑稽だなって。まあまずこの動画を見てくれよ」

そう言って彼はある動画を私に見せた。そこには誰もいない自習室で女子生徒を縛り上げ、動画を撮っている私であったのだ。私の汗は一瞬にして凍りつく。

「お前……まさか」

「そう。偶然何だけど、その現場に丁度居合わせてさ、黙って動画撮ってたのよ」

「じゃあ助けろよ!」

「敗戸優しいし、流石に一線は超えないかなって」

「でも彼女が縛り付けられてたら普通助けるだろ!」

そう言うと盾鶴は私に語るようにして話し始める。

「敗戸は気付いてないかもだけど、俺結構モテるんよね」

「聞いたよ。だから許せない。あんな約束結んでおいて」

「でもさ、俺、そんな女性が好きじゃないんだ。どうしても好きになれない」

「そ、そうなのか」

てっきり女性のこと大好き人間なんだと思っていたがそうではないらしい。それじゃあ何が好きなのか。

そう思っていた時、彼は見せてきた動画をチラつかせながら私に言った。


「俺、実は男が好きなんだ。桜さんに告白したのも、付き合えば何か変わると思った。でもやっぱ自分に嘘は付けない。だから、僕と付き合おうよ。この動画がバラされたくないんならね」


 私は混乱し、考え、考え、考え、考えた末に私の脳はキャパ上限になり考えるのを止めた。









 




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